第百十五話改 再始動へのカウントダウン その4
それがたとえ甘言であろうと、飴の後に鞭が待っていようとも今のフォルティッシムス王国軍にとっては第一〇一騎士隊へと編入された元ディジト頼みである事は軍属としては恥じるべきであっても、命をむやみやたらに捨てたいと思う者等もそう居るものでなければそれぞれ家族の居る者達も居る。
その犠牲を可能な限り減らすべくデュプレが命懸けでデシデリウム帝国軍の脚を鈍らせている中、危機感の薄い人々も居た。
「ちがーう!ここの魔導陣はここに繋がり、ここに影響する。そしてここの魔法陣はここに繋がって……。」
「ええい!俺等は学生か!今更こんな授業を受けて何になると言うのだ!!他の連中はああして模擬戦をしているというのにだ!!」
第二大隊の大隊長たるアラカンド少尉と第二第三中隊の11名は整備に対する座学の真っ最中だった。
「学生の頃サボったツケだろ?そんなに模擬戦をしたいならしてくれば良い、但し生身で戦ってこい。座学と実技の両方が終わるまで魔導鎧と魔導軽鎧の使用は禁止だ!」
「貴様、馬鹿か!生身で勝てる訳がないだろうが!」
「ほぅ、てめぇ勝てる訳が無いと端から決め付けてかかるのか。魔導鎧も魔導軽鎧も無ければ生身で戦うしかねぇ!その時に構造1つ知らなきゃ勝てねぇんだよ!!いざという時に相手の魔導鎧や魔導軽鎧の基幹部分を潰して使い物にする事位も出来ねぇ奴が何言ってやがんだ。デュプレ(二桁)にゃ既に魔導軽鎧すら数が足りずに配備されてねぇ連中も居て、そいつらが死地で戦ってんだ!てめぇそいつらに生身で勝てねぇって本気で言うつもりか?」
「ぐっ……。」
「たとえばテッラ・レグヌム騎士団で使っている魔導軽鎧ならこの部分、第一〇一騎士隊の魔導軽鎧ならこの部分を壊せば魔石の補助が切れる。その瞬間から魔導軽鎧はただの重いだけの鎧に早変わりで、こんな事は国軍科の一年の座学内容だ。それすら知らずによくディジトになれたもんだな。これも御貴族様の金と権力の賜物だろうが……こんなもんこれからのフォルティッシムス王国軍にとっては何の意味も成さねぇ、第0騎士団入りで当然だ。それが嫌なら必死で覚えろ!」
これはアラカンド達だけの問題ではない。
元第四騎士隊総隊長補佐のフルカからすれば8割以上の魔導騎士がこういう状態であり、たまたまこれまで勝てる相手とだけやりあっていた。
そうアラカンド達に伝えた所で上手く伝わらない、だからこそ全員に魔導軽鎧を着せ、それを実際にやってみせた。
それもフルカはたった1人で生身のままで残りの11人全員が完膚なきまでに叩きのめされるもそれでも納得しないアラカンド達にフルカは元部下でもあるフォルクス中尉を引っ張ってきた。
「え?俺ですか?」
「ああ、お前は元第四だから俺の教えが染みついている。まぁ少々小心者なところがあるがアラカンド達に比べれば段違いに強い、それを見せてやれ。」
「その前に何で俺はここに居るんですかね?」
そもそもフォルクス中尉はカナオ達に魔導鎧を奪われそのまま乗ってきた結果、あれよあれよとこの模擬戦に参加する事にまでなっていた。
「ああ、総隊長が許可しているし俺も問題ねぇと思っている。模擬戦なんざ3日もあれば癖くらい見抜けるだろ?ここで数分時間を潰した所で問題ねぇ筈だ。」
「いや、まぁ3日は少々無理かと思いますがギリギリまで粘りますが……本気で言ってます?」
「フォルクス、普段は貴様貴様言ってる癖にこういう時は本当、小心者なところが出てるな?」
「フルカ大佐とやった所で300に1つ取れれば良い方ですから……。」
「300に1つだと……?」
「ああ、貴様は別だ。貴様とやりあった所で負ける気などせぬわ。」
「貴様、言いおったな!?」
「事実を事実として言ったまでだ。」
そこからはほぼアラカンドが取っ組み合いを仕掛けるもフォルクスはその全てを捌き切った。
それも初日の魔導鎧での模擬戦を彷彿とさせるような全てが初手から転がされ、無様に倒れ込むアラカンドの姿ばかりが皆の目にも映る事となった。
「これが第四と第五の差だ、解ったか?解ったなら座学に戻るぞ?」
2日目、アラカンド達は整備に関する座学に実技だけをする事となり、模擬戦へと参加する事が出来ない中、ドルーとアシュリンが早くも模擬戦で1勝を取った。それも1日目は見に徹し、2日目の初戦でそのまま勝ったもので少なくとも9人の元ディジト総隊長補佐達と互角なまでの戦いをしての1勝だった。
そしてアラカンド達が参加出来なかった事で模擬戦はハイネル大尉とフォルクス中尉の2人だけとなっていたが惜しい所までいくものの、1勝をもぎ取る事は出来なかった。
3日目、アラカンド達は点検整備に関する座学と実技に集中させられる中、ハイネル大尉が勝ち抜け4日目には操縦の座学が行われる中、フォルクス中尉が勝ち抜けた。そして5日目、ついに操縦かと思われるも実技から入る事となり11人居るまだ勝ち抜けていない者達にマンツーマンで教え込んでいく中……。
「何故、俺の担当が貴様なのだ……。」
「御託は良いからさっさと動かせ。」
アラカンドには当然のようにフルカがついた。
最初はフルカは全く口を出さずにアラカンドの操縦を見ていた中、途中から操縦を変わるとアラカンドは驚かされた。
第三世代機である【ホプリテスDB】の4つのハンドレバーとフットレバーを巧みに操るだけではなく一切の無駄が無い、言動とは異なる程の繊細かつ正確な操縦。
何よりも流している魔力の少なさにも驚いていた。
「これが魔導鎧の操縦だ、流す魔力を少なくすれば補助の魔石の消費量も自然と少なくなる。また各関節は最も壊れやすい。大胆な操縦と豪胆な魔力の流し方も結構だがてめぇの場合は無駄になっている部分が多過ぎる。それと勢いがあり過ぎだ、余分な操作をした部分を繊細に戻しているからまだなんとか成立しているがその繊細さは余分にレバーを踏み込んだりする為じゃ無く狙った位置で止める為に使え。魔導鎧の動力は魔石と操縦者の魔力だが、動かすにあたっては操縦者の体力も気力も使う、そこまで考えてやれ。」
そして操縦の実技が終わった11人に翌日の6日目、彼等は勝ちを拾う事は無く翌日7日目も勝てず8日目、そして事実上の最終日となる9日目……。
アラカンドと第二、第三中隊、さらには第四中隊の面々も最後まで勝つ事が出来ず、この時点で次の任務の不参加がが決まった。




