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2-1

 ガラス張りのオシャレで大きな建築物。それを見掛け思わず立ち寄ったがなかなかに心地よい場所だった。

 ある一面の窓からはすぐ外に手入れされた綺麗な池、さらに視線の先を延ばすと海を望むことが出来る。

 カフェの様な施設も見受けられそこでコーヒーでも頼んで優雅な一杯、と洒落こみたいところであったが、あいにく自分以外に人は居ないのでそれは叶わなかった。

 材料だけでもあればそれで淹れようかとも思ったが、この世界でもさすがにそれは犯罪かと思い願望のみで留める。ほぼ間違いなく今の行動も見られているんだろうから。

 それに雰囲気的にコーヒーを飲みたいだけで決して疲れた、喉が渇いた、と言う様な事でもないので我慢にすらならない。

 ある意味では便利だが

 「情緒は無いよなぁ」

 思わず独り言も漏れる。

 それくらいには不満に思った点である。

 試しに目を瞑り目の前のテーブルの上にコーヒーの注がれたカップを想像しながら右手の指をパチンッと鳴らしてみる。そしてゆっくり目を開けるとテーブルの上には

 「まぁ無いよな」

 何もなかった。当然だろう。

 「ん-、やっぱり無理かぁ、死神になればできるようになるかなぁ?」

 自分をサポートしてくれるといった彼女のように。

 とはいえ食べ物や飲み物を出して貰ったことは無いからそれが本当に出来るかは分からないが。


 そんな死神さんと離れ、いまは一人で公園の散策――探索をしているところだった。

 その理由は主に二つ。

 一つ目は公園を散策することで覚えてるところや思い出せるところがあるかもしれないので探してみる、というもの。

 彼女の言っていた通りこの公園は本当に広い。

 時計がないので時間が分かる訳ではないがこの建物に辿り着くにも相当な時間を要した。

 ここまでの道中、風景も七変化と言わんばかりに姿を変えていた。花の咲き誇る丘陵、まっさらな草原、いま居る砂地・・・のような場所と実際にはいまがまだ三つ目ではあるのだが。

 確かにこれだけ広いと実は知っている場所というのが本当にあるのではないかと期待もしたくなる。

 それが芋づる式に忘れている記憶を呼び覚ますかもしれないという期待も一緒に。

 ただそれと同時にそれ以上の不安に駆り立てられる。

 「ほんとに見つけられるのかぁ」

 大きなため息が漏れる。

 というのも二つ目の理由が起因となっている。

 そのせいでここに来るための時間が余計に必要だった、というのもある。

 それだけ厄介な話を彼女はしてきた。


 「ありがとうございます。でも無理なんかしてないですよ」

 言いながら彼女はオレの両肩を掴み少し力を込め離れるようにとの意思を示してきた。それに従い背中と頭に回していた両手をほどき、そのまま手が浮いた状態で後ずさった。彼女の腕が伸び切りそこからさらに離れて肩から手をほどこうとしたが、彼女はそれを首を横に振ることで制した。

 「私はこの道を選んで良かったって胸を張って言えますよ。これが私の『生きる道』ですから、死んでますけどね」

 ふふっと笑いながらしめる彼女を見てつられて笑ってしまう、二人の笑い声は次第に大きくなりあたりに響かせる、互いが救われた、なんだかそんな気分になれた気がする。

 涙も自然と止んでいた。


 「おおよその説明は終わったので、本来ならあとは選択を聞いて案内していきたいところなんですが・・・」

 ひとしきり笑い落ち着いてきたところで彼女の方から切り出してきた。ただその言葉はいままでになく歯切れが悪く、それでいて申し訳なさげである。

 「実は一つお願いを聞いて頂きたいんです。」

 なるほど申し訳なさの要因はこれだった。

 しかし今のこの状況でお願いとは何だろうか。むしろ彼女の方が色々と出来ることは多い気がするが・・・。

 実はファーストキスもなく死んでしまったからその相手に!とかだったら大歓迎だが、いままでの流れからしてないだろうな。そもそもそんな経験をしてないということも無いだろう。当のオレはそこら一帯未経験な訳だが・・・

 「大変お恥ずかしい話なんですが・・・」

 え?うそ?ある?あるのか?

 「ここに来る途中でピアスを片方落としてしまいまして、それを探して欲しいんです」

 ですよねー。そうじゃないのは知ってましたぁ、はぁい煩悩のみなさぁん撤収、撤収。心の中で手を叩き何かを追いやる様に手首を甲の側へ振る。

 それにしても

 「ピアス、ですか?探すのは別にいいですけど、でもどうしてオレに?」

 当然の疑問だった。探し物にしても不思議な力を使えそうな彼女の方が得意そうに思えるし、なによりオレはおそらく他の場所に行くことは出来ない。

 行動可能な範囲がどこまであるのか分からないが、そもそもにして落ちている場所に行けない可能性の方が高いと思うことを伝える。

 が、

 「たぶんこの公園にあるはずなんですよ」

 そんなご都合主義があっていいのだろうか、とは思ったが彼女の話を聞くと――信じると、無いことは無いのかもしれない、そんな気もしなくもない。

 ・そのピアスには彼女の死神としての本分を全うする――世界を渡らせるための力が封じられている。

 ・ひとつ前に担当した人をしっかりと送り届けられたのでその時点ではピアスは無くなっていない。

 ・この平行世界自体を作り出したのはオレ自身で、他の迷い人達も同じように自分だけの平行世界を作り出している。なのでオレの世界に落ちている可能性が最も高い。

 ・ちなみに公園の外も現世と同じく広がっているが、この世界に来てからはこの公園に直接降り立ったので他の場所に落ちることはない。


 この公園にあるはず、という発言を補足する説明を要約するとこのような感じだった。

 そして最後に

 「可能性としては低いですが、前の方の世界にあるかもしれないので私はそっちを探してきますので」

 送り届けた後に落とした可能性もありますし、と続けられる。

 そう言われるとオレがこの公園を探すべきなのだろうと思わされる。

 当然オレはその前の人の世界とやらには行けないし、なによりそのピアスが見つからなければオレは自分で作った、らしいこの世界から動けないということになりかねないのだろうから。

 なかなか滑稽な話である。

 

 「本当に申し訳ないです」と頭を下げているが、これに関しては全くその通りだと思う、さすがに気にしないでとは言えない、おおいに気にして欲しいところである。

 ただ、唯一の救いなのはこの世界でどれだけの時間が経過しても試練を受けられなくなることはない、ということだった。それが出来なければ本当になにか詫びをしてもらわなければ割に合わない。

 今後の道を決める三つの選択肢、その内のどれを選ぶかを現時点ではまだ決められていなかったが。


 という経緯を経て今に至るが、もう本当に途方に暮れていた。

 公園が広すぎる。

 そして探し物が小さすぎる、その辺の小石と見分けが付くかも怪しいし、なんなら海岸もあるんだからそこに埋まってたり、波に流されでもしてたら絶望的である。

 とりあえず、埋まっている、茂み等に隠れてしまっている、というような可能性は一旦考えるのをやめ、見えている範囲だけを目を凝らして進むという作戦に出ているが、路上や道端を探すだけでもとんでもない範囲だ。

 現実世界ならほんとに一日二日じゃ済まないような作業に思える。

 「そりゃコーヒーの一杯も飲みたくなるわ」

 むしろとても些細な願いに思える。

 そんな独り言を言いながら建物を後にし、未踏の方面へと足を進めていく。

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