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5-1

 ――痛ッ、あたま痛った、昨夜飲み過ぎたか・・・。

 目覚めから後頭部に激しい痛みを覚え、瞼の裏はチカチカと輝いている。それが頭痛によるものか、あるいはそれを堪える為に瞼を力いっぱい閉じていることによるかは分からない。

 

 起床時間を知らせるスマホのアラームがけたたましく鳴り響いている。

 頭痛に加えてのこの電子音、最悪の組み合わせだが目覚めにはむしろ最上の効果だった。重い重い瞼をゆっくりと開く。

 「知らない天井だ」

 思いつくまま口を衝いたがそんなことは全く無かった。

 昨日の朝もここで目覚めていた、ただの見慣れないホテルの天井だった。

 ただただ寝ぼけているらしい。

 体を起こし大きな伸びをしてスマホを止める。

 普段仕事に行くよりは遅い起床、それでも前日の疲れも残っているせいか、あるいは慣れないホテルでの就寝のせいか、いずれにしてもあまりよく眠れた気がしていない、大きなあくびが連続して出る。

 まずは顔でも洗って眠気と頭痛を取ろうと思い洗面所に向かう。

 ――あれ?

 鏡に映るオレの顔にある涙の痕と充血した目が印象的だった。

 ――昨夜吐くほど飲んだか?

 そんな自覚は無かったが顔がそう物語っていた。

 恐らく寝ているときに一旦起きて嘔吐したのだろう、だから寝不足感が強いのだろうか。

 だがその割には喉は痛くなく、逆に頭痛がしているという少しあべこべに思える諸症状だった。これまでの経験上では呑んだ後に吐けば翌日に頭痛が来ることは無かった、その分喉はお亡くなりになっていたが。

 いささか不明点はあるが、まあそんなこともあるかと思い直し少し念入りに顔を洗う、彼女に涙の痕は見られたくなかった。

 

 荷物を整理しチェックアウトの準備を整え、すべてを持参し朝食へ向かう。

 食べたらそのままホテルを出て迎えの車を待つ算段だ。

 朝食は身軽に済ませたい気持ちもあるが、それ以上にエレベーターで何度も部屋と往復するのは面倒だった。

 朝食は和洋食バイキングでイクラや明太子などが豪勢にも装い放題ではあったが、昨夜たらふく海鮮をいただいてきたのでパンやハンバーグなど洋食でいただくことにした。

 ドリンクバーもあったので約束の時間まではコーヒーを飲みながら待つことにした、食後のコーヒータイムは至福である、洋食にしたことが更に功を奏したかもしれない。

 そんな時間を十分に満喫していたが、約束の時間を過ぎても一向に連絡が来ない。外に出て見回してみるがそれらしい車も見当たらなかった。

 ――まだ寝てるのか?

 昨夜連絡した際には仕事が終わり次第こちらに向かい近くまで来て車で仮眠をして迎えに来ると言っていた、高速は夜中の方が走りやすいから、と。

 まだ寝ているだけならいいが終業後の夜中の運転で事故なども心配される。

 一応ニュースサイト等を見てみるが近隣での事故情報は無いようだった。


 「あれっ?」

 街中で変な声を上げてしまった、フツーに恥ずかしい、辺りをきょろきょろ見渡すが特に誰も気にかけた様子は無かった。

 そんな声も出したくなる状況だった。

 大丈夫だろうかと思い連絡を取るために個人チャットアプリを開いたがフレンドの欄にも過去のチャット履歴の欄にも目的の相手――知人の名前が無かった。

 間違いなく昨夜連絡を取ったし、何なら通話もしたのだが。

 ――そうか通話

 今度は通話専用のアプリを開く。

 その通話履歴にも知人の名前は無く、電話帳の欄にもその名は見当たらなかった。その他にもSNSアプリやゲーム用ボイスチャットアプリなども調べてみたが知人の名前が忽然と消えていた。

 まるでそれまでも存在していなかったかのように。

 ――どうなってる?SNSの投稿は昨夜彼女にも見せたのに・・・

 ――そうだ、時間!

 時計を見るとすでに開場時間まで45分を切っていた。

 待ち合わせにも現れず連絡も取れないのでは一人で行くより仕方ないが、もう一つの待ち合わせがある、今度は自分がそちらに遅れそうなことを覚る。

 幸いなことにここから駅までの距離は近い。

 そこから順当にバスに乗れれば大きく遅れることは無いはずである。駅のバス乗り場に向かって駆け出す、途中階段があり二泊分の荷物の入ったキャリーケースがとても邪魔くさく感じる。

 無事にバス停に辿り着き、それほど待たずとも乗れそうな状況に安堵する。

 それでもすでに開場後の到着になる便に乗ることは確定しているので、同時に少しの遅刻が確定した。

 そのため再び個人チャットアプリを開く、これまではSNSしか知らなかったが何かあった時用にと昨夜飲んでいるときに連絡先の交換をした、それが早くも役立つとは。

 その交換の際にお互い一つずつお気に入りのスタンプを送りあおうとなり、最近出たばかりの双葉のスタンプを互いに送り笑いあった。

 その履歴から遅刻の、そして謝罪の連絡をしようとしたが出来なかった、そのような履歴は残っていなかったからである。

 ――またッ?

 今度は声に出さないように気を付ける。

 チャットアプリ、SNSアプリ両方のフレンド欄にも彼女――さよりさんの名前が無かった。

 その他の双葉関連のフレンド、こちらが一方的に見ているだけの有名人、もちろん双葉のアカウントもすべて存在している。

 個人チャットアプリの方も家族、昔ながらの友人、仕事関係の人まですべて残っているのに二人の名前や履歴が全く表示されない。

 ――そうだ検索っ・・・

 SNSではユーザー名やH.N.その他投稿内容に関するワードでの検索が出来たことを思い出した。万が一自分が誤って二人のフレンド登録を解除してしまっただけならそれに引っ掛かるはず、そう願い「ゆうじん」「さより」を検索するが出てくるのは同じ、または似たような名前の別のユーザーばかり、さすがにユーザー名は覚えていなかったので、直近――主に昨日投稿していた内容のワードを思い出しながら検索するがそれも空振りに終わる。

 ――どうなってるんだよ、いったい・・・。

 二人の姿があらゆるSNSから忽然と消えている、昨日の今日で、である。

 もっと言えば別れてから――話をしてからどちらも半日と過ぎてない、その間に――オレの寝ている間に一体何が起こったのだろうか。

 特定のアカウントが突如使用停止になる、いわゆる垢BANの可能性も否定できないが一度に多数のSNSで同時にというのは聞いたことが無かった。

 それにその理由も思い当たらなかった。

 

 会場に向かうバスがやって来る、今の順番的にこのバスに乗れそうである。

 乗車中に二人と共通の知り合いや今日RrJに行くどちらかの知り合いなどにコンタクトを取ってみようと思う。

 もしも連絡が取れそうなら仲介をお願いしたい、そうでなくても何か手掛かりでもあれば、そんな心持ちで目の前に停まったバスに乗り込む。

 席を確保した安堵でため息をついた際に、ふと昨夜の居酒屋のレシートを自分が持っていることを思い出した。特別な意味は無いかもしれないが、少なくともその時間までは一緒に居たことを証明してくれる、少しでも気を落ち着かせることが出来る気がした。

 財布を取り出し探ると確かに昨夜行った海鮮居酒屋のレシートが出てきた。

 店名のすぐ下に精算した時間と、客数「1名」と記載されていた。この時点で少なからず動揺は走ったが、店舗によってはここを正確に入力しなかったり誤入力等も考えられるだろう、学生時代のバイトではそれでよく叱られたものだ。

 それでも明らかに一人では――彼女が居なければ食べ切れない量の品数が記載されて

 ――ッ!?

 いなかった。

 一人分のアルコールとお刺身、〆のお茶漬け、これだけだった。

 支払額も割り勘で払った一人分よりもかなり安い金額が記載されていた。

 悪い夢を見ているようだ。

 安寧を求めたはずのレシートに逆に蹂躙されてしまった。

 そんな者が居るのはお構いなしに期待に胸躍らせた者を詰め込み終わったバスは会場に向けて発進していった。

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