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2-3

 次の不思議な体験が訪れるまでそれほど多くの時間はかからなかった。

 見落としが無いように草原に進入し端から端へジグザクになるよう、探索開始直後に通っていた道に向けて進行して行った。その過程の半分を過ぎた辺りだろうか、特に周りに何がある訳でもない草原の中心からややズレたある地点で異変が生じた。

 「ぐぅっ・・・」

 思わず耳を塞ぎたくなるほど大きな声が聞こえてきた。

 それも一人や二人ではない。

 歓声、悲鳴、怒号、それぞれが何を言っているのか全く理解できない、それほど大人数が一斉に叫んでいた。

 もちろん周囲に人の姿はない。

 当然である、ここはオレの世界なのだから。

 周囲に何か変化が起きているわけでもない。先ほどとは違い視覚的に何かを感じられるということも起きなかった。

 ただこの声の数々を聞いているうちになんだか心地よく感じるようになり、高揚感と共に自身も声を上げたい衝動に駆られる、そんな気になった。

 「うおぉぉぉぉぉ!!!」

 衝動を押されきれず叫んでしまう。

 声を上げることでより高揚感が増していき、何かを期待しているような、待ちわびているような、そんな気持ちが込み上げてくる。

 ――これも記憶、なんだよな、きっと

 胸に手を当ててみる、胸に聞くということを体現してみたかったのだが、それでなにか思い出すということもなかった、逆に微動だにしない、静かすぎる胸に気持ち悪さを覚える。

 疲労を感じないいまの身体を便利に使っていたが、鼓動が無いことを認識し、改めて死を痛感させられた。

 そしてここに来て初めて、死を恐ろしいと感じた。


 不思議なことにその場から数歩進むと声は全く聞こえなくなった。

 ただ、その場に戻ると変わらず声が聞こえ、気持ちも再度高揚していった。

 つまり記憶の何かを触発するのがこの地点なのだろう。

 ――ここに立ち、この声に囲まれ、何をやっていた?

 いまはまだ思い出せない。

 ただ他にも同じように何かを感じられる場所があるかもしれない。それらを多く経験していけば何かを思い出せるかもしれない。そうすることでいまだに決めかねている進路を決断する助けになるかもしれない。

 かもしれないばかりだがそこに賭けていくしかない。

 いままではピアスを探すことに執心していたが、この探索の目的が二つなんだと、ここでより明確になった。


 草原からすでに探索済みの砂地のエリアの方向に向かっていくと、途中にアスレチック遊具やバーベキュー施設、それとよく分からない沢山のポールが立っていた。それぞれのポールには数字が振られ金属製のかごのようなものが付けられその上には鎖が垂れていた。何かを投げ入れて遊ぶものだろうか、少し短いが運動会の玉入れのかご付き棒のようにも見える。

 それらの施設を見ていると自分の趣味は何だったろうと思い返す。

 趣味と呼べるものが無かったわけでもないし、今も思い出せるものもある。

 アニメを見るのは好きだった、詳しいとはお世辞にも言えなかったが好きで見ていたのは間違いない。

 酒を飲むのも好きだった。晩酌も職場の酒宴の席も友人との酒の席も、その中で交わされる馬鹿で無駄な話も、時に討論になってしまう事なんかも好きだった。

 少なくともこの二つは誰が何と言おうと自分の趣味だと胸を張って言えるし、そうであることに間違いはない。

 ――ただ、何か足りない

 趣味としてこの二つが足りていない、そういうことではなく何か別の物があった気がする。それがこの公園と関係あったのではないかと想起させる、ここまで自分の趣味の琴線に触れるものがほとんど無かったからだ。

 正直、遊園地はさほど好きではない。

 自然も見て綺麗だとは思うが花の名前を知らないくらいに興味がない。

 運動は苦手。

 唯一科学館を思わせる造形をした遊具には心惹かれたものの、そこに記憶の何か断片というか触発するものは無かった、とすればそれはこの公園に来た理由ではないのだろう。

 先ほどの観覧車付近での視界の違和感と草原でしかもピンポイントの位置で聞いた声、それらを経験してこの公園に来たことがあるのは間違いないだろうと思い始めている。

 思い出せない別の趣味がここに来た理由であり、その趣味を忘れてしまっていることで何か別の大事なことも忘れているのではないか、そう考えるようになっていた。


 バーベキュー施設を通り抜けると少し開けた場所に出た。さらにそこを突き抜けて行くと一度通った記憶のある道に出る。これはつい先ほどの記憶であり生前の物では無かったが、それはつまり草原のエリアの終着を意味する。この草原のエリアに隣接しているのはここを挟むようにネモフィラの丘陵と砂地のようなエリア、それと一つ前に居た遊園地のエリア。

 そう考えると残っているエリアは多くは無さそうである、終わりが見えてきたことで少しだけやる気が戻った。園内を踏破したところでピアスを見付けるまで探索が終わる訳ではないのだが。


 バーベキュー施設やアスレチックを含めた草原から連なる木々の生い茂るエリア、それらを一気に探索したがそこでもピアスを見付けることは出来なかった。

 が、声が聞こえる場所があった、それも三箇所。

 すべて少しずつ離れた場所でだった。

 どれも楽しそうで、それでいて美味しそうな内容の声だった。

 「うわぁ牛タンめっちゃ並んでるぅ、今日は諦めて明日にしようかぁ」

 「あっついねぇ、ねぇかき氷食べよ、かき氷」

 「あー、もう我慢できないやっぱり私もビール飲んじゃおう」


 うん、オレもビールが飲みたい、というのはさておいて、すべて食べ物の話、すべて誰かに話しかけていて、すべて同じ人物、しかも女性だ。

 ――相手は・・・たぶんオレなんだよなぁ

 声の主はさっきの誘いの声と同じように聞こえた。

 同一人物なのだろう。

 つまりオレはその女性とここに遊びに来た、ということなんだろうな、きっと。

 それにしても不思議なのはこの辺りに食べ物を連想させる施設が無いことだ。

 バーベキュー施設はあるが、そこでの出来事ならば声の聞こえる箇所もそこに集中し、ばらけることはないだろう、なにより列をなしていて明日に回すというのもあてはまらなさそうではある。

 ――声と場所に因果関係はないのか?

 そうだとすると手がかりが全て無くなることになる。

 記憶の探索も全く無意味になる。

 死神の彼女がわざわざ提案してくれた探索、無意味だとは思えないが。


 ――ぅん?

 そういえば・・・死神の彼女ってどんな声だった?

 どこかで聞き覚えのある声だとは思っていたから今聞こえた声と似ているか確認、というか思い出して比較してみたかったのだが。

 つい先ほどのことなのに全く思い出せない。話した内容はちゃんと覚えているのに・・・。

 また一つ堅牢な扉が出来てしまったかのようだ。

 これもなにか記憶のヒントに当たる部分なのだろうか。


 思い出せないものはどう頑張っても思い出せない、むしろ忘れた頃にふと出てくるものだろう、そう割り切りまずはここまでに感じたことでの仮説を立ててみることにした。

 ・仮説その1

 数多くの仲間たちとここにバーベキューをしに来た。

 しかも泊りがけで。

 キャンプだろうか。

 ただここに泊まれる施設があるかは確認できていないのでもしかしたら近くの宿泊施設を使ったかもしれない。

 遊園地のエリアの入口から入場して勝手知ったる者が施設の場所へ手引きをする。

 食べ物は種類豊富に用意されていてクーラーボックスにはかき氷も。

 いくつかの焼き場で焼く物の分担をしていて人気の牛タンには行列ができた。

 たくさん食べたので腹ごなしに草原で遊ぶ。

 広いから周りに迷惑もかけず大声を出しあうことができる。


 というのはどうだろう。

 先ほど否定的にみたものの話の筋は一見通っているようにも見える。

 しかしこれだとオレに友人が数多く居ることになるが、思い出せる友人はさほど多くない、あるいはそのすべてを忘れたのだろうか。

 もしくは友達の友達を集めていき大きくなった集会で、全員が自分の知り合いという訳では無かった。

 いや、そうだとしたら今度はそういう集会をあまり好かない、ましてや泊りでだなんて。

 しかもわざわざ泊っておいて二日続けて同じことをする意味も分かない。

 やっぱり却下かな、この仮説は。


 ・仮説その2

 全国うまい店大集合展、みたいなイベントがこの公園で数日にわたり行われていた。

 そこに女友達――あるいは彼女と来場。

 近くに宿を取り連日の参加。

 遊園地のエリアの入口から入場し逸る相方がオレの手を引く。

 店は草原からバーベキュー施設まで続いていて、牛タンで人気の店はすでに長蛇の列、明日に持ち越し。

 暑さに感け冷たいものもたくさん取る。

 大盛況のイベントで多くの人が集まりそこかしこで声が上がっている。


 こっちの方がさっきの仮説よりはしっくりくる気がする。

 まあ一緒に来るようなそんな友人――彼女が居た記憶もないのだが、それは例によって忘れてるだけなのだろう。

 あとはどちらの仮説でも、ピンポイントな位置でのみ大勢の人の声が聞こえてきたのが説明つかない。

 ただ、いまのところ思い浮かぶ仮説はこのくらいだろうか・・・。

 なにか大事なことが記憶から抜け落ちている気がするので、正解には辿り着けない、というのが現状の正解な気もしているが思考を巡らせるうちに何か思い出すこともあるかもしれない、今後も何か思い当れば仮説を立ててみよう。あくまで仮説である、そこに固執しすぎて考えなければ間違っていても何ら問題はない。


 次のエリアに行くため草原を突っ切った先にあった橋を渡る。

 まるで普通の道にしか見えないが下にも道路が交差するように走っていた。

 渡ったさき少し歩みを進めた先におそらくこのエリアの象徴だろうものを発見する。

 大きな池だ。

 ここは池のエリアということでいいだろうか。

 新しいエリアであることの確認は出来たので、まずは一度遊園地のエリアで袂まで行った園の外寄りにある橋の方まで行ってみることにする。そこからまた外側に位置する道を辿り広さの大まかな目処を付けたいと思う。

 池の外周を歩き途中小道に入り左方向へと進路を取る、そうして現れたレンガ調の道、ここも左折、坂道を登っていく。

 途中右手側から来た道と合流する、そちらに向かって歩けば外側への進路になるだろうがまずは橋の上の探索をとそのまま歩みを進める。

 ちょうどその辺りで観覧車も見えてくる。

 登り坂も終わり橋の中間点を過ぎ、先ほど一度探索を終えた辺りの光景が広がってきた。

 この橋の上にもピアスは見当たらなかった。

 ――こっちは何もないな

 そう思い踵を返そうとした瞬間、背中から強い風が吹き抜けた。

 突然のことに身構え一瞬目を瞑る。

 風も収まり目を開けると先ほど見ていたのとは全く違う光景が広がっていた、が、それも一瞬で消えてしまいすぐに元の光景へと戻ってしまった。

 立ち尽くしたまましばらく呆然としていた。

 頭の整理が追い付かない。

 一瞬のうちに頭の中にとんでもない量の情報が入ってきたのだからそれも仕方なかっただろう。

 「ああぁ・・・思い出した・・・」

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