1.火炎
どうやらこの世界に転生して十五年が経っていたようだ。
燃え盛る炎の中で前世の記憶を取り戻した。
地球とは別の世界に生を受け、領地を持たない王都暮らしの男爵家の次男としでぬくぬくと育ってきた。
それが今、屋敷は燃え、父と母も燃え、兄も燃えた。
怖くて震えて泣き叫んでいた世間知らずの次男様は隠れていたおかげで難を逃れたわけだ。
そんな俺を外に連れ出したのは当家の使用人の女。
なにかしらの声を掛けてくれているが今は家族を失ったことに加えて前世の記憶を取り戻したことで頭の中が無茶苦茶だ。
ああ、うるさい。
それから一週間ほどが過ぎた。
家族を失ったことの整理はついた。
前世を思い出したせいでぬくぬくと生きてきた今までの俺の性格は前世の性格にほとんど塗りつぶされてしまったようだ。
前世の俺も大した経験をしてきたわけではないがこの世界の俺よりは経験が豊富と言えるだろう。
あの火事からの脱出後、憲兵隊に連れられ事情聴取を受け、帰る場所がない為にそのまま憲兵隊にお世話になった。
先ほど王宮からの使者によって沙汰が下され、男爵位を継ぐこととなった。
「クルト様。おめでとうございます。私、セルジュは誠心誠意クルト様にお仕えいたします」
俺をあの火事から連れ出した女はセルジュと言って当家に使えてまだ半年のメイドだ。
「なぜか俺がゼファニオス家を継ぐことになったが、何もない。それどころか火事による損害賠償によって多額の借金があるんだぞ。そんな俺に仕えるのか」
こんな次男を当主にして王家はどうしようというのか。普通ならお取り潰し、陛下に忠誠と多大なる感謝を捧げよと使者に耳がタコになるほど言われた。
この女が何を考えて俺に仕えると言っているのかは全くの謎だが精々利用してやるとしよう。