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私を取り巻く環境の変化 2

 

 執事長を睨むように見上げる甲霞様。

 居心地悪そうにした執事長は、「では、後ほど」と頭を下げて出て行ってしまいました。

 え、ええ? い、いいの……?

 というより、私を置いていかれるとそれはそれで困るというか?


「リセ様、こちらへどうぞ。少し長い話になるので、お食事をしながらお聞きください」

「え、あ、え、いえ、あの」

「大丈夫ですので」

「……っ」


 にこりと微笑まれてしまいました。

 まるで、私の事情はすべて把握している、と言いたげな微笑みです。

 立場が上の方と……それも来賓と同席した朝食だなんて、と困惑はしますが、望まれてしまった以上お断りもできそうにありません。

 なにより、執事長は去って行ってしまいました。

 これは『目を瞑る』ということなのかもしれません。


「し、失礼いたします……」


 頭を下げて、甲霞様の引いてくださった椅子に座ると、私が腰を下ろすのに合わせて椅子を押してくださる。

 エルフの国でも、元の世界でもされたことのない紳士的な行為。

 本当にこんなことのできる男性が存在していたとは……。

 私が座ると、窓の外から藍子殿下が部屋の中に戻ってこられ、私のことをチラチラ見ながら指をツンツンさせて拗ねたお顔をされる。

 どういうことなのでしょう。

 そういう意味を込めて甲霞様を見ると、私に対する笑みを消して藍子殿下を見る。

 その表情の切り替わりの速度たるや……。


「殿下、しっかりなさってください。あなたが伴侶と決めた女性の前ですよ。情けない姿を見せたらそれはそれで嫌われます」

「やだーー!」


 子どもさんかな?


「……で、でも、では、どうしたらよいのだ……? しつこくしたら嫌われる。情けない姿を見せたら嫌われる……どうしたらリセと仲良くなれる?」

「まずは我らのことと、殿下のことを知っていただくのが一番でしょう」

「そうっすよー。はい、まず着席着席」

「うむ」


 采様が椅子を引くと、素直にその席に座る藍子様。

 純粋なお方なのね……?


「こほん。……では、まず竜人族のことをリセ様に知っていただこうと思います。リセ様は我々竜人族のことをどのくらいご存じですか?」

「え、ええと……」


 質問の意図を深読みしてしまう。

 この方々は私が異世界から来たということを知った上で、この質問をしているのでしょうか?

 まずいです、エルフの国の竜人族知識がいかほどのものなのか、さっぱり知りません。

 いつ国外に捨てられてもいいように、時間を見つけて図書室で調べたりはしていましたが……。


「……竜人族は、この大陸の3分の1を国土として治める大国『亜人国』の主種族。人とドラゴンの二つの姿、そして高い知性と誇りを持つ覇者。『魔族国』の魔族と対等な力を持つのは、竜人族のみ……ということくらいしか……」


 エルフ族の方々は口々に「竜人め!」と忌々しさをこぼしている。

 それはどう見ても劣等感からのもののようにおもうのだけれど、彼らにはその自覚がない。

 エルフは確かに美しいし、長寿なのでしょうけれど……どうにも閉鎖的で自尊心しか縋るものがないように思う。

 遥か昔——それこそ世界が今の形になる前は、人間以外も精霊と契約して魔法が使えた時代があったそうです。

 エルフとハイエルフたちは、風の精霊と専属の契約を結び、お互いを尊敬し合って繁栄を極めたとか。

 けれど、精霊の一人と人間が愛し合った結果、寿命で亡くなった人間を諦めきれなかった精霊は魔神となり、その魔神を人間と精霊が倒すために世界は歪んでしまったらしい。

 すべての精霊は人間族のみと契約するようになり、倒された魔神は五つに引き裂かれて『五片魔王(ごへんまおう)』となった。

 ……どうして精霊が人間としか契約しなくなったのかは……謎のまま。

 誰が精霊に聞いても『そういう決まり』としか教えてくれないんだそうです。

 つまり、エルフだけでなく昔は竜人も魔法を使えた。

 でも風魔法に関しては、エルフ族の右に出る者はいなかったのです。

 エルフ族にとってそれは誇りだったのでしょう。

 それが奪われた彼らは、なにかに呪いを吐き、人を攫って利用することしかできない。

 なんとも矮小で卑劣な種族ですよね。

 もちろん口には出しませんけれども。

 そんなエルフ族の嫉妬の対象こそが、魔法を奪われてもなお栄華を極める竜人族。

 ……私の竜人族のイメージは、そんな感じです。


「なるほど。あまり生態まではご存じない、という感じですね」

「は、はい。申し訳ありません」

「よかったっすねー、藍子殿下〜。リセさんと話す内容がいっぱいあるみたいっすよー」

「お、おお。そうなのかっ」


 とてもポジティブな捉え方……!


「では、殿下からリセ様へ竜人族の生態を説明してもらいましょう。そのくらいできますよね?」

「できるに決まっている!」


 なぜか不安を覚えますね?


「こほん」


 と、藍子殿下は咳払いを一つ。

 私が言葉を待つと、なぜかチラリと私を見てから顔を背けてしまう。


「そ、そんなに見つめられると照れる……」

「え! す、すみません!」


 そんなつもりは微塵もございませんでした!


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