第百十二話改 再始動へのカウントダウン その1
私は第五騎士隊総隊長補佐、アーラ・フォン・アンジェルース大佐だ。
今から少し前、所属する第五騎士隊に解散命令が出た。
その理由がデュプレたる第十八騎士隊と我等が第五騎士隊を管理担当するコホルト陸軍少将の一声で決まり、かつその原因が第一八騎士隊の所為だと知り、総隊長は荒れに荒れていた。
内容を聞く限り、第五騎士隊が解散としなければならないとは到底思えないものだったが恐らく将官同士の収め所として利用されたのだと推察する。
それはそうだろう。
ディジト等と普段から偉ぶろうとその実はデュプレのような連携1つ取れない本当に魔導騎士なのかと思う位の連中が殆どなのだからな。
総隊長は金と実家の権威を傘に成り上がった多少は上級学校で学んだようだが、指揮も操縦技術も素人に毛が生えた程度のもので一流なのは傲慢さと横柄さ、自惚れに見栄とどれもこれも騎士に刃必要のないものばかりだ。
それを支えているのはどのディジトも私も自負はしているが、皆一流を自負している総隊長補佐の力による所が大きい。
だがいくらたった一人が強くとも部隊はそれだけでは成り立たない。
だからこそ私は指揮と言う名の彼等の自尊心を傷付けぬように指揮を執り、その穴を自らが埋める事でディジトとして恥じぬ戦いを繰り広げてきた。
稀に総隊長「殿」が気まぐれに指揮を執る事もあるがそれも黙って受け入れる以外無かった。
同じ大差同士、そうであれば補佐である私より総隊長たる方が上である以上、軍では逆らい様がない。
もしここで逆らったとして。
その割を食うのは真面目に実力で上がってきたほんの僅かな失ってはならない本物の騎士達だからだ。
彼等は中隊長、小隊長に収まる器が多いものの大隊長等になれば総隊長の忖度で決まる実力主義とはかけ離れた実態がある以上、多くが下につくしかない。
それでいて多くは四散隊等に属するのだから真っ先に命を懸け、どうでもよい連中の為に死ぬ事になる。
それが前代未聞の有事が起きた事で急遽第五騎士隊が一時的に復活する事となった。
デシデリウム帝国による宣戦布告、それと共にインテル王国を灼熱の地へを変えると同時に我等がフォルティッシムス王国へと攻めてきたとの事だった。
ただそれだけであればわざわざ復活させる必要など無い。
残りのディジトだけで十分だ。
だがデシデリウムの連中はどこから持ってきたのか。
フォルティッシムスの保有戦力を遥かに凌ぐ魔導鎧、魔導軽鎧に魔導飛空艇を持ち込んできたのだ。
さらに巨大な魔物である【ゴーレム】まで湧く始末にこうもなれば最早、第五騎士隊だのディジトだのと言っている暇など無い、私は復活の為の招集を受け、戦場へと立った。
だが下らぬ戦いになった、総隊長はデシデリウムの軍勢や【ゴーレム】を見る否や震え、怯え。
私に傍から決して離れるなと厳命し隊員達を碌な指揮も無いまま死地に送り出すというありえない手法を取った。
まともに指揮も出来ない癖に、と止めるも逆に叱責され、私の命令に従った者が居た場合戦後、命令違反として処断する。
そう言われれば隊員達も私がなんとかしようとも指揮の1つも取れぬまま、ただ震えて使い物にならない総隊長を私はお守りをする等というくだらない事をしに行ったまでに過ぎなかった。
結果はどこのディジトも肝っ玉の小さな総隊長のせいで満足に動けないままの撤退。
それも失われてはならない騎士達に撤退の為の遅滞戦闘たる殿を任せなければならない結果に彼等の命は犠牲となったのだ……。
そして王都から招集を受けた後、待っていたのは総隊長ではなく、我等総隊長補佐に対する叱責と責を問う声ばかりだった。
将官連中は少なくともディジトの真実が我等総隊長補佐によるものだと解った上で将官共と総隊長の責を一手に我等に押し付ける腹積もりのようだ。
だがそれに待ったをかけた人物が三人居た、一人は近衛法務騎士隊の隊長であられるルキア少将殿。
一人は表向きは近衛王剣隊を名乗る暗部騎士隊の副隊長であられるニャンコ准将。
最後の一人は先王であられるセネクス・オブ・フォルティッシムス大元帥殿。
この三人がそれぞれ部下を引き連れ、一斉に将官共を捕縛したのだ。
その罪状は聞くに堪えがたいものだった。
禁制品の製造、国内に居る人々を捕縛しての人身売買、それに関わった召喚の中には我等第五騎士隊を担当していたコホルト陸軍少将も居たのだ。
不明瞭な金の流れと共にディジトへの優遇されたような装備供給は最初はデュプレを絞り上げそこから供給されていると思ったが、それにしてはあまりにディジトが優遇され過ぎているとは思ったがよもや悪に手を染める以外に民すら売っていたとは……。
しかしそれ以外にも多くがその場で露呈した。
カデーレ伯爵領の領都カウウスで商いをしていたボイルス商会。
ここ最近新設されたトレス、第一〇一騎士隊の総隊長がかつて衛兵を務めていた地において禁制品が作られ此度の戦争で犠牲となった、とされるサムルート男爵も人身売買に手を染め、その黒幕がかのインテル王国との戦いの地となったハルキナを治めるヴィセラ辺境伯でもあられるヘイリンド・フォン・ヴィセラ陸軍中将その人だったのだと……。
かのインテルとの国境に地下通路を掘り、インテルを経由しデシデリウムへと作った禁制品を輸出。
他にも闇商人へとフォルティッシムスの民のみならずエルフや獣人などを愛玩の為、と売っていたらしいがその事実が実はまやかしであったと知らされ彼等は愕然とし、膝から崩れ落ちる程の事実が告げられた。
全ては【永久魔力機関】なる永久的に魔力を生み出し続ける魔導具を製造する為の実験に使われ、その失敗作がインテルの王都を消滅させた【マギ・ピュロボルス】だという事。
そして【永久魔力機関】の存在を知られぬようにこの戦争で誤魔化すように作られたのが数多の【アルキュミア・キマエラ】という【ゴーレム】達だった。
そのどれもこれもが人を素材として作るという何とも人とは思えない所業に私は歯噛んだが事実は物語より奇なり、とは良く言ったものだ。
ニャンコ准将は何か1つの小さな掌に収まる程度の魔石に近いものを取り出し、こういったのだ。
「にゃすが持っているのが本物の【永久魔力機関】にゃす、これを作るのに人なんて一切必要ないにゃす。つまりお前達のしていた事は人身売買ではなくただの研究という名の人の命を奪った挙句に【マギ・ピュロボルス】というさらに人の命を奪う大量殺人の幇助を行っただけの無意味なものにゃす。」
その事実と共に彼等が家族と共に逃げる算段をしていた事、特にヘイリンド陸軍中将は【永久魔力機関】以外の事実は知っていたようで、国外逃亡も企てておりその罪も含めてこの場で死刑執行が為された。
そしてこの日、全てのディジトの活動が戦争の終了まで凍結される事が宣言されたのだ……。




