生花を学ぼう!
「あ、あなた藍子殿下にそんなことをしましたの……!? 藍子殿下、あなたにそんな仕打ちをされるような無礼を働きましたの?」
「い、いいえ、あの、たまたま偶然……本当に私がドジだっただけでして……。転びそうになったところを、藍子殿下が助けてくださろうとしたのですが、私はそれに気づかずバランスを取ろうとした結果、偶然あげた足がゴキっと……」
「ま、まあ〜〜〜……おとなしい顔して恐ろしいことをしますのね〜」
やっぱりそうですよね。
でも本当にわざとではないんです。
「ま、あとは藍子殿下との仲を深めていくのもあなたの重要なお仕事ですわね」
「ふぇあっ!?」
「当たり前でしょう、夫婦となるのですよ」
「うっ」
た、確かにその通りなんですが。
「で、ここまで聞いて、質問や希望はありますの?」
「え、あ……ええと……」
王子妃として、王妃の仕事を今から覚えていくのも了解です。
王妃様から教えていただいたことが、だいたいその通りというのも理解しました。
希望としては今すぐにでも城のメイドの仕事をしたいですが、王太子の婚約者としていずれ王子妃となるべくそちらの仕事を覚える方が重要ですよね。
では……やはり。
「茶道の作法を学びつつ、花道の方も教えていただきたいです」
「そうですわね、それがいいと思いますわ。特に花道は急ぎめで覚えた方がよいでしょう。近く、正式に藍子殿下の婚約者としてあなたの名前が国中に報されますわ」
「うっ!」
「そして来月には『竜誕祭』があります。国中から有力貴族が王都に集まり、当日は他国の王侯貴族も招かれますの」
「ひっ! そ、それはもしや……!」
「ええ……あなたの生花の作品が、そういう方々の目に触れますの。茶会に関しては今はまだ藍桜様が現役ですから、生花に比べれば優先度を下げてもよいと思いますわ。けれど……」
急務ではないですか……。
あまりのことにカタカタと体が震えてきましたよ。
城門の展示室に、王妃様のものと並べられ、来月には各国の王侯貴族や全国から集まるこの国の偉い方たち、国民の皆様にも見られることになる。
お妃様は言っておりましたよね。
『わらわ、最初はすごく悲惨で……みんなに微笑ましいものを眺める目で見られて恥ずかしかったわ〜』
素人の。
なにもわからないまま生けたものを……。
一ヵ月間。
それも、来月は『竜誕祭』。
「大急ぎで生花を教わることは可能でしょうかっ!」
「では、先生をご紹介しますわ。今から教わりに行きましょうか」
「よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げて、円歌様とともに王子妃邸を出ました。
庭で話しましょうというのは、このようにいつでも出かけられるように、ということだったのですね。
狭い木柵の通路をまずは真っ直ぐ通り、右へ曲がり、今度は左、右、右……め、迷路のようです。
「こちらが花道の先生の家です」
「な、なんだか迷子になりそうでした」
「わたくしの式神をつけておきます。帰り道はそれに案内してもらってください。では、わたくしは城の仕事がありますからここで失礼いたしますわ」
「は、はい! 色々とありがとうございました」
「いいえ。あなたが城のメイドとして働いてくださるのを楽しみにしておりますわ。では」
ああ、円歌様は城の執事長なんですよね。
私が城のメイドになったら、円歌様の部下ということになるんけですか!
それにしても女性なのに執事長とは……本当にエルフの国とは文化が違いますねー。
はっ! そんなことを考えてる場合ではありませんでした!
一刻も早く生花のやり方を習得しなければいけません!
「あ、あの、ご、ごめんくださーいっ!」
立派な門を潜り、玄関扉の前で叫びます。
とても古い、日本家屋の造り。
私がいただいた王子妃邸よりはやや小さいですが、こちらのお屋敷も十分ご立派です。
声をかけると、すぐに家の中から「はぁーい」と声がしました。
とんとん、という足音のあと、玄関で草履を履く音。
ガラリ、と扉が開くと、なんとも純和風の美女が現れました……!
「まあ、いらっしゃいまし。どちらさんでっしゃろ」
「あ、は、初めまして。私、リセと申します。こちらで生花を教えていただけるとうかがったのですが……」
「まあ、生徒希望の方どすか? 嬉しぃわぁ〜。入って入って〜」
……京都弁みたいな訛りの方ですね。
でも、ほんの少し大阪弁のようにも聞こえます。
関西方面、行ったことがないので違いがよくわかりませんが。
「うち、菜種っていうんよ。リセはんはもしかしてアレです? 藍子殿下の婚約者になったていう、話題の人どすか?」
「ふぁ!? ……わ、話題……? う、噂になっているんですか?」
「そやねぇ、そりゃあ、お年頃になってから何度名士のご令嬢が婚約者に名乗りを挙げ、勝負を挑んでもちぎっては投げ〜、ちぎっては投げ〜って、勝ち続けとった方がついに負けたんやさかい……」
「え……」
菜種様は、私をお屋敷の中に招き入れ、廊下を案内してくださいながら藍子殿下のことを少し、教えてくださいました。







