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3-3

 ――思い出せたのはここまでか。

 草原の真ん中に寝ころんでいた身体を起こし、反射的に地面に接していた部分を手で払う。土や砂が服に付いていた感触は無かった。

 思い出した中では一番滞在する時間の長かった草原付近に来ることでさらに記憶を触発し思い出せる内容も深まるのではないかと考え、ピアス探索は後回しにして一度は探し終えた草原まで戻ってきていた。

 周囲を記憶と照らし合わせ設置されていた施設やお店などを当てはめてみた。その甲斐あって、かどうかは分からないが行動の詳細まで思い出せた気がする。

 だが、思い出せたのはここまでだった。

 死の瞬間、あるいはそこに至る経過の部分も含めてなにも思い出せなかった。

 ――あの後ホテルに帰るまでの間に死んだのか、あるいは二日目に何かあったのか・・・

 死後、ここに辿り着いたのだから、RrJ中の出来事が関係しているのは間違いないのだろうから。


 気掛かりはもう一つあった。

 「一緒にRrJに来る予定だった友人」これがさっぱり思い出せない。

 そいつのためにグッズを購入したのも、さよりさんと一緒に周る了承のための連絡を取ったのも思い出した。

 だが、その相手がどこのだれなのかが全く分からない。

 このことが不安でたまらなかった。

 人は自分の都合の悪い記憶は意識的に無自覚に忘れてしまう事があるという。目覚めてからしばらくの間RrJの記憶が無かったのもそのことが原因かもしれない、だとすると未だに思い出せないその友人が何か関わっているんじゃないだろうか、そう推測するのは難しいことでは無かった。

 ただ何一つ確証はなかったので、試練までにもう少し何か思い出せたらいいな、という心持ちでピアス探索に戻ることにした。


 草原から先ほど辿ったのと全く同じ道で池の方へと向かう。

 今まで通り公園の広さも模索しつつピアス探索をするならば遊園地の方へ抜けて外回りで行くのが良いのは分かっているが、やはり少し記憶の回復を優先したい気持ちもあった。

 その上でまだ池の周辺は探していないので捜索も含めて行おうと思った。

 池のステージ。

 順当に開催され参加しているなら二日目の二番手として双葉が立っているそのステージを見ているはずである。記憶への触発が有用であるなら二日目を思い出すにはそこが一番刺激があるのではないかと考えた。

 先ほどは左折していった小道をスルーして池の周囲をそのまま進む。ほどなくして視界に見覚えのあるガラス製のアーチを捉える。初日にも池のステージには来ているので見覚えがあっても不思議は無かった。


 ステージへの一つ目の入口――スロープに辿り着く。平時は入場禁止になっているのか足元の低い位置にチェーンが張られ規制されている。現実ではないからと心の中で言い訳をしながら足元のチェーンを跨ぎステージへと入っていく。

 機材も装飾も一段上がったステージもないこの場所はアーチのある広場といった感じだった。このアーチの下にステージが作られアーティストたちはそこで演奏をしていた。

 最前列の客はそのステージ縁すぐの場所ではなく少しスペースがあったはずなので、そのおおよその位置を予想しながら最前列辺りの位置に立ってみる。

 装飾されたステージに立つ双葉の姿を、その脇を固めているいつものサポートメンバーの姿を想像する。

 想像することは容易に出来たが、それだけだった。

 何か思い出したり、視界に変化があったり、何かが聞こえてきたり、というようなことはなにも起きなかった。

 当然その日のセットリストが呼び起こされるなんてことも無かった。

 ふと頭に流れてきた曲を口ずさんでみるが、この曲が頭に過ぎったということは歌われなかったんだろうか?と、逆に捉えてしまう、それくらいになにも思い出すことは出来なかった。


 やはり居酒屋からの帰り道に死んでしまったのだろうか、

 そんな考えも浮かぶがどうにも釈然としない。辻褄なんてものはない世界かもしれないがそれが合わないことが多い気がする。

 逆に本当に帰り道での事故だったとするならば試練での回避自体はさほど難しく無さそうなので生き返れる確率は高そうだとは思うので願ったりなのだが、なんとなく、なんとなくだが違う気がする。


 まとまらない考えにやきもきしてしまい冷静になろうとアーチの側へ歩みを進め噴水の影響で揺らめく水面を覗き込む。

 この世界でどうやって噴水は稼働しているのだろう、とどうでもいいことを考えると少し落ち着けた気がした。

 これでそのまま顔でも洗えばさらにすきっとしたかもしれないが、さすがに池の水で顔を洗うことには少なからず躊躇いがあった。どうなるだろうかという興味の探求も含め、いっそ飛び込んでみようかという衝動にも駆られるが、現実通りの結果だった際が面倒くさすぎるので却下する。

 馬鹿馬鹿しいアイデアが出せる様になってきているのはいい兆候な気がする。このままもう一度考察やシミュレーションをしてみようと先ほど立っていた位置に戻ろうと回れ右をした。

 

 ――っ痛!

 後頭部に痛みが走る。

 目覚めた時に感じていた頭痛と同じような位置、同じ感じのもの。

 いつの間にか感じなくなっていて忘れていたのだが、それがなぜ今更・・・。

 目覚めた時の頭痛は死因に関係があったらしい。とすれば急に再発したこの頭痛にもなにかのメッセージ性があるものかもしれない、そうだとしたなら考えられそうな要素は・・・

 4つ、

 ・何かを思い出せる前兆

 ・何かを思い出さないようにする防衛反応

 ・何かを思い出すためのきっかけ

 ・思い出された記憶の中の頭痛の再現

 と、こんなところだろうか。

 

 4つ目に関しては痛みを感じるような出来事をまだ思い出してないので違うかとも思うが、頭では思い出せていない記憶を身体が思い出した可能性も捨てられないし、そもそも単純に先ほどまでの頭痛が再発しただけ、つまり死因関連の痛みということもあり得る。

 1つ目2つ目は体の反応だから考えても答えは出ないだろう、3つ目もきっかけと言ってもどのような形でのきっかけかにもよるが察知するのは難しそうなものだ。頭痛自体が何かを指しているのか、それとも場所か・・・。

 ――ッ!

 この場所で、頭痛――それも後頭部の頭痛に関連することを思い出した。

 その出来事は自分自身とは直接関係のないことだったが、場所と事柄で考えればどうしても結びついてしまう。

 それに頭痛を感じたのは振り返っている最中――それが起きた方向を見ている時だった。

 思いついてしまったからにはすぐに行動に移す。

 その場所に行っても何もないかもしれない、というよりその可能性の方が高い、それでも何もしない選択肢はなかった、いままでもピンポイントな場所で色々と起きてきたのだからもしかしたら・・・そういう淡い期待もないでは無かった。

 向かう先はアーチから見て左奥の階段通路。

 3つある階段の1つ、転倒事故のあった場所だ。


 どの段で、どちらの進行方向で事故が起こったのかを詳しく知らないので一歩一歩踏み占めるように往復してみたが、これまでに経験したような何か聞こえたり見えたりということは起きなかった。

 それでも頭痛は激しさを増したようにも思う。

 ――やっぱりこの辺りになにかあるんだろうな

 そうじゃなければ頭痛は激しくならない、そう言い聞かせさらに往復を繰り返すがやはりなにかを感じることは出来なかった。

 

 さらに何度目かの往復をしているとき、下から見上げた時の視界の端に何かが映った、いや光った。通路部分から外れた階段状の芝生に入ったところ、その辺りでのことのように思えた。

 初めてこの階段を駆け上がり、光ったと思しき場所を視る。

 「これは・・・ピアス?」

 そう思えるサイズのシルバーのアクセサリのようなものが落ちている、おそらくこれが反射した光だったのだろう。

 それを手に取りまじまじと見る、魅入る。

 「しかも、これって・・・」

 言葉を発そうとしている最中に意識が飛んでしまう。

 手の中のピアスが一瞬光ったような気がしたがそれも認識するかしないかの刹那のことだった。

 その後オレが立っていたはずのその場所から、オレの姿もピアスも忽然と消えてしまっていた。

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