1.冒険者になりました。
「セナ、リン、そしてラナ。お父さんな、冒険者として食っていこうと思うんだ」
「えっと、お父さん……?」
「ねぇ、それって何の冗談なの?」
「セナお姉ちゃん、リンお姉ちゃん、冒険者ってなぁに?」
俺は帰宅するとすぐに、三人の娘に事の次第を報告した。
湖の女神様から聖なる斧を授かったこと。世界最強の男になれば秘薬が手に入る、ということ。そして、そのためにまず冒険者になるときめたことを。
だが、反応は以上の通り。
特に末っ子のラナに至っては、話についてこられていないようだ。
「えーっと、うん。ひとまず、お父さんは深呼吸をして?」
「すーすー、はーっ」
「うん、それで冷静に考えてみて?」
「うーん……?」
次女のリンに言われて、しばし考える。
だが、話をした以上の解決策は浮かんでこなかった。
「でも、冒険者になれば今の生活より楽にもなるぞ?」
「そうじゃなくてぇ……」
うな垂れるリン。
そんな彼女の後を受けて、長女のセナが言った。
「あの、お父さん。一つお訊きしたいのですが、戦闘経験は?」
戦闘経験、というと。
つまるところ、魔物と戦ったことがあるか、ということか。
俺はセナの言葉に対して、自信満々に胸を張りながらこう答えた。
「皆無だな! 自慢ではないが、スライムからでも逃げてきたぞ!!」
「本当に自慢じゃないわね……」
すると、リンが呆れたように言う。
しかしながら、このままでは話も平行線だと分かっているのだろう。娘たちは顔を見合わせて、大きなため息をつくのだった。
そして、後方のベッドに眠る俺の母――彼女たちにとっての祖母――を見る。
母は優しく微笑みながら、こう言うのだった。
「うん……。テクトの好きにすれば、良いんじゃないかい?」――と。
それで、決着。
果たして俺は病の母を救う第一歩として、冒険者となるのだった。
◆
――辺境の町、オリーブ。
その冒険者ギルドには、王都から流れた者が多く在籍していた。
腕に覚えがある者が集っているが、一癖も二癖もあるのだ。なのでオリーブの人間からはみな、どうにも敬遠され気味、というのが正直なところ。
俺はそんなギルドの中に足を踏み入れ、一直線に受付へ向かった。
「すまない。冒険者登録をしたい」
「ん、ルメーナのとこの坊主じゃねぇか。どういう風の吹き回しだ?」
「いやー、うん。話せば長くなるんだが――」
受付の男性に、俺は事情を事細かに話した。
すると――。
「あー、そうか。うん、なるほどな」
「…………ん?」
何故だろう。
物凄く微妙な顔をされてしまった。
俺が意味を理解できずに首を傾げていると、男性は一枚のカードを寄越す。
「まぁ、最低ランクからだけど頑張りな」
それは冒険者カードというらしい。
どうやら俺は先ほどの話で、冒険者として認められたようだった。
これで後は、依頼を受けてこなせば良いらしい。そうとなれば、早速――。
「ん……?」
と、思った矢先だった。
「ふざけんな、俺様を誰だと思っていやがる!?」
そんな、どこか喧嘩腰な声が聞こえてきたのは。
声のした方を見ると、そこには――。
「ご、ごめんなさい! でも、これは確かにボクの集めた素材で……」
「うるせぇな! てめぇ如きが、こんなに集められるわけないだろ!」
「本当です! 信じてください!!」
継ぎ接ぎだらけの服を着た少年を足蹴に、大声で怒鳴り散らす男性の姿。
周囲の人々はどこか呆れたように。そして、興味なさそうに見ていた。
どういうことだろう。だが、俺には気になって仕方ないことがある。
だから――。
「おらぁ……って、なんだお前は?」
「あの、すまない。一つ、良いだろうか?」
彼らの間に、割って入った。
そして、首を傾げながら男性にこう注意する。
「大人が、子供に暴力を振るうのは駄目だぞ?」――と。
周囲が一気に静まり返った。
「…………は?」
「どう考えても体格差がある。子供相手に本気で殴る蹴るをしては、大怪我に繋がる場合だってあるだろう? それに、仮に間違いを犯したのが子供でも、暴力で解決するのは駄目だ。どこが駄目だったのか、ちゃんと話し合わないと……」
どうやら、何故に自分が注意されたのか分かっていないらしい。
俺はそれを察して、懇切丁寧に語って聞かせた。
すると、
「ぶっ……あっははははははははははははははははは!!」
「む……?」
男性は、野太い声で大笑いを始めたのだった。
俺はその様子を見て、また首を傾げる。そうしていると、
「とんだ間抜けがいたもんだな! いいか、ここでは俺様がルールなんだ!」
「自分がルール? いや、それはおかしくないか」
「うるせぇな、そうなっているんだよ!」
「ふむ……?」
男性が言うので、俺は後方に控える少年に訊ねた。
「……と、言っているが?」
「違います! この人は、ボクの手柄を横取りしようとしてるんです!」
こちらの問いに、涙目ながらも少年はそう答える。
彼の様子を見る限り、嘘をついているのは大男の方だ、と感じた。
「やっぱり、そちらの言い分が通らないようだが……?」
「ふん……! だったら、どうするってんだ?」
「そうだなぁ……」
男性がどこか試すように言うので、俺は真剣に考える。
その結果、出てきたのは――。
「あー、そうだな。これがいい」
「あん……?」
俺は背負っていた斧を手に取り、構えた。
そして、男性にこう告げる。
「地域の子供を守るのは、大人の役目だ。だったら――」
努めて、大真面目に。
「俺がお前を、撃退する!」――と。
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