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みんな一番

「ぷに!」

「それで行くの?あの子達、すごく辛い気持ちになるよ?」

「ぷに!ぷにゃー!」

「...そうだね。すぐに強くなるなら、やる気を出させる為にも必要なのかな。」

「ぷーに!」




「起きなさーい!もう朝よ!今日は先生が来るんでしょ!早く外に来なさいよ!」

「ごめんなさい!今は行きます!」



 外から怒鳴るリリの声を聞き、ルーズ達は慌てて外に飛び出す。そして皆が集まったタイミングで、リリが話し始めた。



「昨日も言ったけど、今回のゴブリンの襲撃と、他の地域での行方不明事件、これは繋がってる可能性があるわ。もし私達だけで解決するなら、しっかり強くならないと!という訳だから、きっちり勉強して来るのよ!お金はこっちで何とかするから!」

「何から何まで申し訳ありません。期待に応えられるよう、頑張ります!」



 ...ほうほう、それはいい心がけだね。



「ん?」

 風に乗った声がルーズの耳に届いた瞬間、突然、大きな突風が四人を襲った。


「にーさん!手を!」

 ルーネが地面に拳を打ち込み、片方の手でルーズの手を掴む。

「クラン!俺に掴まって!」

「うん!」

 クロスも自分の剣を地面に刺して、クランの腕を掴んだ。



 やがて風が少しずつ弱くなり、完全に収まると、五人の前に一人の女性が立っていた。茶色の髪、すらりとした身体、その身体にはウルフの耳と尻尾がついていた。



「なるほど。いい動きをする。不意打ちだけどしっかり対応できてるね。」

「にーさん、この人!」

「もしかして、スライム君が言ってた先生ですか?」

「いかにも!私が君達と一緒に特訓する先生だよ!名前はウル!よろしくー!」

「ぷに!」



(...凄い。五人で居たのに、俺達四人だけを狙って風を放ったのか...。)

 クロスが驚愕している中、女性が話を続ける。


「スライム君から話は聞いているよ。君達は色んな所から役立たずだと言われてここに来たんだね。でも今の動きを見れば、基本の戦いかたは分かってるみたいだし、何かとーくーべーつ役に立たない事情でもあるのかな?」

「「「「......。」」」」



 笑いながら話しかける女性に、皆が一気に警戒の目を向ける。それを見て、リリはスライムに小声で話しかけた。


「...ねぇ。あの先生本当に大丈夫なの?」

「ぷーにぷに!」

「...分かんないけど、多分大丈夫って言ってるのよね、あなた。」

「ぷっにん!」



「まあいっか。それじゃ、早速特訓といこうか!そこの騎士の君、私の所に来なさい。まずは君からだ!」

「...俺ですか?」

「そうそう君だよ君!皆同じ特訓じゃ意味無いからね。私が一人づつ事情を伺おうじゃないか!」

「...分かりました。...えっ!?」


 するとウルは突然クロスを抱えて空高くジャンプしていった。

「行っちゃったね...。」

「あの先生、何を考えてるのか、全然、分からなかった。」

「でも、わざと悪ぶってる感じがしました。」

「ちょっと演技が下手だったよね。」

「きっと、本当はいい先生、なんだね。」




「ここまでくれば大丈夫かな。」

 森の奥についたウルとクロス。クロスがウルを見ると、何故か辛そうな顔をしていた。それに気づいたウルが、急に頭を下げる。


「ごめんなさい!あんな酷いことを言ってしまって。」

「...は?」

「さっきの発言はわざとなんだ。短期間で強くなるなら、あれくらい焚き付けないと駄目かなって思ったんだ。本当に申し訳ない。」


「気づいてましたよ。」

「...そっか。それなら良かった。じゃあ、早速君の戦い方について、話をしていこうか。」

 さっきまでとは違う、優しい声でクロスに促すウル。クロスはその話に耳を傾けた。



「クロス君は騎士だって聞いてるよ。騎士と言うのは皆を守る役だ。君が前で敵を抑えることで、後ろは攻撃やサポートに専念できる。つまり!君がチームで一番重要なポジションという訳だよ。」

「俺が...一番重要?」


「そうだよ。君が一番頑張らないといけないんだ。...そのためにも、君の今の能力を見せてもらおうか!」

「了解しました。」


 クロスは剣を取り出し、魔力を剣に纏わせる。

「炎剣展開!」

 次の瞬間、剣が火を纏い、メラメラと燃え始めた。それを見たウルは...



「なるほど。君は魔法騎士か。」

「はい。武器や防具に一時的に属性を付与できます。ただ、魔力を纏わせるのに時間が掛かりすぎて、実戦では使えないんですが。」

「君は火の属性が得意なんだね。」

「いえ。一応他の属性も使えます。」

「...え?」



 クロスは他に、水、土、風をそれぞれ剣に纏わせた。ウルはそれを見て、驚いた顔をしていた。


「...君、今凄いことをしてるって気づいてる?」

「...そうなんですか?今までは騎士は光や闇の属性が使えないと役に立たないって言われてきましたが...。」


「いいかい。「騎士」は確かに光や闇の力が無いと役に立たないと言われている。でも、複数の属性を使えるなんて、騎士どころか冒険者全体を見てもそうは居ないんだ!君の居た場所ではそういう話は聞かなかったのかい!?」

「そうなんですか?全く聞かなかったです...。」



 ウルが言うには、光や闇の力は火や水、風や雷といった一般の属性よりも上に位置するもので、確かに「騎士」なら使えないと一人前とは呼ばれない。

しかし、「冒険者」としてなら強い一属性よりも、普通の属性を多く使える方が対応範囲は広がる。しかも、4つも使えることはとても珍しいらしい。



「これ、鍛えれば頼もしい武器になるよ!君の力が、皆を守る力になるんだ!」

「...それなら、それなら俺に強くなるための方法を教えて下さい!お願いします!」

「大丈夫!必ず強くなれるよ!私が教えるんだからね!」



 そう言って、ウルはクロスに訓練メニューを説明した。短期間で強くなるには、強い特訓よりも、簡単な訓練を長時間続ける方が良いとのこと。


 1、付与魔法のみで魔力を使いきること。魔力の量を増やす。

 2、素振りを繰り返すこと。スタミナを増やす。

 3、よく寝ること。体力回復は大切。


「これを繰り返してね。必要に応じて、自分でアレンジしてもいいよ!」

「ありがとうございます!俺、頑張ります!」

 クロスのやる気の籠った目を見て、ウルは森の外に跳んでいった。





「次は、私?」

「そう、次は君だよ。ルーネちゃん。」

 ルーネにもしっかりと謝罪をして、ウルは説明を始めた。



「さっきの対応を見たけど、君が一番反応が早かったね。身体も強いし、動きも中々の物だ。その動きはどこで習ったんだい?」

「私の、ぱぱとまま。二人とも、魔物なんだ。」


「?。君は人間の子じゃないの?」

「私、人に奈落に落とされて、大怪我をしたの。その時に、二人の身体を、分けてもらったんだ。」


 ルーネが服を脱ぐと、足に絡み付いた植物の茎と、岩のように鋭い片腕がウルの目に入った。

「...酷いことを...。」

「でも、今は大丈夫。...早く、修行、しよ?」



「...ごめんね。暗い話になっちゃったね。それじゃ、話を切り替えよう!君は敵を翻弄して、皆の準備時間を稼ぐことに向いてる気がするよ。つまり!君が戦いのリズムを作るんだ。君が一番重要なポジションだよ!」」

「それ、クロスにも同じこと、言ったよね?」


「...どうしてそう思う?」

「私達みんな、得意や苦手が、違うから。力を合わせなきゃ、戦えない。だから、みんな、一番だよ?」

 その言葉を聞いて、ウルは笑顔になった。


「...君は優しい子だね。それに周りを良く見ている。その通り、皆が一番なんだ。だからこそ、それぞれが一番力を発揮できるよう、自分が一番だと自覚しないといけないんだ。君達は役立たずじゃない。そう自分が思えないとね。」


「うん。大丈夫。わかってるよ。」

「君は基本が出来てるから、ひたすら私と打ち合いをしよう。敵の動きを見極める練習だ!」

「分かった。私も、頑張る。よろしく、お願いします。」



 二人の修行はこうして始まった。


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