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また一緒に星を見ましょう  作者: 青木りよこ
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  私の愛する貴方へ


お元気ですか?

私は元気とは言い難いのですが不愉快ではありません。

身体は身軽でそれが何より素晴らしいともう私は知っています。

大変な手術をしたそうなので夫とはもうかれこれ半年以上会っていません。

これは私にとって何よりの喜びを与えてくれています。

貴方はトウキョウに行けましたか?

何処にいても元気でいると確信しております。

私は毎日何もしておりません。

時間だけは無限にあって貴方のことを考えられるのが嬉しいです。

あの緊急着陸自体私の妄想かと思ったりもしますが、私の中に貴方がいる以上それはないのです。

貴方はいます。

三日間とても楽しかった。

貴方は私を見ても驚かず、大丈夫?と尋ねてくれました。

私達は翻訳機を介してしか話せませんでしたが、同い年の女性と話したことのない私には全てがこの上なく貴重で取りこぼしたくないものばかりでした。

色んな話をしましたね。

貴方が崇拝する歌を生業とした男性の話はとても興味深いものでした。

私は踊る男性というものを初めて目にしたのです。

彼らは光の洪水の中で眩い美しさで情熱が迸るようでした。

貴方はいつか絶対参戦するんだと言っていましたね。

それは実現したのでしょうか?

将来カンゴシになりたいと言っていましたね。

それはもう叶ったのでしょうか?

貴方はお客さんだからと言って自分のベッドに私を寝かせてくれましたね。

あれほどよく眠れたことはありませんでした。

朝早起きして海辺を二人で歩きましたね。

乳母以外の人と手を繋いだのは生まれて初めてのことでした。

小さなお店に入り冷たいものを買ってくれましたね。

あのじゃりじゃりした水色の冷たくって甘いものは何だったのでしょう?

翻訳機にかけてもわかりませんでしたね。

貴方が焼いてくれた黄色くってふわふわした暖かい食べ物を思い出します。

赤い液体でウサギさんと言って絵を描いてくれましたね。

可愛いものでした。

貴方はいつも歌ってました。

私も時々それを口ずさむのです。

キミハプリンセスボクダケノエンジェルそこだけ憶えております。

貴方がいとも容易く火を使うのには驚かされました。

貴方の星では普通なのでしょうね。

何もできない自分をつくづく恥ずかしく思います。

時間は無限にあるので手紙がはかどります。

私は貴方に書かずにはいられません。

こうして書いている間だけはまだ自分が正気であると思えるからです。

これは大切な確認作業です。

貴方を知った私は幸福です。

何も知らずに死ぬよりよっぽどそうです。

我が国以外には自由があり、愛があり、権利があるのです。

それを幸せと呼ばず何と呼ぼうと言うのでしょうか。

貴方は何処へだって行ける。

大声で歌うことができる。

買いたいものが買える。

見上げれば青い空、白い雲、風は吹き、大地は揺れ、海を目指せる。

夫とは没交渉になりましたが私はここからは出られません。

運命とはおかしなものです。

貴方と出逢ったこともそうであるのなら仕方のないことです。

貴方はオイシイと何度も言いましたね。

オイシイとは味が良いと言うことだと教えてくれました。

私の人生にはなかったものです。

あの三日間だけそれがありました。

貴方が私に食べさせてくれたものはオイシイものでした。

そしてそれには温度がありました。

冷たいものですらそうでした。

貴方は美味しいは幸せということだと言いましたね。

それも私の人生にはないものでしたが今貴方を思い出している私にはそれがあるのです。

貴方を知って私はそうなったのです。

心に芯をくれました。

決してぶれない芯です。

関節となったと言っていいと思います。

貴方のおかげで真っ直ぐ立っていられます。

貴方は私を綺麗だとしきりに褒めてくれましたね。

私は今貴方こそ最も綺麗だと思われます。

生きようとしているからです。

私もそうありたいと思います。

諦めないでいようと思います。

貴方は生きてさえいれば何とかなるんじゃないと言いましたね。

私も今そう思おうとしています。

先のことは何もわからないし、迷った時は取りあえず今後の望みを一個ずつ思い浮かべると言いましたね。

これあっているのでしょうか?

翻訳機はこうだったと思います。

互いに違う言語というのは難しいものですね。

私の言葉も通じていたのか不安です。

何も残せず帰ってしまったことも謝れていませんね。

迎えが来てしまったので仕方がなかったのです。

もう一度逢いたい。

今度逢えたら沢山の話をしたいです。

それまでに私の望みを考えないといけませんね。


一つはこの屋敷から出たいです。

髪を切りたいです。空を見る、星を探す、海にも飛び込んでみたいです。

でも貴方に逢えたらそんなこと全て些末な事だと笑い飛ばしてくださいね。

貴方は何だってできる。

それ以上のことなどこの世には何もありません。

貴方がいれば私は他には何もいりません。

ミカコ。

とてもいい名です。

生まれて来た娘につけたかったのですが叶いませんでした。

その子とは産んでから一度も会っていません。

元気でしょうか。

確かめることもできないのです。

二つ目はその子に会うことにしましょう。


ミカコ。

私達は誰よりも遠いです。

でも貴方以上に私に近い人はいません。

どうかお元気でいて。

貴方があの星にいるそれが私の人生に歓喜を与えます。

愛しい人。

そう貴方は私の愛しい人です。



エスタより

火星より愛をこめて。



322年3月29日



















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