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第五話 まさかの展開1

「か、夏神ちゃん、いや、夏神さん。えと……」

「ふふ。呼び方はどのようなものでも構いませんけど」


 夏神の柔和な笑みに射抜かれた雀部は何故かよろけて顔を両手で覆い隠した。乙女か。

 いちいちモーションが大きい。


「紫杏ちゃん! って呼んでいいかな」

「はい」


 夏神が微笑みながら答える。


「あ、あと、友達になってください!」


 九十度に腰を曲げて、深々と頼み込む。


「はい。喜んで。雀部さんが友達第一号ですね」


 ひゃっほう、とか叫びながら雀部は住宅地路地を飛び跳ねまくる。そしてやって来た車にクラクションを鳴らされ、運転手に怒鳴られた。

 隣の夏神を見ると、楽しそうだった。そういえば……学校では一切笑っていなかったな。

 雀部は……言うまでもなく。ニヤニヤが収まらずに変態にしかみえない。

 しかし雀部のハッピータイムも終わりだ。何故なら、雀部の家に到着してしまったのだ。

 名残惜しい雀部は家に入らず、


「やっぱり、紫杏ちゃんの家まで護衛します。近頃この一帯は物騒ですから!」

「いや……それはちょっと……引きます」

「ああ、うん、そうだよね。ごめんな。じゃ、じゃあまた明日学校でー」


 大きく手を振る雀部を後にして、僕は歩き始めた。それについて来るように夏神も隣に並ぶ。

 さて。僕は雀部のように会ったばかりの人に対して気軽に話しかけることができるほどの技量を持ち合わせていない。

 優等生のほうも結構人見知りタイプなのか、数分間まったくの無言のまま歩き続けていた。

 僕としてはすぐにでもこの気まずい雰囲気から逃げ出して自転車で駆け抜けたいのだけど、夏神はどこまでも僕と一緒に歩む。

 空気を読んで、「家はこっちだからそれじゃ、また明日」とか言って別れてくれればいいものを。

 ……さすがに耐え切れないよ。


「あの」

「何でしょう」

「家はどこにあるんだ? いや、そういう意味じゃなくて、歩いて行くには遠い場所に家があるんだなぁと思って」


 夏神は首をかしげて、


「知りませんけど」


 と悪びれた素振りもなく言った。


「知らないって……」


 そうして会話が再び断絶。

 ここは二人が通るには広すぎる。車が二台ぎりぎりで通れるかといった狭い道路ではあったけど、こうも広く感じることは初めてだ。

 なんだか広い空間に二人だけで、ぽつんと取り残されてしまったかのような感覚。錯覚。

 自転車で片道二十分程度の道のりだけれど、歩いて行けば一時間ほどはかかってしまうこの道。遠い。

 学校を出てもう四十分ほど。日は暮れて、街灯がぽつぽつとあるだけなので辺りは暗い。

 二人のはずなのになんで孤独を感じるんですか。寂しいです。

 隣をちらりと見やる。

 夏神は夜空を見上げていた。僕もつられて見上げる。

 月が二つ。それ以外には何もない。星は見えない。

 大きい月と小さな月。

 大きな月は小さいほうの何倍もある。満月は過ぎたとはいえ昨日のことなので今夜も大きいまま。


「ねえ。左座君」

「え。何?」

「月って好き?」

「いや……別にどうでもいいって感じ」


 唐突に聞かれても自分は曖昧に返すしかない。


「……そう」


 夏神は上げていた顔を下げて、視線を前に向けた

 まずった。好きだって言って、ここで少しでも好感度を上げておくべきだったか。って好感度を気にするとか……雀部みたいなことを考えるとは。


「おーい、誠人」

「どこへ行く気なの?」

「あれ? 父さん、母さん」


 気づかなかった。僕はもう家に着いていたらしい。呼び止められなかったら僕はどこまで歩いていただろう。

 両親は玄関に並んで立っていた。いつもより遅くなったから心配したのだろうか。僕は高校生だと言うのに。


「あ、夏神さん。ここ、僕の家だから……」

「そうなの?」


 隣にいる夏神に気づいた二人はこっちまで駆けて来て、僕の予想外の行動をとった。


「あなたが、夏神紫杏ね?」

「はい」

「ようこそようこそ。さあ、こっちです」


 父さんがドアを開けて家の中へ手招きする。

 あれれ?


「えっと、父さん? 何で夏神さんのこと知ってるんだ? しかも家に招くっていうのは……」


 父さんは自分の額を手でぴしゃりと叩いて、


「そういえば、伝えるのを忘れてたな。夏神さんはうちにホームステイということだ」


………………………………何だって!?


「………………………………何だって!?」


 僕は雷に打たれた気がした。そして硬直した。


 えええええええええええええええええええええええ!?


 まさかっ! こんな展開があるものか! 


 全身から変な汗が噴出してきた。まるでサウナにいるかのような量で、顎から水滴が落ちるほどだった。


「かっ!」


 首を横に振って自転車を所定の場所に置き、僕の頬をつねってみた。


 痛い。


 いや、これではまだ夢ではないという証拠にはならない。

 玄関にあるコンクリート製の柱を思いっきり蹴りつけてみる。


 …………っ!


 脛を打って悶絶。


 ゆ、夢じゃないだって? どーゆーことだっ! 


「誠人、何をしているんだ? 早く入らないか。いまから歓迎パーティを始めるぞ」

「え、あ、うん」

 


久々の更新なので二つ分。

暇な時間がなくなってきているので更新は遅くなるかと。

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