特訓の方向性
「私達二人になっちゃいましたね。」
「そうだね。僕達も頑張らないとね!」
クランとルーズはのんびり座って話をしている。二人とも少しマイペースであった。
「そういえば、ルーズさんはどうしてここに来たんですか?私達よりも、戦いの経験があったようですけど。」
「色々あってね。戦い方は父さんと母さんに教わったんだ。二人とも、血は繋がってないけど、僕を本当の子供のように、大切に育ててくれたんだよ!...二年だけだったけど。」
「期間なんて関係ないです!大切な人が居るなんて、素晴らしいことですよ!それでいいじゃないですか!」
急に強い言葉で矢継ぎ早に話すクラン。ルーズは驚きながらも話を続けていく。
「う、うん。...そんなに慌てて、何かあった?」
「あっ!その、ごめんなさい!私、今まで生きてきた中で、信頼できる人がクロスしか居なかったから...。」
「クランちゃんも辛いことがあったんだね。僕もなんだ。幼馴染みと冒険者になる約束をしてたんだ。でも、その子は勇者の力を持っていて、その力で僕は奈落に突き落とされちゃったんだ。
死にかけた所で父さん母さんに助けてもらって、今この場にいるんだよ。」
「そんな!どうして!」
「役立たずだから、って言ってた。その時は頭が真っ白だったけど、...でも今は大丈夫!ルーネもリリさんも居るから!」
「...そっか。羨ましいなあ。」
「クランちゃんは?」
ルーズに聞かれたクランは自分のローブを外し、素顔をルーズに見せた。艶のある短い青い髪、赤く光る、魔物のような鋭い、でも優しい目。そして、頭には丸くなった角が二本ついていた。
「...私、魔族なんです。魔族って、他の種族に比べて優れている所が多いってよく言われますよね?」
「そうだね。魔族はエリートがたくさんいるって聞いたことあるよ。」
魔族という種族は、他の種族よりも強い力を持った存在が多い。つまり、その肩書きそのものが羨望と警戒の対象となるほどの名門ということになる。
かつて、魔王と呼ばれた存在も、ここから生まれた者が多かったらしい。
「...私も生まれたときは、自分は魔族なんだ、強いんだ!って思ってました。特に魔力の量は、誰よりも上だったと思います。」
「それなら、どうして役立たずなんて呼ばれることに?」
「...それだけだったんです。魔力があるだけ。私、魔法が全く使えないんてす。しかも私の魔力には属性が無いんです。万が一魔法が撃てても何も出てこない。火も水も土も風も、何にも。魔族なのに魔法が使えない、自分の自慢は全く役に立たない物だったんてす。」
「なるほど。それが原因で...。」
強い種族ほど、短所も目につくようになる。魔族なら普通は使える魔法。それが出来ないなら、その者は「役立たず」と映るだろう。
「それから私は実家を勘当されて、生きるために冒険者を目指しました。でも、魔法が使えない私を雇ってくれる所は無かった。そんな時に、クロスに会ったんです。彼は自分も同じだから、一緒に冒険者になろう、って言ってくれたんです。」
「...。あの子達も辛いことがあったんだね。それなら、役立たずなんかじゃ無いよって、私が教えてあげなきゃ!さぁ、張り切っていくよー!」
木の陰からこっそり話を聞いていたウルは、少し悪い顔をして二人の前に出て行こうとしていた。しかし、ルーズが行ったことを見て、その顔は驚愕の顔に変わった。
「あの能力は...まさか、そんな!?」
ルーズはクランの手をじっと見て、あることを思い付いた。
「...もしかしたら!」
「ふぇ?」
「クランちゃん!ちょっと手を出してみて!」
「は、はい。」
クランが手を出すと、ルーズはその手に触れ、一気に魔力を叩き込んだ。
「...!痛い!痛い!何をするんですか!?」
「ごめんね!でも、こうして、こうすれば!」
「痛、あああああああああ!」
大きな声で絶叫するクラン。ルーズは尚も魔力を送り込む。やがて魔力を使いきったルーズはその場に寝転んでしまった。
「これで...大丈夫なはずだよ...。」
「酷い!いきなりこんな!」
「ごめんね...。でも、これで、魔法使えるんじゃないかな...?」
「えっ?...そんなこと、あり得ないですよ。私、魔法が撃てないんですから...。」
「とにかくやってみよう!ささ、手を前に出して!手のひらに魔力を溜める感じで!...これも母さんに教わったんだけどね。」
「は、はい...。」
乗り気ではないクランを急かして、構えをとらせるルーズ。
「魔法展開、フレアー!」
ルーズの手のひらから、小さい火の玉が現れる。クランも続けてやってみることにした。
「...魔法展開、フレアー!」
やってみたが、火の玉は出ない。代わりに、白い魔力の塊を出すことが出来た。
「...やっぱり駄目でしたね。」
「...そんなこと無い。今まで魔法が撃てなかったのに、今は出せたじゃないか。」
「...ウルさん?」
二人の側にウルが突然現れた。
「ねぇルーズ君?今君はどうやってクランちゃんに魔法を使わせたのかな?」
「はい。何と言うか...手に魔力が流れて無い気がしたので、そこに魔力の通り道を作ってみたんです。」
「...それ、本気で言ってる?」
「はい。ぶっつけ本番でしたけど、通り道は作れたみたいです!」
それを聞いたウルは、何かを確信したかのようなとても真剣な顔でルーズの目の前に顔を近づけた。
「この能力のこと、他に誰か知ってる!?」
「...いいえ。今思いつきでやってみただけです...。」
「君の神託は!?何が出て役立たずと言われた!?正直に言ってみて!」
「...補正魔法師です。補助しか出来ないクズクラスって言われました。」
「いいかい、この力のことは誰にも言っちゃ駄目だよ。絶対に!」
「...えっ?」
「...ルーズ君も、クランちゃんもよく聞いてね。ルーズ君の能力は、補助魔法のスペシャリストなんだ。補助は味方を助けることに特化し過ぎてる。一人じゃ出来ないことも確かに多い。でも、信頼できる仲間がいれば、その力は何倍にも跳ね上がるんだ!
特に補正魔法師は、仲間の短所も長所に変えうる、「補い、正す力」なんだ。君がクランちゃんの魔法を目覚めさせたみたいに。後、ゴブリン君の言葉の変化もその力かな。」
「そんなに凄い能力だったんですか...?」
「他の国なら引く手あまただろうね。味方の強さ自体を底上げ出来るんだからね。それこそ拐ってでも欲しい価値があるよ。だからこそ、その名前は絶対に外に出さないように。外では補助魔法師として名乗る方が安全だね。」
「は、はい。分かりました。」
「それじゃ、特訓といこうか!君はとにかく魔法を使いまくって、よく休むこと。魔法の強さと魔力の量を増やすなら、とにかく練習あるのみだよ!」
「頑張ります!」
ルーズが特訓の為に森の中に入っていくと、ウルはクランに話しかけた。
「最後は君だよ。クランちゃん。」
「は、はい!」
「はっきり言うよ。君はいくら練習しても、属性のある魔法は使えない。」
「...そうですよね。知ってました。」
「それなら、属性の無い魔法を使えばいいんだ。」
「...ふぇ?」
「火で燃やしたり、水を出したり、土で壁を作ったり、風で吹き飛ばしたり。属性は色々あるけど、無属性ならどの属性にも対抗できる。
しっかり鍛えれば、盾を破る矛にも、矛を止める盾にもなる。君が皆を守る要になるんだ!」
「本当ですか?私が、皆を...。」
「君は魔力だけなら、四人の中でずば抜けて多い。だから、魔法の形を作ることをやっていこう!」
ウルは手元に風の魔力を溜め、ボール状にして持って見せた。
「こんな感じで。君はどんな形を創るかな?矢でも弾でも、自分に合うようにやってみるといい!一緒に練習だ!」
「やります!私、頑張ります!私は...私の形は...!」
クランは自分の形を創るため、ウルと一緒に森に入っていった。