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1話-異世界で私を守る騎士は、もふもふの大きな獣!?

 ――拝啓、天国のお父様お母様


 松丸のバカに裏切られ、窓から落ちて死んだと思っていたのですが、私、西園寺瑠璃(さいおんじるり)はまさかの異世界に来てしまったようです。

 最初はパニックでどうにかなりそうと思っていたのですが、こちらに来て今日で1週間。だんだんこちらの生活にも慣れてまいりました。


 瑠璃は父母に語り掛けるように自分の状況を振り返っていた。

 瑠璃の傍にぴったりとくっついて離れないもふもふとした大きな塊は、異世界で目覚めた瑠璃の前に現れた一角狼のモンスターだ。最初は「食べられる!」と恐怖で震えていた瑠璃の顔を優しく舐め、恐怖が消えるまで寄り添い傍にいてくれた。


「ありがとうキバ。あなたのおかげで私、この世界でもなんとか暮らせているわ」


 瑠璃が“キバ”と名付けたこの角が生えた獣は、瑠璃にふさふさの毛並みを撫でられ嬉しそうに瑠璃に鼻をすりつける。

 キバはこの世界に来て訳もわからず、ましてや森で生活などしたことがない瑠璃に献身的に尽くした。

 少しの間姿を消したと思ったら(15分以上姿を消したことはないから、姿が消えても常に安心感があった)どこかから魚を取ってきたり、兎(のようなもの、モンスターかもしれない)を狩ってきたり、木の実を持ってきたり、瑠璃を引っ張って飲み水がある場所に連れて行ったり、至れり尽くせりの生活だった。

 この世界にきて驚きの連続ばかりだったが、特別驚いたのは、飲み水がある川に初めて行った時のこと。自分の姿が、元居た世界にいた時と大きく変わっていたのだ。27歳、アラサーだった瑠璃の姿は15、6歳の中高生の少女のような見た目に。茶色だった髪の毛は漆黒の長い黒髪になっていた。


「私、全然別の人間に生まれ変わったのかしら…?」


 キバに話しかけるとグルル…と喉を鳴らして反応を返してくれる。それはYESなのかNOなのかしら…?

 そして瑠璃にはもう一つ疑問に思っていることが。今日でキバと出会って7日目だが、初日に出会った時よりキバの体が大きくなっているのだ。

 元の世界で飼っていたゴールデンレトリバーより少し大きいくらいだったキバの体は、2倍以上大きくなり、いまや牛よりも大きいかもしれない。


「成長が早いのかしら?」


 首をかしげるとキバは撫でて、撫でてと尻尾を振って角が当たらないようにしながら頭をグリグリとすりつける。

 かわいい子、きっとこの異世界ならではの成長スピードなのだろう。瑠璃はあまり深く考えすぎず、キバを思い切り可愛がった。


 そして、その変化は突然起こった。

 いつものようにキバを撫で撫で、ふさふさの体をぎゅーっと抱きしめかわいがっていると突然キバのグリーンの瞳が赤く染まり、体が黒いモヤを放ち始めた。


「なにこれ!? キバ? どうしたの? 大丈夫!?」


 キバの体から出た黒いモヤが、キバを包む。

 毒のような、見るからによくないものと感じさせる黒い何か。キバがいなくなってしまうかもしれない。本能的にそう思った瑠璃は、黒いモヤに怯えながらもモヤごとキバを抱きしめる。キバを守りたい。もう信頼できる誰かにいなくならないでほしい…! 瑠璃は必死だった。


 けれど瑠璃は黒いモヤに吹き飛ばされた。尻餅をついたあと慌ててもう一度キバに近づこうとするが、もうキバの姿は微かにも見えなくなっていた。黒いモヤは大きく大きく広がったあと、ぶわっと霧散する。


 その中から出てきたのは…


「嘘…キバ…なの…?」


 一回り体が大きく、毛並みは白から艶やかな漆黒に染まり、牙や角もたくましく成長したキバの姿がそこにあった。顔つきや、瑠璃を見つめるキラキラした視線は以前のキバのままだ。


『はいっオイラっす! あなたのキバです、ご主人!』

「えっ喋った!!」

『ご主人のおかげで進化して人語を話せるようになりました。これでご主人とお喋りができます!』

「進化…すごい。そんなこともあるのね。って…私のおかげ?」

『はいっご主人の力のおかげですっ! なでなでしてくださいっご主人~~~~~!』


 キバは我慢できない!というように瑠璃に飛びついて、いつものように撫でて撫でてのポーズをとる。盛大にのしかかられて少し苦しい。ここまで大きくなるとじゃれあいだけで押しつぶされそうでハラハラしてしまうが、相変わらずキバはかわいい。わしゃわしゃと思いっきり撫でてやる。

 一通りこの大型犬、もとい巨大モンスターとじゃれあったあと、満足したキバが説明をはじめた。


 この世界は主に人間と魔物が暮らしていて、絶妙な均衡を保ちながらそれぞれの土地を統治していること。人間と魔物は昔戦争もしていて、現在は仲良くしている国もあれば、未だに争っている国もあるということ。魔物は、野生の魔物がほとんどだが、魔王をはじめ高位の魔物たちは人語を話して、魔物が住む国に住んだり、人間と一緒の土地に住んでいるものもいるという。

 魔物と人間の関係…戦争したり仲良くやってる国同士があったり、その辺は元居た世界と変わらないのね…。瑠璃はそんなことを思いながらふむふむとキバの話に耳を傾ける。

 更にキバは話を続けた。今いる森がダークロードの森という野生の魔物が住んでいる森であるということ。何万年も前に封印された魔王に匹敵する力を持つドラゴンが封じられてる土地である為、人間たちにとっては立ち入ることを禁止されている区域になっていること。

 なるほど、人間に出会わないのは森の中だからって訳じゃなかったのね。そして魔王がいるだなんて…とっても怖そう。もしかして私、人間じゃなくて魔物? 話を聞いていて次々浮かんでくる疑問が瑠璃の頭を駆け巡る。最初に見つけてくれたのが優しいキバでよかった。危険な魔物に出くわしていたら、ただではすまなかったのかもしれない…。


『と、ざっとですが…。また追々ご説明いたしますね。そして一番大事なことなんですが、これまでの暮らしでお気づきではないかもしれませんが、ご主人は闇の力がすごいんです』

「や、やみのちから?」


 ネガティブすぎるってことかしら? 瑠璃がそんなことを考えていると、キバは体から黒いモヤをぶわっと出す。先ほどキバを包み込んだ禍々しい黒。


『これがオイラたち魔物の力の源になってる”闇の力”です。この闇の力が大きければ大きいほど上位の魔物になるんです』

「なるほど…黒いモヤモヤの正体はわかったけど、私がなんでその闇の力(?)がすごいの? ちなみに私、人間よね…?」

『ご主人、見た目は人間なんですが闇の力がにじみ出てるというか、とにかく匂いがすごいんです。そしてなんといってもその髪の黒さが…』

「匂い!?」

『そう、匂いっす! オイラ、ご主人を一目見た時に、絶対絶対この方に忠誠を誓うんだって思ったんです。そのくらい、ご主人には魔物たちを惹きつける力があるんです!』


 瑠璃はくんくんと自分の体を嗅ぐ。魔物を惹きつけまくる闇の匂いがすごいって、なんだか複雑な気分だわ。臭いってこと? 自分だとまったくわからなくてなんだか恥ずかしい気持ちになる。


「私、そんなに匂うの? でもこの森でキバ以外のモンスターを惹きつけた記憶がないんだけど…」

『それはオイラがしっかりマーキングさせていただいてるからです! ご主人に近づいたらオイラがタダじゃおかないっていう印を…』

「ええっマーキングって…!!」


 どや顔になるキバだが、犬のマーキングを思い出し、瑠璃は真っ赤になる。困った様子の主人を見て、キバは慌ててフォローを加える。


『オイラがぺろぺろしたり、いつもご主人に可愛がっていただいてるのでオイラの匂いがたくさんついてるんです。オイラ、ここら一帯では一番強いので、へたな下級の魔物は近寄ってこないっす!』

「そういうことだったのね。キバ、強かったのね。えらいえらい…」

『もっと! もっと撫でてくださいっすご主人! ご主人に撫でられるとご主人の闇の力を頂くことができるみたいで、進化できたのはそのおかげなんです』

「ふふ、役に立てたならよかったわ。闇の力なんて自分じゃまったくわからないけど…本当にそんなすごい力があるのかしら?」

『魔物たちはご主人に出会ったらメロメロになって、攫って自分だけのものにしようとするかもしれないです。ここら一帯にいる限りオイラ以上の魔物はいないので、オイラのマーキングで守れますが、より上位の魔物が現れたときはどうなるかわからないっす。だからご主人、自分の価値をしっかりわかって、気を付けてくださいね』

「わ、わかった…」

『でもオイラ、ご主人と一緒に街には行ってみたいっす。魔物の丸焼きだけじゃなく、ご主人にもっともっと美味しいものを食べていただきたいっす』

(やっぱり、いつも狩ってきてくれた兎(?)は魔物だったのね…)

「ありがとう、キバ。そうね、私も行ってみたいけど…」


 キバの発した恐ろしい言葉がひっかかっていた。魔物に攫われるって…。瑠璃の背筋がひやっとする。


「そういえば、私が人間なのかどうかっていう話なんだけど――」


 瑠璃がそこまで言いかけた時、キバが突然グルルル…と何かを警戒するように唸り声をあげる。キバが睨む先を見るが何かが起こった様子はない。


『ご主人、今すぐそこにある布をかぶって、木陰に姿を隠してください』

「えっ? 何が起こったの?」

『人間の気配です。およそ100メートル先…ここは禁止区域のはずなのに…!』

「人間…?」



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