ルーズ編 森の中で
「ぷに!ぷに!ぷにー!」
「待って待って!そんなに慌てると危ないよ!」
ルーズに会ったスライムは足元に何回も体当たりをしてきた。始めは襲ってきたのかと思ったが、あまりに必死にぶつかってくるスライムが気になったルーズはスライムを持ち上げて、手をかざした。
「落ち着いて!何があったのか、教えてくれないかな?」
「ぷに!ぷにぷに!ぷにぷにぷにー!ぷに?ぷにぷに。」
「なるほど。つまり後について行けばいいんだね!」
「ぷに!」
話を聞いたところ、スライムの友達が大怪我をしてしまい、治すための薬草のある湖に来たらしい。そこで薬草をたくさん持っているルーズが居たので、分けてもらおうと体当たりをしたようだ。
事情を知ったルーズは、後ろから来て欲しいというスライムについていくことにした。草をかき分け、森の奥深くに入っていくと、スライムが声をあげた。
「ぷに!」
「ここだね!やっと追いついたよー!」
ルーズがスライムに追いつき、そこで見たものは岩で出来た建物だった。スライムはここに住んでいるようだ。高い柱が左右に並んでいて、真ん中には小さい祠が立っている。その祠の前で何かがうずくまっているのが見えた。
「くぅーん...」
「ウルフ!?君の友達はウルフなの!?」
「ぷにら!...ぷに、ぷにー!」
目の前に居たのはウルフと呼ばれる魔物。大型の狼のような魔物で、集団での狩りを得意としている。そのウルフが、腹部を大怪我した状態で倒れていた。
スライムは誇らしげな顔をしたが、その後すぐに不安な顔をした。ウルフの怪我はゴブリンに斬られて出来た物だった。一緒に森を歩いていたらいきなり襲われたらしく、ここまで逃げるので精一杯だったらしい。
早く手当てをして欲しいと頼まれたルーズは早速薬草の入った鞄を取り出した。
「よし、やってみるよ!」
「ぷに!」
応急処置の方法は母から学んでいる。ルーズは薬草をすりつぶし、ウルフの体に塗りつけた。その後杖で魔力を送り、治癒能力を底上げする。魔物は魔力と時間があれば体は再生する。ただ魔力を送り続けなければ効果が落ちるため、ルーズはひたすら魔力を送り込んだ。
長時間魔法を使えるのは父の杖のお陰である。ルーズは奈落の両親に感謝しながら治療を続けていく。それでも魔力が足りなくなり、持ってきたポーションも全部飲んで魔力を送る。
しばらくすると、ウルフはすやすやと寝息をたて始めた。傷もふさがり始めているため、とりあえず大丈夫そうである。
「良かった..,これで大丈夫だね...。」
「ぷにー。」
スライムはルーズに頭を下げるような仕草をした。しかしルーズは反応できず、杖を抱きながらその場に寝転んだ。
「魔力をたくさん使っちゃった。しばらく休まないと...。」
「ぷに。」
「そっか、この地域はゴブリンの縄張りなんだね...。」
「ぷにー!ぷにー!」
スライムによると、この辺りはゴブリンの住み処であり、今まではそこまで暴れることは無かったらしい。
しかし最近になって、周りの物を手当たり次第に壊し始め、人や魔物の区別なく襲ってくるようになったという。このままでは危険なので、祠の中に入るよう促された。
「失礼します。」
スライムに引きずられながら祠に入るルーズ。中は意外と広く、木の実などの食料や藁の寝床などがあり、野生の魔物としては生活環境も整っていた。
やがてスライムがウルフも引きずってきて、同じ寝床に並べられた。今日はここで休むように、ということらしい。
「ルーネとリリさん、心配してるかな...?早く帰らないと...。」
そう思いつつも、体は全く動かない。するとウルフが話しかけてきた。
「くぅーん。わんわん!」
「ううん、大丈夫だよ。しばらくすれば君の怪我も治るからね。」
「わん!」
ウルフは自分の体を治してくれてありがとう、疲れてるみたいだけど大丈夫?と言っていた。ルーズはその言葉だけで疲れが飛んでいく気がしたが、やっぱり動くことは出来ないので、ここで一夜を過ごすことにした。はずだった。
「ぷにー!」
「わんわん!」
「えっ!?ここで寝てから二日も経っちゃったの!?」
「ぷに?」
「早く帰らないと!二人が心配してるよー!」
気がつけば二日も寝ていたらしい。元々簡単な依頼として受けたのに、二日も帰って来なければルーネとリリが心配する。特にルーネなら顔色を変えてルーズを探そうとするだろう。
すぐに立ち上がり、祠の外に出ようとするルーズ。するとあることに気づく。
「...依頼の薬草全部使っちゃった...。でも、事情を説明すれば、シスターさん許してくれるかな...?」
ウルフを治すことに必死で、持っていた薬草を全部使ってしまったのだ。ルーズは怒られることを覚悟し、一旦街に戻ることにした。するとウルフが前に出て、自分の背中に首を向けた。その背中にはスライムが乗っている。
「ぷにー!」
「わんわん!わん!」
「本当?一緒に乗せてくれるの?ありがとう!」
話を聞くと、ウルフがお礼として、街まで送ってくれるとのこと。そして自分を依頼人に見せて、事情を説明すればいいよ!と言っていた。
「それじゃお言葉に甘えて、よろしくお願いします!」
ルーズはウルフの背中に跨がり、背中の毛を掴む。その毛はもふもふでずっと掴んでいたい気分になった。ウルフもルーズが乗ったことを確認して、少しずつ歩き始めた。
「わうーん!わんわん!」
傷もほとんどふさがり、ウルフは喜びながら一気にスピードを上げて走り出した。
「ぷにゃー!」
「待って!速い、速すぎるよ!体が追いつかないよー!」
ウルフのスピードが速すぎて、スライムとルーズは必死に背中に掴まっていた。森を駆け抜けていくウルフ。その時。
「誰か!誰かいませんか!?助けて下さい!」
「ぷに?」
森の中で大きな声が響いた。
「わん!」
ウルフはすぐに近くの草むらに隠れて様子を伺う。その視線の先には、ルーズが森の中で見た魔法使いの少女と騎士の少年が二人、その二人を囲むように、ゴブリンの群れが集まっていた。
「嫌...嫌...!死にたくない!死にたくないよ!」
「大丈夫!必ず俺が守ってみせる!」
二人は身体中傷だらけだった。少女の方は衣類が破れかけであり、少年に至っては鎧が砕け、所々穴が開いていた。
「ぷにー!ぷにゃー!」
「ガルルルル...。ガル!」
スライムとウルフは今にも飛び出しそうである。自分達が怪我をさせられたこともあり、相当怒っているようだった。それを見て、ルーズは慌てて制止する。
「待って待って!ウルフ君は怪我が治ったばかりだし、スライム君もゴブリンの大群相手は危険だよ!」
「ぷに!ぷにぷに!」
「ガルル!ガルー!」
「優先すべきはあの二人を助けることだよ!あのままじゃ殺されちゃうかもしれない!」
「...ぷにー。」
「...わん。」
二人はなんとか納得してくれたようだ。
「ありがとう、話を聞いてくれて!ここは僕が行くよ。二人はここで待っててね。合図をしたらあの二人を背中に乗せて、一気に走ってね。お願いします!」
「わん!」
ルーズは自分に補助魔法を掛け、二人の元に走り出した。
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