帰還と出会い
ギルドの中に皆を招いたリリは、大きい机に座らせて、早速声を挙げた。
「それじゃ、どうして薬草取りに二日も掛かったのか、理由を伺いましょうか。...ルーズ、私達本当に心配したんだから、変な理由だったら怒るわよ!」
「分かってます。結構長くなるので、要点をお話しますね。」
ルーズは二日であった事について話し始めた。森の奥に薬草の池があったこと、スライムが友達を助けて欲しいと体当たりしてきたこと、その友達が大型のウルフだったこと。
怪我を治したら魔力切れで寝込んだこと、依頼の薬草を使いきってしまったこと、それらの報告の為街に帰ろうとしたら、ゴブリンに襲われた二人の冒険者を見つけたこと。
「と言うことがあったんです。」
「随分大変な目にあったのね。それならしょうがないわね。うん。」
「でも、依頼の薬草集めは出来ませんでした。後で教会に謝りに行く予定です。」
「その心配はありませんよ。ルーズ。」
「えっ?」
後ろを振り向くと、飲み物のお盆を持ったルーネが、冷静に、でも優しく話しかけた。
「その依頼なら私が翌日に終わらせておきました。さすがに二日も空くとは思わなかったですけどね。」
「...本当にごめんなさい。」
「気になるのなら、一緒に謝りに行きましょう。事情を話せばきっと分かってくれますよ。」
「それじゃ、次は私達から話があるの。聞いてちょうだいな。」
「了解しました。」
しばらくして、ルーネが縄で縛られたゴブリンを連れてきた。
「皆に、私達に話したことを、しっかり、お話ししてね。」
「...ワカッタゾ。」
ゴブリンを席に座らせると、リリが話を切り出した。
「さっきの話だと、皆ゴブリンに襲われたってことよね。ここにいるゴブリンも、ルーネに襲いかかったのよ。」
「何だって!ルーネを!」
「落ち着いてください!まずは話を聞いてから!」
ルーズが杖で叩こうとするのをルーネが止め、話を聞くよう促した。
「ただ、どうもその時変なことがあったらしいのよね。そうでしょ、ルーネ?」
「ええ。私がゴブリンを倒した後に、突然魔法の矢が飛んできて、私を襲ったゴブリンを全滅させたんです。」
「それって、助けが来たってことだよね?変な所あるかな?」
「ゴブリンを殺した後、その矢は私を狙って来たんです。助けに来たなら、そんなことしないはずでしょう?つまり、私も殺すつもりだったんてすよ。」
「ココカラハ、オレガハナスゾ。」
「ちょっと待って。」
ゴブリンが唐突に口を開き、話をしようとしたところで、ルーズはストップをかけた。
「その話、後ろの二人にも聞かせてあげたいんだ。あの二人もゴブリンに襲われたから、それにも関係するかも知れないし。」
そう言って、ルーズはゴブリンに手を当て、魔力を纏わせた。
「これで流暢に話せるようになったはずだよ!あの二人にも分かるようお話してね。」
「?分かったぞ。」
「!凄い!聞いたクロス!?私達ゴブリンの言葉が聞こえるよ!」
「これがあの子の能力なのか...。凄い。」
「...わおん。」
クロスとクランが感心する中、ウルフの目が鋭く光ったことには誰も気づかなかった。
「俺達は、森の奥深くで暮らしているんだ。ゴブリンの住みかは森の中。それはお前達も知ってるだろ?」
「ふむふむ。メモしないと...。」
「そこである日、冒険者がやって来た。一目見ただけで、関わっていい相手じゃないと思ったんだ。だがその男は、いきなり俺達の長老を捕まえて、命令を聞かなければ長老を殺すと言ってきたんだ。戦った仲間は一人残らず殺された。俺達は従うしか無かったんだ。」
「その割には、私を襲ったときは楽しそうでしたよね?」
「ゴブリンも皆が同じ考えじゃ無いんだ。性格の丸い長老が嫌いな奴、戦いが好きな奴もいる。そんな奴らは進んで今の状況を楽しんでいるんだ。」
「その冒険者は、外から大勢の人を連れてきた。人間、獣人、竜人、いろんな人が俺達の住みかに連れてこられたんだ。話を盗み聞きしたら、王都の商人に高く売るとか言っていたぞ。」
「どうしてそんな酷いことを...。ちょっと待って。それじゃ、私達を襲ったのも!」
「...俺とクランが商品として使えると判断したんだね。」
クロスとクランが怯えていると、リリが再び話を始めた。
「ここからが重要よ。私も少し調べてみたけど、最近この辺りを中心とした地域で人が行方不明になる事件が多発してるのよ。
それを目撃した人の話では、犯人は弓矢を持った冒険者。被害者の後をつけている姿が目撃されたらしいの。」
「...リリさん、これって絶対関係してますよね。」
「...そうよねー、間違いなく関係してるわよねー。」
リリは急に弱気になってしまった。
「多分、この辺境の街の近く、それもゴブリンの住みかに捕まえた人を閉じ込めてるわよね。それが厄介なのよ...。」
「それなら、王都に応援を頼めばいいのでは?」
「私のギルドは勇者に、つまり王都に潰されたの。だから、私達の要請なんて絶対に聞いてくれない。しかも証拠もない以上、応援はまず来ないわ。
私達で何とかしようにも、現在のメンバーはルーズとルーネだけ。とても対応しきれない。詰みの状態よね...。」
リリはクランに、王都に頼れない今の状況を簡単に説明した。
「仕方ない、この事は後で考えましょう。今はそちらの方々の話も聞かないとね!」
リリは気持ちを切り替えて、クロス達の座る椅子に目を向けた。
「ぷに!ぷにぷにゃー!ぷーにぷに!」
「わんわん!わうーん!くーん!わん!」
「...翻訳してくれないかしら?」
「えっと、『ぷにはスライムぷに!よろしくぷに!』と、『私はウルフだよ!よろしくね!』って言ってます。」
「ええ...。そのまんまじゃないの...。」
「とってもいい子達なんですよ!僕が倒れたときに助けてくれましたし!」
「まあ、名前は気にしないし、私は見た目で人を判断するような人間じゃ無いわよ!二人とも、ルーズを助けてくれてありがとう!」
「私からも。妹を助けて頂き、ありがとうございます。」
「妹じゃないよ!」
「ぷーにぷにぷに!」
得意気に背伸びをするスライムを見た後、クロスとクランも自己紹介を始めた。
「俺はクロス。年は18です。さっきも話したとおり、騎士をやってます。ルーズさん、助けてくれてありがとうございます。」
「どういたしまして!」
「あの!私はクランって言います!年齢は213歳です!魔法使いやってます!よろしくです!」
「改めて、僕の名前はルーズです。よろしくお願いします!」
「はじめまして。ルーネと申します。よろしくお願いしますね。」
「私はリリ。ここのギルドマスターよ!よろしく!お二人は、どうしてこの地域に来ていたのかしら?」
「えっと、その...。」
「俺から話しますね。俺達二人は...。」
クロスもルーズと同じように、要点をまとめて話し始めた。二人とも才能が無く、役立たずだと呼ばれてきたこと。二人でチームを作ろうとお金を貯めていたこと。
そのために下働きをしていたチームに裏切られたこと。そこをルーズ達が助けたこと。
「「......。」」
ルーネとリリは静かに話を聞いていたが、進むに連れて表情が曇り、リリに至っては泣きそうな顔になっていた。
「...二人とも、辛いことがたくさんあったのね。その気持ち、分かるわ。私達も同じ経験者ですもの。」
「...そうだったんですか。すみません。暗い話になってしまって。」
「大丈夫よ。それより貴方達、これからどうする予定かしら?裏切った相手の所に帰る気はないでしょう?」
「はい。ただ、報酬も貰ってないし、貯めたお金もあいつらの所にあるから、多分駄目でしょうね...。」
「...そっか。それなら、お試しで私達のギルドに入ってみないかしら?ここなら皆初心者だし、チーム作りの勉強にもなるかもしれないわ。何より、私が放っておけないのよ。どうかしら?」
しばらく時間が経ち、二人はお辞儀をしながら口を開いた。
「お願いします。俺(私)達をここに入れて下さい!」
二人の意見を聞いたリリはとてもほっとした顔をしていた。
「了解よ!ルーズ達もいいかしら!」
「はい!もちろん!」
「私も同じ意見です。」
「よし!私、ギルドマスターのリリは、クロスとクラン、二人の仮入団を認めます!しばらくの間、よろしくね!でも、気に入ったなら、好きなだけ居てくれても大丈夫よ!」
「「よろしくお願いします!」」
こうして、ギルドに二人の仲間が新しく加わることになった。
「そうだ!ルーズ、貴方達の家が手配出来たから、報告しておくわね!皆もしばらくはそこで生活してちょうだいな!」
「ありがとうございます!早速確認しますね!それじゃ、皆で見に行こう!」
ルーズは皆を連れて、新しい家に向かっていった。