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『ラルディカ=アード』という世界で

 

 え? な、なん、は? ふぁ? な、なん、え?

 き、き、聞き間違いかな? なんて?


「え、あ、あ、あの?」


 戸惑いながら顔を上げた私は、生まれたての子鹿のように膝をガクブル震わせながら立ち上がる大陸最強種族の王子殿下が、未だ半泣きで笑みを浮かべたことに戦慄を覚えた。

 おかげさまで私も涙が滲んできましたし、膝がガクブル震え始めましたよね。

 その上、なぜから従者の皆さんは「だよな」とうんうん頷いているではありませんか。

 なにが「だよな」なんですか。

 おかしいでしょう、どう考えても。

 股間を押さえたまま、ガクブルの脚で私に一歩一歩近づく姿はさらなる恐怖を私に植えつけます。

 本能的に逃げなければ、と思うのに、「逃がさない」と言わんばかりの王子のオーラに足がすくんで動けません。


「女、名を名乗れ」


 声震えてますよ。

 本当にすみません、すみません。

 わざとじゃないんです、本当です!

 違うんです。

 本当に偶然なんです。

 滑って転んだらたまたま……。


「うっ、あ…… 梶咲璃星(かじさきりせ)……、リ、リセと申します……」


 いけない、恐怖でうっかり本名を名乗ってしまった。

 慌てて口を塞ぎ、それから改めて()()()()を名乗る。

 元の世界の名前は、この国の人たちに名乗ることを禁止されているのです。

 幸い、私の名前はこの世界で名乗るのに問題はない響きを持っていた。

 そのせいでこの国の人たち——エルフが望んだ『精霊との契約』は叶わなかったけれど……。

 仕方がない。


「リセ、か。よい響きだ。……俺は『亜人国』の翼羽藍善(よくばあいぜん)。王太子として『藍子(あいし)』と呼ばれている」

「ひいっ!」


 震えながら近づいてきた彼は、そう名乗って私の手を掴む。

 赤い瞳が、真摯に見下ろしてくる。

 謝らなければならない。

 なのに、恐怖でうまく言葉が出てこない〜!


「リセ、俺は——いや、竜人の男は強い女を妻にすることこそが人生の目標。俺を泣かせたのはお前が初めてだ。俺と結婚してくれ」

「あ……あ……あ……あの……」


 なにをおっしゃっているのでしょうか、この王子様は。

 え? 強い? いえいえ、私は弱いですよ?

 首を左右に振ると、「なぜだ!」と叫ばれてますます喉が引き攣ってなにも話せなくなる。

 誰か、助けて。

 周りにそう、目で訴えるけれど、周りの誰もが思い切り目を背けていく。

 そんなことあるぅ?


「なぜ俺ではダメなんだ? 俺のどこが気に入らない? もしや、交際からスタートしたいタイプか? それとも、既婚……!? ……だ、だとするならば、奪い取るまで!」

「ち、ちちがっ、い、いな……っ」

「殿下、ひとまず離して差し上げましょう。このままでは会議にも遅れてしまいます。彼女を怯えさせて嫌われては本末転倒でしょう?」


 大きな男性に迫られて、いろんな恐怖と混乱で本格的に泣き出した私を見かねたのか、従者の男性の一人が王子殿下の肩を叩く。

 私に嫌われる、という単語に肩を跳ねさせると、王子殿下……いえ、藍善様は二メートルほど後ろにジャンプして下がった。

 え、ええ……?


「申し訳ございません、リセ様」

「!?」

「私は藍子殿下の側近、甲霞(こうか)と申します。正式な婚姻の申し込みは、後ほどさせていただきますので、まずは議会会場へ案内をお願いできませんでしょうか?」

「……あ……え、ええと……は、はい、た、ただいま、ご案内いたします……」


 未だカタカタと震える我が身を叱咤して、私はスカートの裾を摘むと彼らに向かって頭を下げる。

 そうだ、落ち着くのよ、私。

 彼らはお客様。

 この国に『国際会議』のために訪れている。

 私はこの国の、この城のメイド。

 来賓をおもてなしするのが職務。

 正式な婚姻の申し込み云々はともかく、今は己の職務をまっとうしましょう。


「…………」


 そうよ、なにかの間違いですよ。

 王子様の股間に蹴りを入れて求婚に繋がるなんて、そんな馬鹿な話、あるはずがありません。



 ***



 そもそも、私がこの国に来たのはこの国の王族——ハイエルフのレーシャイン家が『精霊と契約できる人間』を欲したことが発端でした。

 この世界——『ラルディカ=アード』は人間のみが精霊と契約できるそうです。

 精霊というのは魔法を使うための鍵。

 世界に溢れるマナという物質を、魔法の素となる魔力に変換し、与えてくれる存在なのだそうです。

 精霊はなぜか人間としか契約せず、魔法は人間しか扱えません。

 エルフやドワーフや獣人、そして世界の覇者と言われる竜人すら、魔力を持たないのです。

 そのことは、エルフとその王家であるハイエルフのプライドを傷つけ続けてきました。

 そのため、エルフたちは人間の国から貴族を攫ってきて無理矢理『召喚魔法』を使わせ、異世界から私を含め、五人の人間を召喚したのです。

 私以外の四人は全員女子高生。

 同じバスに乗っていた、登校中の少女たちでした。

 彼女たちは異世界に召喚されたことを「ラノベみたーい!」とはしゃいで、あっさり受け入れます。

 そして、同じくあっさりと精霊と契約し、魔力を得てさらに複数の精霊と契約を果たしました。

 しかし私は……。


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