第百六話改 いただきます! その7
「おおおおおおおお!」
【ピルムパタ】を3機の【ホプテリスPDB】へと投げた後、そのまま【カロル・セキュリス】を振るい、胸部装甲であるハッチを次々と切り裂いた。
そのまま鹵獲出来るのがベストではあったカナオだが同時にアシュリンが風属性魔法の影響でバランスを崩していた事と自らが弄った【ホプテリスPDB】が投げ矢程度で沈黙する程ではない事を知っているからこそ、ハッチを切り裂いた。
そのまま、一気に姿勢を低くして片足の風属性魔法用の吸気口部分を破壊した。
可能な限り最も少ない被害で、最大の効果を狙ったものだった。
カナオの読み通り、左右の【浮揚機構】のバランスが崩れ3機の【ホプテリスPDB】は素早く逃げる事も出来ずそのまま次々と【カタフラクトスPDB】に捕まれ体勢を立て直したアシュリンの鎖によって鹵獲され操縦者はそのままポイ捨てされたのだった。
『アシュリンさん!』
カナオが再度魔導無線を試みるも、返事がない事から魔導無線そのものが壊れたと判断し【カタフラクトスPDB】のハッチを開けると、アシュリンもハッチを開け、乗り移ってきた事でやっと会話が成立するようになり3機の【ホプテリスPDB】と【カテーナ】を【収納袋】へと収納した後に戦線を離脱した。
流石に3人入るだけの余裕の無い内部構造の為にハッチを開けたまま暫く移動した後、合流の為に【カタフラクトスPDB】をも収納しての移動。
第一〇一騎士隊全員が揃う事となった。
「おい、貴様!俺の【カタフラクトスPDB】に何してくれたのだ!!」
「何してくれたも何も仕方ないでしょうが!魔導飛空艇の飛んでる高さから一気に飛び降りたんだからさ!!」
「【浮揚機構】部分が壊れてしまっているでは無いか……。」
「あたしらの【ホプテリスPDB】まで壊れてるよ……。」
「あとで直せば良いでしょうが!どっちにしてもこのまま使う訳にはいかないんだよ!」
「このまま使えないとはどういう事だ!?」
「アシュリンさん説明宜しく、頭痛くなってきたよ……。」
魔導鎧にはある程度内部に空きスペースがある為、何が仕込まれているのかすら解らない。
鹵獲したからといってその場で使うには良くも使い続ける、と考えた時には一回総点検をして元の状態かどうかを確認する必要性がある。
奪い取ったからといって、そのまま流用するというのは本当に最後の手段であって、出来れば避けたい事態だ。
「行動中だから魔導鎧は流石に無理。魔導軽鎧が精々だから、とにかく全員の魔導軽鎧を点検して使えるようにして作戦を継続。ここがフォルティッシムス王国内であっても今は戦時中でデシデリウム帝国の占領下である事に変わりは無いんだからね!」
「むぅ……貴様が壊さなければ済んだ話では無いのか?」
「五月蠅い脳筋!魔導騎士なら魔導工学の一つ位学んで無いのかね!前に整備位云々って言ってたでしょうが!!」
「整備研究班が居るでは無いか。」
「大隊長に同じく。」
「同じく。」
「同じく。」
ああ、頭が痛い……魔導騎士なら最低限レベルで点検や修理が出来なきゃ駄目でしょうが。
それが整備研究班が居るから、とかマジありえないわ。
実際に戦場で味方と分断された際等の為に国軍科等でも教えるし、騎士団に入れば修練の中にそういう授業もある筈なんだけど……。
「まぁ、叱責した所で貴様が壊した事が消える訳でもないのだ、ここは有事である以上我慢しようでは無いか。」
「あんた、いつも上から目線だね?たとえ階級が上でも騎士隊行動では私が上司だからね?」
「ふん!すぐに来年、奪い取ってくれるわ!それよりも、だ……。」
アラカンド少尉が突然駆け出したかと思えばフォルクス中尉と突然取っ組み合い始めた。
「久しぶりだな、フォルクス・フォン・べグレイド。」
「アラカンド・フォン・マクラガーか、今は俺の方が中尉の筈だが?」
「はっ!四散隊が何か言ったか?それに貴様中隊長だろうが。俺は大隊長、明らかに上であろう?」
「何を世迷い事を言うか、中尉に少尉。階級で俺が上なのだから俺が上に決まっているだろうが。」
「何この暑苦しい組み合わせ……。」
パルマ准尉曰く、同期だそうでディジト入りもほぼ同時ながらも騎士隊が第四と第五という違いで今では僅かな階級差がついてしまっていていわば犬猿の仲なのだとか……。
「とりあえず経緯は解ったわ……アシュリンさん。フォルクス中尉が第一〇一騎士隊と行動している旨本部通達。それとドルー准将も含め、ここからどこを荒らすかを決めたい所なのだけど……。」
「なら俺の【S・リベロ】の奪還だろ。」
「あっ、ドルーだけずるい!それなら私の【AM・ペルソナ】も!」
「はい、その2つは却下。【カタフラクトスPDB】ですら持て余す程の操縦者しか居ないってのに【飛行機構】ありきの虎の子になっているその2機が出てくる事は望み薄だね。ベースが火蜥蜴鉱石と魔創鉱石の使われている遺物級魔導鎧だよ?下手な使い方をするより博物館に飾るつもりで仕舞い込むか分解して火蜥蜴鉱石と魔創鉱石として使った方が有用だと思われている可能性が高いからね。」
「くっ……そう言われると何とも言い返せねぇ……。」
「あとで近衛法務騎士隊経由で予算ぶん捕らないと気が済まないわよね?」
「そりゃそうだ、100機分出しても釣りがくる程だろうからな。」
「あー、まぁその辺は持ってきたヨボ爺と応相談で……。」
「状況的に魔導軽鎧が全員分あるのなら、それを利用しまずは国軍が回らないであろう街や村に行くのはどうだ?」
「んー、ハイネル大尉の言いたい事は解らないでもないけど……ディジトの手が回らなくてもデュプレが回るんじゃないの?少なくとも街道巡回組は手が空いてるでしょ?」
「ディジトもデュプレも結局は担当将官の手の内だ、期待はあまり出来ないな。」
「この辺りであればサムルート男爵の治めるサムルート領ですから領都とは別に街が1つ、村が3つという所でしょうか。但し元からあまり良い噂の無い男爵ですから領都以外は放棄、いえ……放置されている可能性が高いと思われます。」
そもそも軍属の本分は国、民を守る事でありそれがおざなりとなっているのは大問題だし何より取り返せば済む、で済まされないことだってある。
それこそ戦争というお題目があれば何をしても構わない。
そう考える輩もいるからこそ、皆の経験則も合わせファイブマンセルでの領都、街、村3ヶ所へと散り、その状況把握、及び占拠されている場合は制圧しその中でも私はアシュリンさん、ドルー准将にハイネル大尉とアラカンド少尉、その犬猿の仲となるフォルクス中尉の6人で領都を確認する事とした。
場合によっては領主たるサムルート男爵に対し何かしらの制裁すら考えられるからだ。
戦時となれば寝返る領だって少なからずある。
それがどういう理由であるかにもよるけど現状暗部と連絡を取り、各地情報を持っているドルー准将やアシュリンさんが把握できていない上に良い噂が無いとくればそういう可能性すらあるからで私達は再度分かれての遊撃行動へと移行するのであった……。




