ルーネ編 ゴブリン退治
チーム名を決めて数日、二人は依頼達成に精を出していた。
チームを決めてすぐに依頼が来たが、現在のメンバーはたった二人。リリは二人で一緒に依頼に行くことを勧めたが、個人の力を高める為にも、まずは一人ずつで依頼を受けることにした。
ルーネは街外れに来ていた。この付近にゴブリンが出没し、街の人や旅人を襲うから追い払って欲しい。という依頼を受けたのだ。
「この辺り、かな。」
ルーネが着いたところは広く平らな草原であり、周りが良く見渡せる場所である。ここなら誰かが接近しても、見渡せばすぐに気づく。それなのに被害が出るのは何かある。そう思ったルーネは、急にその場に寝転がった。
「どこにいるか、分からない。それなら、相手が出てこれる、隙を作らないと。」
そのまま寝転がるうち、ルーネはうとうとし始める。段々眠くなって、やがて本当に寝てしまった。
その様子を何者かがこっそり覗いていたが、その姿は見えなかった。
やがて、ルーネが動かないことを確認した何者かが、地面からゆっくり這い出してきた。小さな緑色の体に棍棒や刃物を携えている。ゴブリンだ。ゴブリンはあちこちの地面から這い出し、ルーネの周りを囲み、その距離を縮めていく。そして、二匹のゴブリンが雄叫びをあげ、ルーネに襲いかかった。
「エモノダゾ!ヤッチマエ!」
「グォォォオー!」
手に持った棍棒を振り下ろす。相手は無防備。それも寝ている。簡単に仕留めたと思った。獲物を確認しようと目を開けたゴブリン達。しかしそこには誰も居なかった。
「イナイ?ドウナッテル!?」
次の瞬間、別の場所に居たゴブリンが吹き飛び、二匹の前を飛んでいった。
「!?」
ゴブリン達が振り向くと、そこにはルーネが立っていた。
「やっぱり、出てきた。私の、予想通り。」
欠伸をしたルーネは、一気に走りだし、一匹のゴブリンを殴り付けた。
「ギャァァァ!?」
殴られたゴブリンは顔をへこませ、その場に倒れこんだ。
「モラッタ!」
後ろから棍棒を叩きつけるゴブリン。しかしルーネはすぐに後ろに回り込み、次は蹴り飛ばした。
「これくらい、すぐにわかるよ?」
痺れを切らした他のゴブリンが一斉に襲いかかる。ルーネは一旦後ろに飛び退き、両手に魔力を溜め始めた。
「数が多いから、一気に、やっつける。」
魔力を溜めた両手を同時に前に向け、一気に放出した。
「これで、勝負あり。...グラン・ストライク!」
放たれた魔力は光線となって前方の地面を抉りとり、緑色の草原は茶色の地面が剥き出しになった。それを見たゴブリン達は一斉に震えだす。どうやら勝負がついたようだ。
「何で、こんなことをしたの?お話、してくれないかな?」
一匹のゴブリンの首を掴んで、優しく話しかける。優しく話しかけたつもりだったが、そのゴブリンは怯えているようだった。
「モウダメダ、コロサレル...!」
「え?」
次の瞬間、辺りから魔法の矢が飛んできて、周りのゴブリンの体を貫いた。
「!?」
次々と撃たれていくゴブリン。ルーネは周りを見渡したが、誰も居ない。逃げ出すゴブリンもいたが、すぐに矢に貫かれて動かなくなった。その矢はルーネの持つゴブリンにも襲いかかる。
「危ない!伏せて!」
ルーネは掴んでいたゴブリンを地面に叩きつけ、飛んできた矢を弾き飛ばした。しかし矢は次々と迫ってくる。殴り、蹴り、矢を弾くルーネだが、少しずつ、体に傷ができていく。体に当たる矢によって、体力は確実に奪われていった。
「どこ?どこにいるの!?このままじゃ、まずい!」
もう一度周りを見渡しても、やはり誰もいない。これ以上は危険だと考えたルーネは、ゴブリンの首をきつく掴み直してから、背中に魔力を集める。
「今から、飛ぶよ!掴まってて!」
「...オマエニ、モウツカマッテルゾ!」
次の矢が当たる直前、ルーネは翼を開いた。着てる服が破れるが、今はこの場から離れる事が先決だった。矢が当たる前に、一気に空に飛び立つルーネ。そのまま上昇し、街に向かって飛んでいった。
「どういうこと?ゴブリンは、魔法を、使えないはず。他にも、魔物が居たのかな?」
何とか逃げ切ったルーネは、ゴブリンの首を掴んだままギルドに入る。その後姿を見たリリは、とんでもなく大きな声をあげた。
「ちょっと!貴方何て格好してるのよ!服はどうしたわけ!?」
「...後でお話しします。それより今は、この子の話を聞いてみたいんです。」
冷静に言うルーネの右腕には、首を掴まれ苦しそうにしているゴブリンの姿があった。
ゴブリンを撃ち抜いた何者かは、息を切らしながら地下を走っていた。命令を実行できない役立たずのゴブリンを処理していたら、襲われていたはずの女がゴブリンを庇いだしたのだ。
しかも攻撃を続けていると、魔物のような姿になって、空を飛んでいった。
「奴は何者なんだ?簡単な任務だと聞いていたが、これは一筋縄では行かなそうだな...。」
独り言を言いながら、やがて闇の中に消えていった...。