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探索をスタートした地点――丘陵の頂上から見て直線方向にまっすぐ進める道が無くなる。
途中左手に公園の入口の様な物があり、さらには右方向に曲がる道だけになったのでこの砂地のエリアが公園の角のひとつに当たると考え、ここを起点として分かれてる地形エリアごとに周囲の道だけでなく小道に入り、展示物や建物の周囲も細かく探していくことにする。
ここからが本番である。
先ほど休憩していたガラス張りの建物の横にある池と海方向へ広がる砂浜辺りはとりあえず見なかったことにして、張り巡らされた小道を一本ずつ歩き、そこからでは見えないようなところは中には入り近付いてみたりもしたが、この砂地のエリアでは見つけることは叶わなかった。
落ちているが見つけられなかった可能性も十分あるとは思うが。
――このエリアだけを見ても広すぎて探しきれない・・・。
かいてもいない汗を拭う仕草を自然としてしまう。
涙は出ても汗は出ないのか、それもまた不思議なものだ。
探していて思ったがこの近辺には個性的な花壇や少し山地に行ったところに花畑の様なものもあり砂地がメインとなっているエリアの割に自然との触れ合いが出来るようになっているようだった。
惜しむらくは今が冬であまりそれを感じられない、ということだろうか。
そう今は冬なのだ。
現実世界でいまがが冬かどうかは分からない。
だが、先ほどまで居た花にあふれていた丘陵もいまは花の影もない。
ここから望むことは叶わないが。
「そういえば、この丘の景色に見覚えが無いと言ってましたよね」
いざ二手に分かれてピアス捜索に行くという決意をした直後に死神の彼女は唐突にそんなことを聞いてきた。
言われてもう一度考えてみるがやはり覚えはないので
「景色に見覚えもないですし、なんならこれがなんていう花なのかもわからないですね」
と思ったままの事を返す。
そもそもこれだけの圧巻の景色なら直に見たことが無かったとしても、TVやネット、雑誌なんかででも見れば印象に残りそうなものである。
なるほどなるほどと頷きながら
「この青い花はネモフィラって言います、この公園の代名詞の一つですよ」
これまた丁寧に教えてくれる。そして
「そして、こっちがもう一つの代名詞です」
彼女が指をパチンと鳴らし終えると当たりの景色は一変していた。
今まであったネモフィラは姿を消し、今度は真っ赤なモサモサが同じ場所を所狭しと占拠している。
これまた圧巻な光景である。
少し離れた場所から見れば山が燃えているように見えるかもしれない、それくらいに鮮やかな赤だった。
「これはコキアです。春にはネモフィラで秋にはコキア、季節によって見せる顔が違うんですがこっちはどうですか?」
急に変わった景色に圧倒され息を呑むことしかできなかったオレに語り掛けてくる。
そうだ、本題はそっちだったのだ。
だがやはり見覚えは無く、力なく首を横に振ることしかできない。
彼女の方も「そうですかぁ」と残念そうである。
それにしてもすごい能力である。身の回りのアイテムを出すだけでなく、植えられている植物すら変えてしまった。
死神ともなると死後の世界では意のままに操ることが出来るのだろうか?
少なくともオレには出来なかったが・・・
ふと視線の先を伸ばしてみると、別の異変に気が付いた。
先ほどまで菜の花が咲いていたところの花が変わっている。遠目で何の花かまでは分からないが菜の花とは明らかに色が違う。赤や白、ピンクと言った背の低い花。
それにそこから小道を挟んだところにある奥に古民家を望む花々、紫のような色の花や草木ばかりだったはずだが背の高い白い花を咲かす花になっている。これは・・・。
「あー、向こうも変わってますね、秋だとコスモスとソバですかね」
視線に気が付いたのか先回りで説明してくれる。
ちなみにさっきのまで咲いてたのは春だから菜の花とレンゲでしたね、と補足説明してくれる。え?博学すぎんか。死神ってこんなものなのだろうか。
おもわず
「死神さんはなんでも知ってるんですね」
かの作品好きなら一度は言いたい、そして沿った返しを期待してしまうセリフが意識することなく自然と出てきた。
「・・・何を言わせたいんですか?」
今回はノッてくれなかった、それでも知らないという感じの雰囲気ではなかったので
「それも分かってるんじゃないですか?」
「言いませんッ」
ふむ、言わせようとすると言ってくれないらしい、そんなやり取りは本編以外であった気がする。
こんな変化球までこなすなんて、死神さん、あなたなかなかオタクさんだったんですね。
出来れば現世で仲良くなりたかったものだ。
ちなみに何でも知っている死神さんに傍らに見える大きな水たまりについて聞いてみたところ、海で間違いないということ。ただしそれがどこの海なのかは教えられないとも。直接的なヒント、ってことだろうか、ネモフィラやコキアの方がよほど直接的な気がするが・・・どうにも基準が分からん。
「そうだッ!」
良い事を思いつき思わず声が弾んでしまう。
今の話の流れからおそらく彼女は植物を植え替えた――入れ替えたのではなく、季節を切り替えたのだろう。
それなら冬にしてもらった方がほとんどの植物が枯れた状態で探し物がしやすいのではないだろうか。
その推察をそのままぶつけてみると正にその通りだったようで冬にすることも可能だという。
もちろん寒さは感じないらしい。
願ったり叶ったりである、さっそく冬に変えてもらい、ついでに、と
「この丘だけでも一緒に探してくれませんか?」
と誘ってみたところ快く了承をもらえ、大変な作業のほんの一部だが好きなアニメの話題などで楽しく行うことが出来た。
訳なんだが・・・
その後の一人作業が辛すぎる。
楽しいことの後に辛いことは付き物だが今回は特に反動が厳しかった。
ようやく一つのエリアを終わらせた――終わったとは言ってない――ところだったが、あといくつのエリアがあるかもわからない、途方もなさが余計に辛さに拍車をかけた。
公園の全体像が少しでも見えるようにと出来る限り外側に配置されている大きめの道を進む。
そうして見えてきたのが円形の広場とその脇に並木道、落葉が地面を覆っている。
そして傍らに二つ目の入口を発見する。
方向感覚が間違ってなければ先ほど見付けた入口とは対面に位置しているはずだ、公園のおおよその幅が、いや広さが掴めたかもしれない。
散策の出発点であるネモフィラの咲いていた丘、そこから進行した方向の逆サイドを見てみたがほぼ何もなかった。
いや、自然という意味ではさらに広がってはいたが、いわゆる林のようであり公園に含まれるのか、含まれたとして死神の彼女はそこも含めて公園と称したとは思い難かった。
現にあの時「この公園」といった際に手を広げ範囲を示しているように見えたが、そこに林方面は含まれてなかったに思えた。
とすればあの丘は公園の角と判断して良く、いまこの場所も角、のはず。ちょうど対角線で結ばれるはずである。ぴったり長方形ということは無いだろうがそこに当てはめると全体の半分までは進行できたことになる、というかする。
まあ探し物をしたのは丘陵と砂地だけだが・・・。
3歩進んで4歩くらい下がった気がする。
少し気を強く持とう。
辺りに小道は少なそうだったので近辺を探し始めてみる、並木道の逆サイドに芝生の広場があったのは誤算だったが、そこも含め見渡してみるがやはりというかピアスは見当たらなかった。
次に差し掛かるのは遊園地的なエリアなのだろうか、観覧車が鎮座している。さすがに観覧車のゴンドラ一つ一つを調べる必要は無いと思いたいが、死神の彼女が実は大の観覧車好きでオレの元に来る前に遊んでたらどうしようという嫌な想像だけはしてしまった。この公園に直接来た、とは聞いていたがオレの元に直接来たとは聞いていない。
「好きかどうか聞いておけばよかったか・・・」
ネモフィラの咲いていたあの丘陵からも観覧車は見えていたのだから。
例にもれず一番外側の――入口すぐ脇の道を観覧車方面へ進む。はじめのうちは木々に覆われた薄暗い道だったがすぐに開けてくる。
左手には大きな駐車場、それに隣接する形でまたも入口が見える、これで三つ目、この公園の大きさを如実に物語る。
そして右手にはたくさんの花壇、遊園地のアトラクションや飲食店が建ち並ぶ。
これまで見てきた中で――おそらく園内で一番華やかなエリアなのだろう。
花々や遊具が共存し互いが互いの価値を上げているような、そんな気にさせる。
まだ全体の把握には至ってないが、実はこのエリアがこの公園の縮図なのかもしれない、そう思わされた。現に歩いてみるとこのエリアのおおよそ中間辺りに先ほど見付けた三つ目の入口がある。ここだけで完結できる用なのではないかと邪推する。
しかしこのエリアも他と同様、もしかしたらそれ以上に広かった。
とりあえずエリアの区切りだろう最奥まで行ってみたがそこにゴルフ――パークゴルフ場があったときには膝から崩れ落ちた。
さらにその傍らにはなにやらオフロードのコース、道幅的に車ではなくバイクあるいは自転車用だろうか、なんにしても広い土地の施設が密集している。そのコースを捜索しているときにさらにその奥に見えた、一度横を通り過ぎた草原は一旦、どころかずっと無視しておきたかった。
楽しそうなアトラクションや魅惑的な飲食店の看板を尻目に黙々と捜索する。
まあそちらに心奪われたところでいずれも堪能することは叶わないのでそういう意味で無視を決め込むのが精神衛生上とても良かった。
ただ少し前に見掛けた落葉の綺麗な並木道のすぐそばにあった、科学館にでもありそうな形をした遊具にはかなり心惹かれることになったが。
ともあれこの誘惑に満ち溢れたエリアも一通り探し終えた。
池などのような探しにくい箇所が無かった分、ここはコンプリートでもいいかもしれない。
ただし観覧車のゴンドラは除く。
彼女なら人がおらず動かないはずのアトラクションすら動かしてしまいそうでそんな可能性を捨てきれずにいたが、さすがに無いと信じたい。
しかし段々慣れてはきたものの、こんなに現実的に思える世界でこれだけ動き回って全く疲れを感じないのは不思議なものである。形式的に何度か休憩は入れているが、現実なら何時間動き通しなのだろうか。
しかも小さな小さな探し物をしながら。
肉体的にも精神的にもすり減ってとんでもないことになりそうだ。精神はいまもなかなかすり減ってはいるが、それでも現実でのそれよりはマシなのだろう。
そんなことをボーっと考えながら歩みを進めていたがはたと足を止める。
十字路である。
左手には直近で見つけた通算三つ目となる公園の入口。
正面は未踏のエリアへ続く道。
右手には無視を決め込みたい草原のあるエリア。
選択肢に左手は無い。
草原には出来れば行きたくはないがそういう訳にもいかない。
他から探してどこかで見つかれば行く必要は無いだろうが、ほぼほぼ間違いなく一度は行かなければならないだろう。
草原にあるかどうかはおいておいて、さすがに一度すべてを見て周っただけで見つけられるとは考えにくい。
――さてと、どうしたものかな。
クラッ
正面と右手側、交互に何度も見比べながら悩んでいた時、その工程の中で何度目かの草原側を見たその時、一瞬視界から色が消え全体が揺らいだ。
意識が飛びかけたという認識の方が正しいかもしれない。
頭を振り過ぎたことでの眩暈だろうか。
あるいは今になって疲れが出る設定に変更されたということなら笑えない、それならせめて飲食はさせて欲しい。
俯き加減で右手を額に持って行ってみるが額の熱を右手で感じることも、その逆もできなかった。
近くにトイレがあったので顔でも洗ってみようかとも思ったが、残念ながら水道は止まっていた。冬だから、ということではないだろう、さすがに。
通路を挟んで向かいにもトイレがあったので一応確認してみたがやはりダメ。仕方なしと思い外に出ると観覧車を視界の端に入れて草原方向へ向かう道――橋が見える。
――ッ
既視感を覚えた。
この風景は知っている気がする。
そう強く思えるのだが確証が持てない。やはりここには来たことがあったんだろうか。
思考をフル回転させる。
思い出せない。
確かに見たことがある、だがそんな気がしているだけだ。
いつ、どういう状況で見たかは全く分からない。
――他の観覧車ってことは・・・
無いとは言えないと思い、すぐに行ったことのある観覧車を思い出そうとするが、それもなかなか出てこない。どれだけ思い出しても観覧車に乗った記憶は出てこなかった。
今度は近くで見たことのあるものを思い出そうとする。
ここまで間近で見たことがあるかは思い出せないが、水族館のある臨海公園の観覧車とテレビ局のある臨海エリアの観覧車、この二つは近くで見ているはずだ。
だが、
――その二つは明らかに『この』観覧車とは大きさが違う
となればやはりここなのだろうか。
この光景を見たのだろうか、いつ、だれと・・・さっぱり分からない。
『こっちだよ、こっち!』
頭の中が大いに混乱している中、女性の声が聞こえた。
それと同時に腕を引かれ誘われた、そんな気がした。
現実なのか脳内でのみ感じたのか、その判断も付かないまま誘われるままに草原方向へと歩みを進めた。




