第百五話改 いただきます! その6
「まずは確実に2機の魔導鎧の頭部、正確には首根っこを破壊する!大抵、魔導鎧の視界を作り出す部分等の基幹魔導陣はここに収納する事が大半だからね!整備のし易さや識別モールドを引っこ抜く事を考えたりすると大抵ここに配置する設計にした方が総ミスリィル量が減らせるっていうお金絡みの事情からは中々抜け出せないものだからね!!」
カナオが説明しながらもセキュリスを振い首根っこや頭部と言うには難しい。
人で言えば鎖骨と鎖骨の間、胸骨の上あたりをかすかに切り裂いただけで、動こうとしていた2機の魔導鎧がそのまま動かなくなるだけならまだしも……多くの魔導鎧の基幹であり魔導陣が収納されている欠点となる部分だけを的確、それも最小限の傷だけで済ませながらも大胆な操縦でありつつ、立ち位置等の微調整をしている事にフォルクス中尉は震えが止まらなかった。
1機の魔導鎧に乗って見る事などそれこそ教導として隊員を見たり、また見てもらう事、手本として見せてもらう事はあってもこれまでにここまでの操作を見た事が無かった。
それも第三世代機、といいながら【カタフラクトスPDB】には【ステルラ】同様に4本のハンドレバーとフットレバーがありそれを流れるように使いこなしている様子に何故、第一〇一騎士隊が発足したのか、将官達に忌み嫌われているかがフォルクス中尉の中では解決した。
これを外から見れば恐らく異様で脅威、中から見れば決して魔導鎧の性能だけではない騎士。
それも魔導鎧に乗る魔導騎士としての純粋な腕前。
但しそれはカナオからすれば電脳戦機バーチャロンから始まり機動戦士ガンダム外伝2~にゾイドインフィニティ、鉄騎や戦場の絆と繋がっていったツインスティック系、ドームスクリーン型筐体でのゲーム経験からなるものでだと知る由は無い。
さらには魔導鎧としては珍しい武器である【フラッゲルム】を取り出し露天甲板上に固定されている縄などを巧みに切り裂いては次々と目の前から消えていく、まず見る事のない現象。
「露天甲板終わり!次、このまま内部船底!」
カナオは露天甲板から魔導飛空艇の操舵室を狙わず露天甲板から繋がる魔導鎧などが積載されている船底を急襲した。
露天甲板と船底を繋ぐハッチはコンサートなどで使われるポップアップに近く、魔導軽鎧を着て魔導鎧を鎖で巻き上げ下げする半ば跳ね橋に近い機構で作られている為にこの部分から魔導鎧が急に、そして大量に出てくる事は無い。
カナオはその機構を理解した上で、鎖で固定されていると推測した部分だけを【カタフラクトスPDB】に乗ったままで壊し、そのまま落下するように侵入。
中では慌てるように魔導鎧へと搭乗しようとしていたデシデリウム帝国兵が急ぐ中、あっという間に誰も搭乗していない魔導鎧が消えていく。
さらにそのまま中を一気に【浮揚機構】で駆け抜け後部ハッチを破壊すると、そのまま飛び出し違う大型魔導飛空艇へと【浮揚機構】で跳び移り、次々と襲っていく手際の良さを見せてきた。
途中に多少魔導軽鎧を着たデシデリウム帝国兵をそのまま体当たりで吹き飛ばしたりはしているもののほぼ最高効率でピンポイントに兵站だけを狙う手法。
特に奪えなかった魔導鎧があったとしても空を飛べない以上、魔導鎧にとっては逃げられてしまえば地上に降りるまで何も出来ない。
魔導飛空艇も基本構造が船である以上、砲の取り回しは良くない上に撃ち落とそうにも命中率が元々悪い。
地上の砲の扱いとそう大きな変わりがない上に味方同士が近いと誤射の危険性が出てくる為に【カタフラクトスPDB】を狙う事自体が難しくなり遊撃としての役割を十二分に発揮し、一気に離脱した。
『とりあえず隊員分は確保出来たかな……アシュリンさん退くよー!……アシュリンさん?』
カナオが魔導無線で呼ぶも、反応が無く徐々に【浮揚機構】で落下と減速を繰り返して地上へと近づいていくと見えてきたのは余裕のないアシュリンさんの状況だった。
「【フォルティス・ホプリテスPDB】……。」
それも3機の【ホプテリスPDB】に囲まれるように襲われてかなり被弾している姿だった。
すぐに完全な自由落下、そして頭部を下に向け【浮揚機構】用の足裏から風属性魔法を全力で噴出!
「きっ、貴様!俺は教導用の補助固定具しか無いのだぞ!?」
「喋る余裕があるなら大丈夫だよ、それより騒ぐと舌噛むよ?」
落下中に噛む事は無いだろうけど、地上近くで噛む恐れがある、とりあえずフォルクス中尉は静かになったので4機の動きに集中しつつ【カタフラクトスPDB】の装備状況を再確認する。
「アラカンド少尉用の装備のままか。【カロル・セキュリス】が一番場所取るからあまり装備を搭載して無いんだよね……ちょっと無茶しちゃいますか!」
私はここから攻撃を行うには装備が足りないと判断、さらに足裏からの風属性魔法の吹出量を過度の魔力供給で本来持つ許容量を超える威力にまで引き上げる!
「ちょっと待て!これ以上加速すると地面に叩きつけられるぞ!!」
「五月蠅い!黙って見てなさい!それとぶつかりはしないけど身体に物凄いダメージが来るから【身体強化】展開!」
「【身体強化】?」
「いいから!最大で展開しないと死ぬよ!!それと同時に魔力を全身に巡らせて!」
「!?【身体強化】!!」
「それでいい!全力全開!【浮揚機構】稼働率120パーセントまで上昇!」
一応この位までは耐えられるように許容量はあるけどそれはあくまで「安全な使用」の範囲。
ここまで上げると間違いなく危険な使用に入るのだけどアシュリンさんの乗ってる【フォルティス・カテーナ】がかなりダメージを負っているのが解るからとにかく速度最優先!
そのまま地上まで突っ込むように加速し、距離を見誤らないように頭部と足を180度入れ替え、そのまま風属性魔法を噴き出し続ける!
「おおおおおおおおおおおおお!!」
機体の上下が入れ替わり、今度は上向きの推力が生まれた事で一気に加速度が私とフォルクス中尉に圧し掛かる!計算上なら私はまだ体重が軽いから30G程度で済むけどフォルクス中尉は体重があるから恐らく70G前後……重量で言えば4.7トンくらいの重量が掛かるから【身体強化】が無いと骨も内臓も間違いなく逝く。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
さらに血が完全に下に下がっていくのが解るけど魔力というのは血の流れに乗って身体を巡らせるもので魔力を巡らせる事でその流れを助ける事が出来るのでショックパンツのような医療用の特殊ズボン等が無くてもこの世界では生身で一応耐えられる!……筈!
カナオの急速落下からの反転、そして本来の安全な使用範囲を超えた空から吹き荒れる風属性魔法の勢いにアシュリンさんを囲むようにしていた【ホプテリスPDB】が一気にバランスを崩した。
「【ピルムパタ】!」
そして【カタフラクトスPDB】に唯一搭載されている投擲武器である投げ矢を手から放った。




