第十一話改 衛兵さん、集団暴行を受ける。
領都カウウス南門部隊は4部隊存在する中、3部隊は2勤2休で1部隊だけ6勤1休、うち新人は7勤と労働時間も含めてブラックこの上ないのだけど1つだけどうやっても変わらないものがある。
それが年給、つまりお給料である。
衛兵の査定は総隊長、副隊長、部隊長、部隊長補佐に役職手当が乗るだけで、あとは年功序列。
つまり衛兵の年齢で給料が一律で決まっている事。
時給換算?それを言いだしたら身も蓋も無い訳で1年のお給料が年給として決まっていてそれが13で割って毎月支払われる。
それも支払先は銀行業務と同等の業務を行っている独立機関であり、商人が登録する商業ギルド。
この金額だけは上官が弄り様が無いのです。
だからこそ、私は軍属として衛兵としてあるべき仕事をする事にしているのです。
「はい、次の方ー。そのまま馬車を端に寄せてくださーい。」
「待て!新人!この馬車は……。」
「先輩だろうと何だろうと禁制品の持ち込みを見逃すなど賄賂でも貰っているかと疑われるので止した方が良いですよ?はい、止めたら荷台の二重底をさっさと外して中に入っている禁制品の草類を全部出してくださいねー。私の鼻には臭くて臭くて仕方ない位匂ってますよー。」
それが街一番の商店主の馬車であろうと幅を利かせていようと、衛兵に裏で賄賂を渡して見逃させていようと関係ない。
禁制品は禁制品、どんな理由が許可証でも無い限り通す訳にはいかないし、全部がボッシュ―トである。
「はい、次の方ー。そのまま入街税の支払窓口へー。その冒険者登録証、期限切れ起こしてますので入街税の免除対象になりませんよー。」
訝しい顔をしている男性だけど、世界的に冒険者と商人は入街税を免除されるのは基本高額納税者であるのと冒険者が登録している冒険者ギルドそして商人が登録している商人ギルド経由で納税されている為で期限切れを起こしているのであれば冒険者でも商人でも非ず。
いくら怖い剣幕で捲し立ててこようと通れないものは通れないのです。
何より入街税の使い道を知れば見逃す事なんて出来ません。
入街税なる税金があるのは、馬車が通ったりする街道の整備であったり私達衛兵の年給の財源であり、それを払わず通り抜けようなどただの脱税ですからね?
「はい、次の方ー。そのままお入りくださーい。」
「待て!そいつらは止めろ!」
「え?この方たちはフォルテッシムス王国の国民でキチンと国民証も持っています。止める必要性がどこにあるのですか?」
身なりがそれなりに悪い事等様々な理由付けをし止めた挙句、通らせる為の袖の下なるお金でも取ろうとか地球のどの地域の悪習なんだか、と思う位だ。
衛兵は確かに薄給だけど、街住まいの平民と比べて遜色のない金額を貰っているのだからそんなものに頼る位なら別の仕事をしろと思う位だ。
それに毎年仕事の内容にそう影響を受けずに昇給していくのだからまさに昔の公務員的な?
「よって通って大丈夫ですよー。はい、はい、大丈夫ですよー。衛兵さんは誰にでも公平公正ですからー。はい、次の方ー。」
なんて事をしていたら上官に超怒られた。
禁制品の入荷を門で止めたものだからその為の捕縛と書類仕事が増え、さらに領都カウウスきっての商店の1つが廃業。
期限切れの冒険者を止めた事で冒険者には睨まれるし賄賂を受け取っていた衛兵からは睨まれるし、お咎めは無いし袖の下を受け取るチャンスを潰しに潰している私は法の順守する正義マン、もといウーマン状態。
それによってこれまで享受を受けまくっていた人達からはそれこそ変に正義を気取る女、とばかりに見られる程にこの国は腐っているのかと思うも彼等には私を不名誉除隊、つまり一般に言う懲戒免職を行うだけの任命権限を持たない為、辞めさせる事も出来ない。
どうにかしようにも具体的には、法規違反や職務上の義務違反に職務懈怠、全体の奉仕者としてふさわしくない非行などといった犯罪を犯した事実も無く、本来あるべき衛兵としての行動を取っているだけなので、止めようが無いのです。
だからこそ、私を痛めつけたかったのだろう。
訓練、と称して呼び出しての集団暴行という名のリンチ。
仕方が無いので素手でお相手してあげた。
「う、あぁ……。」
御覧の通り、誰も彼もが武器や防具を放り出し地面へと寝そべる体たらく。
長年こうして腐り、鍛えるという名のそこそこで満足するようになった連中と現役で騎士を目指そうとしている私との差は歴然だった。
使われた木の剣や槍は折れ、盾は破壊され投げつけてきたワインの瓶は足元で割れ砕けているのも全て私がやった事だ。
それでも武器1つ持たずに、というと語弊があるけど革手袋や足袋等の袋系装備を身につけている私にとって衛兵程度なら有象無象の類でしかない。
「まともに衛兵している私と、腐りに腐って鍛えるにしてもそこそこ自己満足の域に収まっている貴方達とじゃこれだけの差がある訳ですよ。気に入らなくて追い出したいなら、来年の騎士昇格試験の推薦でも私に誰か出してくれれば来年私はここから居なくなっていると思いません?ま、推薦が無ければ薙いで配属権は衛兵如きが持つものじゃありませんから。来年、再来年も宜しくってなりそうですけどね♪」
とりあえず片っ端からカウンターを入れてあるので誰も彼もが立ち上がろうにも立ち上がれない程に痛めつけたので少なくとも言い返しがこの場であるとは思えない。
だけど推薦が貰えないであろう私にとって推薦を取る為に手段なんて選ぶつもりはないしそもそも正当な衛兵の仕事を全うしただけである。
だからこそ来年の推薦枠を彼等が泣いて上官にでも頼みこみ、私は騎士昇格試験へでも送り出してくれれば。そのつもりで、私はあえてリンチだと解っていながらこの場に立っている。
だけど不遜な気配はすぐに解る。
「言っておくけど、ここで金属武器を持ち出したら……解るよね?」
これはこの世界ではかなり一般的なものだ。
帯剣、鞘に納めた状態ならまだしもそれを抜けば殺されたとしても言い訳が立たない。
まだこれが訓練の体をしていて、木製武器だからこの程度で抑えているのだから金属武器が出てきた途端、殺されても文句など言いようがない。
しかも証拠なんていくらでも出る。
魔力は身体の中に常にあり続ける事は無い。
大気から魔力の素となる魔素を呼吸と皮膚呼吸で吸収し、体内で魔力に変え、放出する事で魔法は成立する。
しかし魔素は呼吸と共に体内で溜まり、魔力に変換出来ないと人々は基本身体に異常を来たす為、微量の魔力を放出している。
それが触れた者等に残ったものを魔力の残渣、と呼ぶ。
軍隊などではその残渣から誰が武器を扱ったのかを調べる方法が存在している。
地球で言えば指紋であったり、DNA鑑定に近いものだ。
そして訓練次第で短い時間ならその魔力放出を止められるし一部分だけ出さない方法も取れる。
誰が武器を手に取ったかなんてすぐに解るし私に擦りつけようとしても手だけ魔力の放出を止める事なんて5歳になる前から知識として知ってもいたし、今では自由自在に出来る程に訓練してきている。
それだけでなく、残渣を利用してこのような事すら出来る。
近くにある、折れた木製武器に防具、割れたワイン瓶。
それは私が破壊したのだから私の魔力残差が残っている。
その残渣を新たな魔力で動かす事位簡単な事なのだ。
私の周囲にはそれらが浮き、そしてユラユラと浮いている。
魔導騎士となるにはこれが出来ないといけない。
魔導騎士とはただの衛兵の上位では無くその魔力を自由に操る事で魔導鎧なる10メートル級の巨大な金属鎧を操る事が必須となるのだから……。
「私は決して衛兵としての仕事に手抜きなんてしない。厄介な存在だと思うのなら1年我慢してどの上官でも良いから、私に推薦を出させれば良い。そうすれば二度とこの地を私が踏む事等無いのだからね。それが理解出来ない様な金属製武器をまさかとは思うけど持ち出して闇討ちでもしようなどと考えれば……。」
私は身体の周囲にある木片から鉄片、ガラスの破片までを全て這いつくばっている彼等の周囲に綺麗に飛ばし地面へと刺した。
「だから解るよね?人生において僅かな我慢とほんの少し、誰かしらに泣きつくだけで全てが穏便に済まされるって……。」
それだけを言い残して私は詰所に併設する訓練場を去った。
あわよくば、この脅しが未来の為に効果が表れる事を期待するばかりである……。




