第一話改 国軍科騎士クラス入学試験
フォルティッシムス王国 王都テッラ・レグヌム。
その北に位置する国軍専用の門の近くには国軍専用の魔導列車なる、魔力を動力とした列車の駅が存在する。
4の月の始まり、そこから特別な魔導列車が出発する。
停車駅はたった2つで1つは終点である王立テッラ・レグヌム上級学校駅。
そしてもう1つが「名も無き駅」である。
この「名も無き駅」は駅を降りると年に1度だけ大量の天幕等が用意されておりそこに多くの人々、それも今年12歳となる若者ばかりが集まる。
「ようこそ!王立テッラ・レグヌム上級学校国軍科騎士クラスの入学試験へ!」
ここは魔導鎧と呼ばれるいわばロボットのようなものへと乗る為の魔導騎士となるべく卒業後、その多くが国軍の騎士となる為の養成学校の入学試験会場だ。
平原には受付を済ませた、この魔法の存在する世界において下級学校と呼ばれる小学校・中学校を合わせたような義務教育を成績優秀で卒業した者達が数多集まっている場所でもある。
何しろ本来、上級学校は入学金から教材費、そして全寮制である為 その費用も含めれば街住まいの家族が生涯をかけて獲得する生涯賃金並みの費用が卒業までに必要となる為、上級学校は王侯貴族、そして豪商の子位しか通えない中、国軍科に限ればその一切の費用が掛からない。
そして卒業した場合国軍入りが約束される為、就職に困る事も無いと言えば聞こえだけは良いが
正直、私の知識からすればブラックもブラックである。
生前の記憶を持ち合わせ、神の祝福たる能力を持つ私にとってそれでも目指すべき目標がある。
幼少期より可愛い人形よりロボットを好み魔法少女物のアニメよりロボットアニメを好んだ私が目指すのは当然魔導騎士となり、魔導鎧に乗る事。
その次の目標は、その中でも私専用の魔導鎧に乗る事。
同時に部隊を自由に指揮出来る権限を有する事。
そして最終目標はそう遠くない未来、この世界を滅ぼしてしまう発明をする男の命を狩る事、その発明品を未来永劫作られないようその全てをこの世界から消し去り、私の将来の安寧を勝ち取る事である。
私の名前はカナオ。
純然たる女子であるも、この世界に最も多い人間。人族では無く鼠の獣人の希少種である灰銀鼠族と呼ばれる存在である。
見た目は鼠耳と尻尾がある以外、見た目は完全な人族であり帽子を被り耳を隠して、尻尾を隠せば区別がつかなくなる位だ。
そんな私は今、フォルティッシムス王国に存在する王立テッラ・レグヌム上級学校の入学試験に挑む為、王都の北にある駅から魔導列車なる魔力を動力とする列車に乗り今から3日前から試験会場である「名も無き駅」の前にある広大な平原に寝泊まりしている。
理由は少々長くなるものの簡単な話で下級学校で成績優秀で卒業すれば誰でも試験に参加出来る上、上級学校へと無料で通う事が出来るだけでなく卒業すれば就職先すら確保出来る。
この条件だけでも数多の入学希望者がやってくるのだけど何よりこれから行われる入学試験を有利に進める為だ。
入学試験は4つのコースが存在し、どれを選ぶかは自由。
全行程7泊8日、この「名も無き駅」からこの路線にもう1つだけ存在する駅である「王立テッラ・レグヌム上級学校駅」まで、それぞれのコースを先導する教師の後についていく事が試験内容だと予め公表されているのは毎年の事である。
コースは距離は短いけど険しいコース、距離は程々だけど程々厳しいコース、距離だけはやたら長いけど起伏の少ないコース、そして4つ目のコースは未公表なのも毎年の事である。
どのコースを選ぼうと、数多の有象無象の中から始めるより出来る限り先頭から始める事が有利だと考え3日も前から受付を済ませ、平原でテントを張り生活してきた中、ついに入学試験が始まろうとしていた。
「コースは4つ!距離は短いが起伏が多く険しいルート!距離がそれなりにあるが、起伏もそれなり、険しさもそれなりのルート!そして距離がとんでもなく長いが平坦なルート!そして毎年恒例!どんな道を通るか公表していないルートだ!先導する教員の後を、道を逸れないように必ずついていく事!そして法を守る事の2つだけがルールだ!」
この入学試験の最も厄介なのは、どのルートを通るかではない。
先導する教員の後を必ずついていき、道を逸れない事だ。
だからこそ私は3日も最も先頭に位置して待機してきた。
その次に厄介なのが法を守る事。
多少の妨害行為は目を瞑られるという事でもある。
当然、殺せば失格だが多少の怪我程度はするしそもそもこの入学試験は到着と共に大量の天幕で受付を行い、この入学試験で命を落としたとしても自己責任であると魔法契約をさせられる事になっている。
何しろこの世界は魔法が存在すると共に魔物と呼ばれる凶暴な獣が跋扈する世界でもあり、どのルートも安全性については謳っていない。
魔物が現れても僅か12歳の子供達がそれを対処する必要があり、世界で最も難関とされる入学試験でもある。
それでも多くは王国の生誕祭等で見られる魔導鎧の姿を見て、憧れ、こうして入学を希望する人々が後を絶たない。
それも卒業すれば国軍ではエリートとなる騎士になれる。
それ以外にも国軍には魔導飛空艇と呼ばれる空飛ぶ艇がある為、魔導鎧でなくとも魔導飛空艇に乗りたいだけでなく自ら操縦したい、なんて者もこの中には多く居たりする。
さらには国軍に入らない、という選択肢もある。
魔導鎧は国軍で無いと乗れないが魔導飛空艇は国営で他国や他大陸とを繋ぐ公共交通機関としても存在している為、職員は全員が公務員だしその道を目指す人すら含まれる。
しかし意外と当日の到着でも間に合うだろうなんて甘い考えをしている人達は最早手遅れである。
3日前でやっと私が先頭に居られる中、今日になってやってきた人達は運が良ければ受付に辿り着けるけど未だ受付すら終わっていない人すら居るのだから。
入学試験の要項にもキチンと「時間までに受付を済ませる事」と書いてある為、時間までに受付できなかった人達は入学試験に参加する事も無く、時間と共に不合格となる。
さらには7泊8日もの試験を考え、全ての食事等をキチンと持ってきているか等もこの入学試験の肝だ。
試験は7泊8日だけど、実は宿泊先なんてものもなければ食事も出ない。
そもそもそんなものが出る、とすら書かれていないのだから出ると思ってくる方がおかしい。
すぐ近くで私が女で、国軍科の騎士クラスは大半が男が受験する上に私自身の身長が140と無い低身長である辺りから笑っている連中なんて、えらい身軽だし見た感じ、異空間収納のような便利な魔道具を持っているようにも見えない。
ああいう連中から真っ先に脱落していくのが目に見えているのも全てはこの世界に私を送り込んだ神とかいう存在にこの世界に産まれ落ちると同時に激しい頭痛の伴うこの世界の様々な知識を植え付けてくれやがったせいだ。
「それでは入学試験、開始!」
開始の合図と共に、4人の教師が先導するように旗を持って走っていく中、激しい地鳴りに追随していく受験者達の足音がどんどんと大きくなっていく事で試験が始まったのだと、まだ受付すら終わっていない受験希望者達は不合格、という事実を知ると共にこの入学試験には翌年の再試験というものが無い。
今年12歳になる者しか受験出来ない為彼等の人生の予定はここで潰えるのだった。