修行の成果
遅くなってしまって申し訳ありません。
前回の続きになります。
特訓メニューが決まってから、早くも一ヶ月が経った。それぞれで特訓を続け、今日はその成果を見せ合う日である。
「ぷにー!」
「ご苦労様。スライは頼りになるわね。凄く器用で助かるわ!」
「ぷーにぷにぷに!」
「こっちも異常無しだぞ。」
一方、スライとリリ、ゴブリンは事件の犯人が動いた時の為に見張りをしていた。リリはルーネの寝そべっていた所を望遠鏡で、スライとゴブリンはクロスとクランの襲われた辺りをこっそりと見張っている。
ゴブリンによると、その二ヶ所がアジトに繋がっているらしい。ちなみにスライはスライムの名前である。特訓メニューが決まってすぐに皆に自己紹介をしていたのであった。しばらくして、三人は休憩のために一度合流した。
「動きがあればすぐに皆に知らせないとね。本当はすぐ捕まった人達を助けに行きたいけど、今の私達じゃ何とも言えないわよね。一応王都にも報告はしてみたけど、どうなるかしら...。」
「ぷー。」
「...!おい、あれを見てみろ!」
「何!動きがあったのかしら?」
「荷物を運び込んでるな。」
「ちょっと貸してみて!」
ゴブリンの望遠鏡を取り上げ、リリが森の中を見ると、ゴブリン達が馬車の材料と馬を運んでいた。
「外から呼ぶ訳には行かないからな。自分で組み立てて運ぶみたいだぞ。」
「これは不味いわね。すぐに皆に知らせないと!」
「さぁ!特訓も一通り完了したし、皆の成果を見てみようじゃないか!」
「「「「はい!」」」」
ウルの前に四人が集まり、特訓の成果を試す時が来た。
「今回はチーム戦でやってみよう!連携も戦いには重要だからね!ルーズ君とクロス君、ルーネちゃんとクランちゃんで組んでみてね!」
「了解しました!よろしくね、クロス君!」
「こちらこそ。」
「クラン。一緒に、頑張ろ?」
「はい!よろしくお願いします!」
5人は広い草原に集まった。それぞれの準備もバッチリである。
「私、魔法が使えるようになったんだよ!早く見せたいなー!」
「楽しみだね。でも、俺も負けてないと思うよ。」
「にーさん、負けないよ?」
「僕もいっぱい練習したからね!絶対に勝ちに行くよ!」
「準備できたねー!それじゃ、始めるよー!位置について、よーい、ドーン!」
ウルの合図で、皆一斉に動き出した。ルーズとクランは後ろに後退し、クロス、ルーネが前に駆け出した。
「そこだ!」
「やっぱり、予想通り!」
クロスはすぐに剣を取り出し、ルーネを斬りつける。対するルーネは両腕でその剣を受け止め、クロスごと投げ飛ばした。
「補助展開、フワリム!」
落ちてくるクロスを魔法で受け止めるルーズ。しかしすぐそこにルーネが近づいていた。
「にーさん、勝負!」
(早い!もう差を詰めてきたんだ!)
「ルーズさん!今行きます!」
杖を使い、ルーネの拳を受け止めていくルーズ。しばらく打ち合っていると、クロスもルーズに合流し、一斉に攻撃を仕掛ける。
「2対1は、ちょっと、まずいかな。」
「そんなこと言って!こっちも結構押してるつもりなんだけど!」
するとルーネが急に座り込んだ。態勢を崩したと見たクロスは再び剣を振り下ろす。
「これで決める!」
(うん?何かおかしくない?急にしゃがみこんで...まさか!)
ルーズは少し考え、クロスに向けて魔法を構えた。
「魔法展開!ウインド!」
そしてルーネに振り下ろした剣は風で吹き飛ばされてしまった。
「ルーズさん!?今は兄妹でも関係な...」
クロスが話した瞬間、自分の頭の側を矢が飛んでいった。
「...え?」
「惜しい。もうちょっと、だったね。」
「やっぱり、まだ慣れませんよー!」
「危なかった!ごめんねクロス君!大丈夫?」
「...なるほど、ありがとうございます!」
クロスが矢の飛んできた場所を見ると、魔法を撃つ構えをしたクランの姿があった。
「クロス、やったよ!私の魔法、凄いでしょ!」
「確かに凄いけど...。今は戦闘中だよ。」
「そういうこと!補助展開!パラライズ!スピーディア!」
「ひゃっ!?」
ルーズの魔法で、クランの体が一瞬動かなくなる。そして小さい羽を広げてルーズが突っこんで来た。
「これで決めるよ!」
「危ない!クラン、今行くよ!」
すかさずルーネが間に入り、ルーズの腕を掴む。態勢を崩したルーズをそのまま地面に叩きつけ、蹴りの追撃を入れた。
「っ!」
「これで、どうかな!?」
「...これも計画通りだよ!」
「...まずい!早く、構えないと!」
ルーズを吹き飛ばして距離を稼いだルーネが、腕に魔力を溜めていく。その視線の先には、同じように魔力を溜めるクロスの姿があった。
「クロス君の全力は時間が掛かるからね!僕が二人を引き付けてたんだ!」
「行くぞ!フレイムソード!」
クロスの剣が赤い炎を吹き出し、全体を覆っていく。やがてその剣は元の二倍ほどの大きさに巨大化した。
「クロス君、後はお願い!補助展開!スピーディア!」
「了解です!」
クロスはルーネの元に走り出すが、そのタイミングでルーネも魔力を溜め終えていた。両手を突き出し、魔力を放出する。
「行くよ。私の全力、グラン・インパクト!」
巨大な炎の剣と、ビーム状の魔力がぶつかり合い、激しく火花を散らす。その衝撃は凄まじく、辺り一面黒焦げになってしまった。
そしてしばらくして……
「流石ですね。ルーネさん。」
「クロスも、とってもすごいよ。皆、頑張ったもんね。」
「...凄いなあ、二人とも。」
「...私達も頑張らないと、ですね。」
「君たち、少しのんびりし過ぎじゃないかな?」
黒焦げになった地面に、ルーズとクラン、そして二人を抱えているウルの姿があった。爆風で吹き飛ばされた二人を抱えながら、ウルは満足そうに頬を緩めた。
「しかし、たった一ヶ月でここまで仕上げて来るとは思わなかったよ!これなら他の相手でもそこそこ戦えるんじゃないかな?」
「ありがとうございます!何か自信がついてきました!」
「ウルのおかげ。ありがとう。」
「これなら、俺達でも救出任務に行けますかね?」
「どうかな?相手は多人数の人質を確保出来る、かなりの使い手。人質の安全を確保するのは熟練の冒険者でも難しいからねー。」
「みんなー!大変よー!」
五人で話をしていると、慌てた様子のリリ達がこちらに向かっていた。
「馬車を準備してる!?それじゃ、もう出発するってこと!?」
「間違いないね。これは不味い。」
「リリさん!王都からの応援は来ないんですか?」
「それが、返事は来たけど、やっぱり来ないみたい。代わりに証拠を出せって書いてあったわ...。」
「そんな...。このままじゃ...。」
「さて、君達はどうしたいかな?」
「...どういうことですか?」
ウルは話を続ける。
「君達は特訓で強くなった。でも、本格的な実戦経験はまだない。練習とは違う事態も起こるだろうね。それに相手は一人だけじゃない。ゴブリンもたくさん居るだろうから、数でも不利になる。仕掛けるなら工夫しないとね...。」
「ぷに!」
皆で悩んでいると、スライが頭を伸ばして反応した。
「何かなスライ。いい提案があるのかな?」
「ぷーにゃ!」
「...なるほど!それなら何とか互角に持ち込めるかもしれない!」
「いい方法見つかったの!?それなら早く教えなさいよ!一刻を争うんだから!」
急かすリリを見てから、ウルは皆に指示を出した。
「皆すぐに準備して。出来たらすぐに本拠地に乗り込むよ!」
どんな作戦なのか、気になりながらも皆は準備を進めるのだった。