第百十七話改 一人は皆のために
約束の10日まであと1日、人々の救助と帝国の進軍を遅らせる遅滞戦闘に努めていたデュプレ達に広域に伝達可能な魔導無線帯に暗号化すらされていない一文が伝えられた。
作戦名【ウヌス・プロ・オムニブス】。
暗号化がされていない為、帝国にも伝わった途端の事だった。
まずもっとも自分達が安全だと思い込んでいた【アルキュミア・キマエラ】が王都へと歩みを進める中、その作戦の初動とも言える行動が始まった。
深夜であるが為に見る事がほぼ出来ないものの紫色の尾を引きながら隕石か流星の如く、高高度から落下するかのように急降下してくるたった1機の魔導鎧。
それがフォルティッシムス王国内に存在するうちの9体の【アルキュミア・キマエラ】へと襲い掛かった。
それも元ディジトたる各総隊長補佐機である【フォルティスI】シリーズの改良品であった。
元第一騎士隊総隊長補佐のイーオン大佐が乗る【フォルティスI・プグヌス】は拳を突き立て一撃で粉砕し、元第二騎士隊総隊長補佐のアルビオン大佐が乗る【フォルティスI・サピエンス】は【アルキュミア・キマエラ】のみならずその後ろを金魚の糞の如くついてきていた帝国軍ごと広域の風属性魔法によって竜巻を起こし空高くへと巻き上げた後、地面へと叩きつけ粉砕した。
元第三騎士隊総隊長補佐のカリブルヌス大佐が乗る【フォルティスI・グルス】は自重が魔導鎧の中では超重量級に分類される事から、そのまま【アルキュミア・キマエラ】の頭上に勢いをつけて落下し、そのまま踏み潰し粉砕。
元第四騎士隊総隊長補佐のフルカ大佐が乗る【フォルティスI・ファルクス】は手に持つ巨大な鎌によって【アルキュミア・キマエラ】を両断の後、素早く切り刻んだ。
元第五騎士隊総隊長補佐のアーラ大佐が乗る【フォルティスI・アッスルトゥス】は手に持った槍を【アルキュミア・キマエラ】の頭に刺し貫きそのまま槍を素早く何度と無く突き立て破砕し切り、元第六騎士隊総隊長補佐のインサニア大佐が乗る【フォルティスI・Sアルマトゥラ】は二丁持つ魔導拳銃からまるでマシンガンの如く、魔法を撃ち出し地面に降り立つまでもなく、【アルキュミア・キマエラ】の再生が行われるよりも先に細かくなるまで撃ち貫いた。
元第七騎士隊総隊長補佐のサイヌス大佐が乗る【フォルティスI・グロブス】は肩に背負う魔導砲から撃ち出した魔法砲弾によって粉砕し、元第八騎士隊総隊長補佐のアルゼンタム大佐が乗る【フォルティスI・Sエクエス】は長尺の魔導銃によって一撃で貫き、元第九騎士隊総隊長補佐のアクィラ大佐が乗る【フォルティスI・ピュロボルス】は落下の勢いで【アルキュミア・キマエラ】の頭部に【マギ・ピュロボルス】を埋め込み、そのまま全身に【マギ・ピュロボルス】をつけ一気に爆破、跡形もない程に吹き飛ばす半ば派手な演出のような攻撃から始まったのだった。
これは帝国軍に対する、圧倒的な戦力の投入と反撃の狼煙であり、王国のここまで持ちこたえてくれたデュプレ達に対する反撃戦力が完成したお披露目でありここからは王国は帝国を圧倒するという言葉ではない、行動によって示したものであった。
多くのデュプレからすれば期待を寄せるのはどうしても有名である彼等9人であり第一〇一騎士隊そのものに期待を寄せるのは流石に無理があった。
だからこその彼等9人だけがこうして目立つ行動をする中、それ以外の第一〇一騎士隊員達は別の個所で暴れていた。
アシュリンとドルーは未だ燃えるインテル王国とフォルティッシムス王国との国境地帯に新たな魔導鎧である二機の【フォルティス・アーラ】で現れ、対地、対空へと魔導銃の銃撃により、元々魔導飛空艇でインテル王国を乗り越えやってきた為に退路が無いデシデリウム帝国軍を次々と撃破。
さらには共にやってきた元第四騎士隊のフォルクス中尉の【フォルティス・ホムンクルス】が現れ、空には魔法による弾幕を張って地上には絨毯爆撃を行い、圧倒するように殲滅していった。
そして国境沿いをアシュリン、ドルー、フォルクスの3人が常に高速で移動しつつも、インテル王国側からやってくる帝国軍を常にけん制と撃墜をし続け、王国内への侵入を防ぎつつ9人の元総隊長補佐による、王国内に残っている【アルキュミア・キマエラ】と帝国軍の残党狩りに動いた。
急襲から日が登り、落ちきる前には王国内の占領された土地の約9割を奪還、デュプレもそれに追随するように砦や街、村等の残党狩りに動いた事で翌朝にはフォルティッシムス王国からほぼ全ての帝国兵の排除に成功した事を国内に通達したのだった。
当然デシデリウム帝国側は僅か2日で状況を5分、というには難しい程の致命的な敗戦に軍本部は怒りを表しした。
何しろ帝国が保有する戦力の5割以上が2日で消え、他の国と接する国境の維持を考えると王国に投入出来る戦力は2割と残らなかった為でもあった。
そして彼等もまた腐っていた、ここまで第三世代機を投入してきて圧倒していたものが一気に押し返された事を第三世代機と【アルキュミア・キマエラ】という確かにフォルティッシムス王国の王都テッラ・レグヌムへと歩みを進め王国からすれば脅威ともなっていた筈が一転。
帝国にとって指示や操作すら不可能な人工的な魔物の存在に頼った事自体が間違いだと【アルキュミア・キマエラ】に頼った事自体が間違いであった、とその存在すら否定し始めた。
それはただの借款であり、いずれは返済しなければならない。
アビス武器商会会頭であるアビスとアビス武器商会に全ての責任を擦り付けてでも借款を無くしたい等という非常に身勝手な理由と、原因が帝国軍そのものだとした場合、自らの首や物理的に危うい、といった理由でもあった。
ただ彼等は所詮、軍本部で閉じ籠もり安全な場所から命令するだけの存在でしか無く、それも帝国軍の各所から集まった情報だけを精査し、考えるだけの存在であり決して現場を見てきた者達では無いが故。
同時に投入後すぐに帝国に戻し、虎の子としてきた切札を出すべくだと判断した。
それが超大型魔導戦艦【インビクタス】と小型魔導回転翼艇【ヘリコ・プター】。
さらには鹵獲した2機の魔導鎧【フォルティス・AM・ペルソナ】と【フォルティス・S・リベロ】だ。
特に【AM・ペルソナ】と【S・リベロ】は世界でも希少な空を飛ぶ魔導鎧と考えており、これらによるフォルティッシムス王国の王都急襲。
これこそが帝国の勝負手であり、最善手だと考えていた。
これで何とも出来なければ……皇帝は僅か10歳の子供であれど、その実権を握っているのは帝国軍であっても、実情は先代皇后である現皇帝の実の母であるマイヤラー・インペラートル・デシデリウムであり、これ以上の失敗は許されない。
しかし彼ら以上の上手が存在した事で帝国軍はここから一気に崩壊への道筋を辿るしかなかった……。




