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冬のささやき

作者: 暁 さくら

高校3年の冬。受験のためにクラス全体がピリピリとし始める。今は受験シーズン真っ只中のため尚更しょうがないけど、受験が早めに終わってしまった遥は部活に顔を出していた。中学からの親友の由紀と一緒に。

遥たちの部活は漫画研究部。この部活は基本的に個人で絵を描くことなのであまり集まったりすることはない。だけど、一応毎週月曜日が部活で集まる日としているので、それに参加している。

「由紀、この子の目のバランス悪いかな?」

「そんなことないと思うよ。あ、でも少し寄せたほうがいいかも。少し遠いかも。」

「やっぱりそんな感じするよね!ありがとう。」

遥は一人の子を描き終えたとき、外を見つめた。外は学校の広いグラウンドが見渡せる。そのグラウンドではサッカー部が他校と練習試合をしていた。その中にひときわ目立つ人がいる。サッカー部のエースで遥と幼馴染の優也だ。彼はスポーツ推薦のため、既に大学が決まっているため部活に出ていた。

「遥〜。相変わらずブレないね。」

「う、うるさいな〜。」

由紀は遥の後ろから抱きしめた。由紀は遥の気持ちを知っている。だからよく遥を冷やかしたりしている。その度に遥は恥ずかしそうに頬を赤く染める。

「先輩たちがいなくなるとやっぱり寂しいですー!」

後ろから急に声をかけたのは後輩の絢香。次の部長に私たちが推薦した子だ。

「そう言ってくれてありがとう。」

「絢香ちゃんは漫画書くのとっても上手で今年の文化祭も人気投票で1位を獲得してて、周りのみんなと仲良く接することができるんだからきっと大丈夫よ!」

「でも、やっぱり先輩たちがいないと寂しいですー。私、遥先輩の絵と由紀先輩のストーリーがすごく好きなんです!」

絢香はそう言いながら、私たちの卒業作品をパラパラと読む。彼女はいつも楽しそうに読んでくれて、書いている私たちまで嬉しくなる。

「やっぱり、3月で最後って寂しいです。でも、来年からも頑張りますよー!!」

絢香は嬉しそうに微笑む。3月で最後という言葉に遥はグッと気持ちを堪えた。

「私、この後用事あるのでお先に失礼します!」

「またね、絢香ちゃん。」



遥と由紀は部活が終わり昇降口に向かった。

「やばい、教科書忘れてきちゃった!」

「あ、マジか!」

「ちょっとだけ待ってて!すぐに戻る!」

遥は急いで教室に向かった。



忘れ物を取りに教室に戻ると優也が一人でいた。

「部活、お疲れ様。」

「あ、遥か。ってかどうしたの?こんな時間まで学校にいるとか珍しいよな?」

「今日は部活の日。私、受験終わってるけど、一応勉強しなくちゃだから教科書を取りに来たの。」

「そっか。真面目すぎるだろ。俺なら大学が決まったからって勉強してないしよ。ってか、俺たちが違う学校に行くの、初めてだな。」

「そうだね。小学校から高校まで全部一緒だからね。」

遥は下を俯く。寂しい気持ちを優也に悟られないように。

「下に由紀を待たせているから先に行くね。」

「じゃあな。」

遥は逃げるように教室を出た。遥は廊下を歩いているときに深くため息をついた。



下の昇降口に行くと由紀が靴を履いて待っていた。

「教科書あった?」

「うん。待たせてごめんね。」

「いや、大丈夫なんだけど。なんか時間かかってたから何かあったのかなって。」

「教室に優也がいて少しだけ話したの。」

遥は恥ずかしくなって下を向く。

「へ〜。」

由紀はニヤニヤしながら遥を見る。由紀は察しがついてるから聞かなくてもわかる。

「ってか、もうすぐ卒業で学校も違うにいつになったら気持ちを伝えるの?」

「え!?」

「まさか告白しないの!?」

由紀は驚いて声が大きくなると廊下中に響き渡った。

「まだ、わかんない…」

由紀は黙って遥を見る。

「何も伝えなかったらいつか絶対に後悔するよ。私も恋愛とかしたことないからわからないけど、卒業して大学行ってから絶対に後悔すると思う。だから、伝えなよ。」

「考えておくね。」

二人は静かに学校を出た。



次の日、いつも通りに学校に来た遥はお昼休みのとき、一人で悩んでいた。

「由紀、告白ってどうやってするの?」

「私もしたことないからわからないけど、自分の気持ちを素直に伝えてみたらいいんじゃないかな?」

「自分の素直な気持ち…」

「遥、私も委員会で用事があるから先にお昼食べてて。」

由紀は教室を出て行く。一人教室に残された遥は素直にお昼を食べていた。



教室を出た由紀は迷わずグラウンドに向かった。委員会で用があるというのは嘘だ。用はあるけど遥にはなるべく教えたくないから委員会と偽ってしまった。グラウンドには昼練を終えたサッカー部が着替えを済ませてお昼を食べていた。

「優也、少しいいかな?」

由紀は優也を呼ぶ。優也はいつも話さないような人に呼ばれ、少し驚くが遥の親友であることは知っているから笑顔で迎えた。

「どうしたの?」

「ここでは話ずらいから少し場所を変えてもいい?」

「別に構わないけど。」

二人は人気の少ない中庭に向かった。三月なだけあってまだ肌寒く学校に囲まれていて日差しがほとんど入ってこない中庭は絶好の場所だった。

「昨日、聞いてたよね?」

「何を?」

「昇降口で私たちが話していたの。私さ、優也がいたのに気付いたの。」

「それを遥に言うのか?」

「別に言うつもりはないよ。実質、今こうやってきてるのだって隠してきたからね。でも、遥は悩んでる。一人だけどうなるかわかっているのはずるくない?」

「俺も素直になれたらいいけど。俺も伝えようと思っている。だけど、大学も違うしこれからの重荷になっちゃうんじゃないかと思うとどうしても言えなかったんだ。」

「じゃあ、もう伝えられるね?」

「なんで?」

「昨日、遥の気持ちを聞いたんでしょ?それなら、悩むことないでしょ。」

「わかってるけど、考えさせて。」

「わかった。とりあえず、私の意見を聞いて。幼馴染の二人は自然と近くにいて自然となんでも言い合える存在だと思うの。だから、もし振られてこの関係が壊れることを恐れているように見えたの。だけど、私は両片想いなのを知っているからきっと叶うと思ってた。けど、二人とも気持ちを言わなくて、私が叶えてあげたと思ってね。だから、私は二人を支えるつもり。まあ、そんなところかな。」

「そっか。 お前も考えてくれていたんだな。ありがとう。」

優也はそう言い残して去っていった。由紀は少しスッキリした顔をしていた。



教室に戻るといつも食べるのが早い遥がまだ食べていた。

「あ、由紀。委員会、結構時間かかったね。」

「先に食べててよかったのに。」

「ゆっくり食べて由紀が戻ってくるのを待ってた。」

「ありがとう。」

「ねえ、遥。やっぱり気持ちを伝えるべきでしょ。まあ、遥が嫌ならいいんだけど大事な親友が後悔しているのは見たくないかな。やっぱり後悔するくらいならしたほうがいいよ。」

「やっぱりそうだよね〜。私も後悔するくらいならしたい。けど、優也は優しいからきっと困っちゃう。傷つけないように断る言葉を考えてしまう。それに優也は私のこととか好きじゃないと思う。好きだとしても幼馴染としてだと思う。あとね、告白して今の関係が壊れることが怖い。」

「遥が悩んでるのは知ってるけど、何もしないのもね。まあ、遥のペースで好きなようにしな。」

「うん。」



放課後。今日は部活がないから早めに帰る予定だったけど、去年の担任の佐々木先生と長話をしてしまい結局帰るのが部活のある日と変わらない時間になってしまった。

次の日、遥はいつも以上に元気だった。今日は朝の占いの結果がよかったそうで明るかった。遥は占いなどが好きで信じているから朝の占いだけで一喜一憂することが多い。だけど、その日も告白する勇気がないからと結局気持ちを伝えずに終わってしまった。



告白を決意して1週間。3日後には卒業式だというのにいまだに決心がつかないからと気持ちを伝えずにいた。

「由紀、本当に大丈夫かな…」

「大丈夫だよ。それより、3日後には卒業式だから早めに言わないとだよ。」

「そうだよね。あ、卒業式が終わってから告白したらいいかも。」

「なんで?」

「もし、振られても大学が違うから会うことがなくなるからね。」

「じゃあ、付き合うことになったら逆に会いにくくなるよ?」

「そっか…でも、付き合えるわけないよ…」

遥は悲しそうにうつむいた。それを見ていた由紀は黙って軽く背中を叩いた。

「大丈夫。自分を信じて。いつ告白するかは遥の自由だから好きなタイミングにしな。大丈夫だよ。」


卒業式当日。その日は快晴で雲一つない。三年間お世話になった制服を着て、家を出るときはすごくドキドキした。なんて言ったって卒業式が終わったら告白できるように優也と約束をしているからだ。約束したのも昨日だけど、その約束を話すときでさえドキドキしていた。その日の朝の占い結果は2位と高く、ラッキーアイテムはくまのストラップだったのでスクバに何もつけない遥は今日初めてストラップをつけてきた。

「遥ってスクバは基本的に着飾らないよね?今日はどうしたの?」

「今日のラッキーアイテムがくまのストラップだったから、今日だけでもつけておこうと思って…」

「そっか。今日は頑張ってね!」

「ありがとう、由紀。」



卒業式が終わり、昨日約束したのも優也のもとに行く。恥ずかしいけど自信がないから由紀には気付かないように隠れて見ててもらうことにした。たぶん、お願いしなくてもそうしていただろうし。

「急なお願いに来てくれてありがとう、優也。」

「別に俺も用があったからちょうどいいと思ってよ。ところで、伝えたいことがあるって言ってるけどなに?」

「あのね…」

遥が言おうとして口が止まる。優也は優しい目で待ってくれている。正直、何の話かもわかってるし答えも決めているから優也は焦る必要も焦せらせる必要もなかった。

「ずっと前から優也のことが好きなの…幼馴染としてもそうだけど、勉強もスポーツもできて、優しくて、でもときに厳し優也がすごくすごく好きなの。前はこれが恋っていうことに気付けなくて…でも、気付いたの。私は優也が好き。」

「えっと…俺もちゃんと言わないと…だよね?」

「なにが?」

「返事というか…ね?」

返事と聞いて遥は顔を赤くした。叶わないってわかっているから聞きたくない気持ちもある。

「それは…今度にする…」

遥は自分の中ですごく後悔した。返事を先延ばしにしたって結果が変わらないのはわかっているけど、それでも逃げたかった。しかし、優也が許さなかった。

「いや、今言わせて。」

優也は真剣な顔で遥を見る。遥は恥ずかしい気持ちと叶わないと諦めの気持ちから目を逸らした。

「俺は遥が好きだ。ずっと前から意識もしていた。部活後に教室にいて話したりとか、朝とかクラスとかで話すときもずっと意識してた。早く伝えなきゃって思ってた。だけど、遥は幼馴染としか見ていない気がした。それに、伝えて、振られたらそのあとに関わりずらくなることからも逃げてたんだ。でも、今ならはっきりと言える。俺は遥が好きだ。」

遥はまさかの言葉に顔を上げる。優也が「今言わせて」って言ったのは断ってスッキリさせたいんじゃなかった。それに、二人とも振られるかもしれないという心配と振られてからの関係が怖かった。二人とも同じことで悩み続けていた。

「じゃあ…」

「うん。」

二人は抱きしめあった。遥は早く伝えなかったことの後悔と優也がずっと前から好きであったことで涙が止まらなかった。優也はそんな遥を優しくて撫でた。

二人は落ち着いてから小さく笑い手をつないでその場から離れた。

二人は付き合い始めたことを由紀に伝えた。

「由紀、私たちね付き合うことになったの。」

「おめでとう〜。まあ、いつかくっつくだろうとは思ってたけどね。」

「え!?なんで?知ってたの?」

「まあね、二人が両片想いなことくらい知ってるよ。私は中学からだけど、それでも二人のことはよく見てきたからね。」

「知ってたなら教えてくれればよかったのに。」

「それを、言ったら意味ないでしょ。だから、早く告白しなって言ってたの。」

二人は見つめ合って笑う。

そのあとは三人で帰った。優也は遥と二人で帰りたかったけど、高校最後でこれからあんまり会えないことがわかっていたから三人で帰ることにした。

「定期的に会いたいね。まあ、なかなか会えないけどね…。」

「そうだね。まあ、私と遥は連絡を取れば済む話だしね。まあ、遥は私じゃなくて優也のことを優先するでしょ。」

「まあ、優也にも会いたいけど、私が本気で感謝するのは由紀だよ。」

「そうなの?ありがとう。」

優也は二人を見ていてすごく羨ましく思った。友達はたくさんいるけど、ここまで深く関わり、仲が良かったり、いろんな悩みを相談し合えるような親友はいなかった。

三人はある交差点を境に分かれる。

「今日が高校最後で三人で学校に通えないってここに来てやっと実感したかも。」

「そうだね。卒業式とか出ても実感なかったね。東くんも遥もやっと付き合ったしね。」

「由紀に背中を押されてやっと遥に気持ちを伝えられたし、俺も感謝している。俺が好きな人は遥で変わりないけど、感謝をする人は由紀だよ。」

「それ、さっき遥にも言われたよ。私も二人のこと好きだよ。感謝するって言われてすごく嬉しい。」

「そうだ!優也とも由紀とも個人的に会いたいけど、中学からずっと一緒なのってこの三人だけだから、やっぱり定期的に会おうよ!」

「そうだな。この三人だけだからな。」

「本当にそうね。」

「ってか、いつまでも話せちゃうね。これ以上話すとね帰るのが寂しくなっちゃうから、帰ろっか?」

「そうだね。もう、帰ろっか。」

三人は静かに分かれた。もうすぐ桜が咲きそうです。

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