第六話 まさかの展開2
「では。夏神紫杏さんのホームステイ初日を祝して、乾杯!」
父さんがそうは言うものの、まったく盛り上がらず。いつも適当な料理しか作らない母さんも今日は力を入れたらしくご馳走だ。
「いただきます」
と乾杯を無視し、僕と妹と夏神は食べ始める。
母さんは乾杯の形はしたが、元々ノリのいい方ではないので「いただきます」で食べ始めた。
一人だけテンションのちがう父さんは取り残され、恥ずかしそうに椅子に座る。
「あのさぁ。ホームステイで人が来るっていうの聞いていないんだけど」
妹が隣に座っている母さんに向けて言う。
「そうそう。僕も聞いてないよ」
「ごめんね。言うのを忘れていたのよ。でもうれしいでしょう、こんな美人さんだなんて」
「ああ、うれしいなあ」
父さんが答える。その後自分に対してではないと気づいて、恥ずかしさを紛らわすためにビールを一気にコップ一杯分飲み干す。
「夏神さん、これからよろしくね」
「一時の間だけとはいっても、その間は家族のようなものだからな」
「はい。こちらこそ」
「夏神さんの話が聞きたいわ」
「私の、ですか」
「帰国子女なんでしょう。向こうでの暮らしとか聞きたいわ」
「わかりました」
なんだかんだで今日の夕食は会話が弾んだ。
夕食後、僕は夏神を二階に案内した。使われていない空き部屋がひとつあるのだ。そこが夏神の部屋になるらしい。
ドアを開けてやるとそこにはベッドやタンスなどの家具が一式揃っていた。確か庭にある物置に入っていた家具だ。
「じゃあ、僕はこれで。荷物は父さんたちがもう運んだっていうから、部屋の中にあると思うよ。わからないことがあったらいつでも訊いて」
「ありがとう」
夏神が部屋に入るのを確認した後、僕は自分の部屋に逃げ込んだ。
電気をつけ、ベッドに飛び込む。布団に顔を突っ込んで叫んだ。
わああああああああああああああああ!
これはどういうことだ! なんという幸運! とてつもない美少女が家にいる!
「くくく……」
雀部は相当羨ましがるだろうな。いやまてよ……よくよく考えればこれは幸運か?
席が近いというだけであれほどの迷惑を被ったんだ、もし同じ家に住んでいるなんてことがばれたら……どうなる?
ぞわっと一瞬鳥肌が立った。もしかすると…………やめやめ!
首を振って僕は心の中を一旦リセットする。落ち着こう。
しかし……不自然じゃないか、転校してきた美少女が自分の家に泊まるだなんて。何か裏でもあるのか? 心当たりは……ないなぁ。
顔を上げてベッドの上で胡坐をかき、両腕を組んで目を閉じる。なんか引っかかるなあ。なんだろ?
ああそうだ。夏神を前にどこかで見た気がするような……しないような。うーん。
●
「予定とは少し違いましたが、目標と接触しました。そしてこちらは予定通り、目標の住む家に潜入成功。今夜にでも行動を起こします」
『今夜って……早くない?』
「悠長なことを言っている場合ではありません。すぐにでも目的を達しないと、奴が始末しに来る可能性があります」
『一応私が見張ってるからしばらくは大丈夫だとは思うけれど』
「命が掛かっているということをお忘れなく」
『そうだったわねー……忘れちゃいそうだった。だって結構あの子私のタイプだし、そ』
「……通信終了します」