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第二十二話 過去1

 僕は外出着のままだったので着替える必要はないけど、夏神はパジャマなのだからと僕は部屋を一旦出た。と、その直後に夏神も部屋を出てきた。

 あれ? と思って振り返ると夏神は既に着替え終わっていて「行け」と手で急かしている。服は今日着ていたものとは違うようだ。一瞬で服を着替えるマジシャンがいるけれども夏神もそういった類か?

 そっと家族の誰も起こすことなく家を出る。外に出ると大きな物音も立てずにここまでやって来れたことに胸をなでおろす。そしてゆっくりとコンビニへ歩き出した。

 歩きながら、これから一体何がわかってしまうのか、ほんの少しだけ不安に思った。ペネロペさんの口調は計り知れない、巨大な決断を迫られたようだった。もしかして……いや、これ以上考えたって無駄だ。どうせ分かるんだし。


 街灯がぽつぽつとしかない道でも月明かりのおかげで見通しがいい。

 隣の夏神を見遣ると、なにやら夏神は重たい表情だった。


「どうしたんだ? 表情暗いぞ」

「……お前が言うことか。お前の表情がうつっただけだ」

「え、僕?」


 顔を両手で撫でる。そんな顔をしていたのか……うーん、自分の表情筋の制御に自信がなくなってきた。


「それにしても……あのさあ」

「どうした?」

「お前お前って呼ぶけどさ、僕には左座誠人って名前があるんだけど」

「……それでは、誠人と呼ぼう」

「……いきなり名前かよ」

「左座と呼んでは、家族内で区別しにくい」

「それはそうだけど……わかった。名前で呼んでいいから、最低でも君は付けてくれよ」

「了解した。誠人君」


 自分で言ったのは何だけど……いざ名前で呼ばれると体がむずむずする。夏神が異性だからだろう。女の子から名前で呼ばれるのは初めてだし。


「……す、すまん」

「何故謝る。誠人君」

「それ語尾にするなよ」

「……要求が多いな。誠人君?」


 夏神の表情わずかに綻んだ。ふう。夏神がずっとあんな雰囲気だったら近くにいるだけで滅入ってしまうな。


 コンビニに到着すると、そこの入り口近くにコーヒーを飲んでいるペネロペさんが立っていた。


「来たわね。こっちよ」


 コーヒーを飲み干し、ごみ箱にそれを投げ入れてからペネロペさんは僕たちを誘導した。

 コンビニの裏に回るとそこには前に雀部たちを乗せた、エアーバイクが停められていた。真っ先にペネロペさんはバイクに跨った。


「乗って」

「どこへ行くんですか?」

「いいから、乗りなさい」


 鳥肌が立った。ペネロペさんはその容姿に見合わない凄みを醸し出して、今にも空気が爆発してしまいそうな緊張を作っていた。

 僕と夏神は無言で乗り、ペネロペさんは即座にエアーバイクを発車させた。足元からガラスがせり出してバイクを包み込む。

 数分ほど空中を走行した後、ペネロペさんは様子を伺うように下を覗き込み、バイクを包んでいたガラスを解除した。同時に猛烈な強風が僕に衝突した。


「うおっ」


 バランスが崩れて落下しそうになったけれど、夏神が後ろから支えてくれていた。


「た、助かったよ」

「しっかり掴まっていろ」

「ご、ごめん」


 掴まれと言ったって前には背の低いペネロペさんしかいない。掴まろうとすれば肩を持たなければならず、安定性に欠ける。もしくは胸に手を回すか。さすがにそれは。


「ほら、二人とも降りて」


 僕が落ちそうになっていた間にエアーバイクはもう着地していた。

 場所は……見渡しても近くに明かりがない。人もいない。ここは、どこかの川の土手のようだった。草が土手を覆っていて、砂利と砂で河原の境目ができていた。


「見覚えがある。ここは……」


 そう、夢で見た場所だ。ということはと、目を凝らして辺りを見回すと夢で見たものと全く一緒の橋を見つけた。


「あれは……」

「あの橋は覚えてるようね」


 ペネロペさんは土手に座り込み、腕時計をいじった。するとエアーバイクはひとりでに動き出し、どこかへ飛んでいった。


「座りなさい、二人とも」


 僕はペネロペさんと一メートルの距離を開けて座った。近づきたくないと思うほどに近寄りがたかった。これでも努力したほうだ。夏神はペネロペさんを挟んだ向こう側に座った。

 ペネロペさんは目を閉じ、すっと息を吸い込んで、


「二人に聞いてほしい」


 と力強い芯の通った声で切り出した。


「始めに言っておくわ。これは世界でも知る人間はほとんどいない特S級の機密情報よ」

「……?」

「……つまり、知っているというだけで常にあなたの周りに監視がつく。口外でもしようものなら抹殺されるわ」

「……え?」

「こう見えても私は組織の中でもトップのほうの人間だから、監視はないんだけど。それでも地位が降格するのは間違いないわね」


 僕はあまり意味が分からず、首をひねった。どうしてそんなことを言うのか。


「あなたのプライベートなんてものは完全になくなる。それだけじゃない、家族や友達まで監視される。この情報を持つものは世界の危険因子だから。それでも……聞く?」


 ペネロペさんは目を見開いて僕を睨み付けた。


 卑怯だ。


 僕が好奇心だけで聞こうとすれば、周りの人たちにまで被害が及ぶ。聞くなと、最後の最後で、ここまで連れてきておいて、脅しているのだ。それでも、それだからこそ、何故それほどの情報が僕に関係があるのか。それを知る権利は消えてはいない。


「……それでも、聞きます」


 ペネロペさんは深くため息をついた。


「いいのね?」


 念を押す。


「はい」


 答えは変えない。


「はあ~あ、左座君は怖気づくと思ってたのに。ま、いつかは話さなければならないことではあったけど」


 ペネロペさんは土手に寝転んだ。今までの雰囲気は僕を威圧するためだったのだろう、開き直った彼女からは凄みが無くなっていた。


「それと、夏神ちゃんはどうする?」

「私には元々、プライベートなどありません」

「そう言うと思った」


 ペネロペさんは体を起こし、頭を掻いた。


「どこから話そうかしら。そうね、現在から数百年前、賢者たちがまだ生きていたころから話さなくてはね」

「賢者?」

「そう、賢者達。全六人。そのたった六人で世界を掌握したのだから並の奴らじゃないのは分かるでしょう」

「ええ。それは」


 一応、歴史の授業で習っているからわかる。……持っている知識が正しいかは自信がないけど。


「そして彼らはほぼ同時に、全員死んだ。そうよね」

「だと思いますけど」


 ちょうど数日前に復習したところだ。


「じゃあ、その六人のうち、既婚者は何人いたか知ってる?」

「……知らないです」

「ゼロよ」

「皆独身だったんですか?」

「そう」


 こんな知識、雑学を無駄に勉強した奴ぐらいしか知らないことだろう。


「でもね、彼らには子孫がいるのよ」

「……?」

「正確に言うと、彼らの体細胞クローンね」

「クローン……って禁止されてるはずじゃあ」

「そうよ。今も昔も人間のクローンは国連で絶対禁止令が出てるわ」

「無視したんですか?」

「ええ。でも仕方がないことだったの。そうでもしなければ世界中の生き物が死に絶える。もしかすればそれ以上。太陽系がなくなる危険もあったの」

「い、意味が分かりません」

「賢者達はね。これまでに類を見ないほど強力な力を持った能力者だったのよ」

「……!」


 賢者達は科学者かもしれないということは知っていた。けれど、能力者だった?


「じゃあ、賢者達の発明や研究は?」

「能力があったからこそ。あらゆる物理法則を操る能力者がいたみたいだし」


 ……知っていることが全然違うことだといわれると、どうにも納得できない。第一、能力者というのが非現実的……だと思う。隣の二人を無視すれば。



題名を付けるの忘れてました^^;

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