怖がりクマさんとオンボロ橋
怖がりなクマさんには一つだけ特技がある。
みんなには言っていないそれは誰も知らない時間、知らない所で役に立っています。
さて、みんなの周りでいつの間にか壊れていたものが直っていたりしないでしょうか?
それを直しているのは……。
逆さ虹のかかる森ではオンボロ橋がかかっていますが誰も渡ろうとしていませんでした。
橋の床板は腐って穴が開いていたり、つり橋であるため手すり部分のロープは切れていてなかったりと今にも全部が壊れそうなオンボロの橋。
前はここまでひどくはなかったとここの住む動物たちの話。
修復はされたこともありますがすべては応急処置的なもの。
完全に修復とまでは行き着いていないので誰も渡らないのです。
「これはいけない」
そう言葉を出したのは森で一番の怖がり屋さんのクマさん。
一つの特技は物を直すこと。
みんなにはナイショで様々なものを直してきた。
ドングリ池に浮かぶ船も、木の根っこ広場の痛んだ根っこも治してきた。
実力はお墨付き。
でもみんなは知らない。
ここでもみんなが寝静まったころを見計らって道具と材料。立ち入り禁止の看板にテープが貼られて安全確認。
対岸も同じように準備を整えます。
「これで良し」
場所は整いました。次に取り掛かったのは橋の設計図。
ここまでボロボロになると最初から設計しなおして頑丈に、丈夫に作るのが良いと考え今のつり橋方式から支柱のある橋に変えます。
できた設計図は支柱が六本、それを支えにして橋がかけられるものにしました。
「あとは、川の深さと支柱用の木材……」
そう言って川の深さを見るために頭にはヘルメットを装着し川に入る。
クマさんの足まではどっぷりと水に浸かって深い所では腰辺りの深さがありました。
こうなるとリスさんは絶対に泳ぐことになるのです。
目標は全員が安心して通ることのできる橋。
クマさんの建設は始まったばかり。
深さを確認した次は支柱となる太く頑丈な丸太を持ってきた材料の中から探し出しますが、あと一本足らない。
持ってきたのは五本だけだったのです。
ふむ。あと一本はどこからか持ってこないといけないか。
そう思ったクマさんは周りを見て形の合う木を切り始めます。
こうして材料は揃いました。
「よし、次は~」
鼻歌交じりで作業をしていく姿はまさに職人。
手際よく白い袋に土を入れていきどんどん作っていきます。
つくられた土袋は川まで持って行き、つり橋よりも少し離れた所の川に投げ込みます。
つり橋を囲むように川の半分をせき止めます。
半分にしたのは、川が氾濫しないようにするため。
囲った中の水はどんどんかき出して川の土を出す。
そこにさっきそろえた支柱となる木材を二本運び込んでつり橋よりも幅は大きく左右に打ち込んでいく作業に移ります。
クマさんは一人でこれをやるために先に立てるところには穴を掘っておいて支柱をそこに立てて上から大きいクマさん用と書かれたハンマーで打ち込んでいく。
立てた支柱にはある程度の高さで穴が開いている。これはクマさんが開けており木を組み合わせて橋を作っていくためのもの。
これが頑丈に作る秘訣。
組み上げるのとヒモで結ぶのを比べてもその頑丈さは折り紙が付くくらい丈夫にできる。
「一本目完成っと」
支柱同士を横で組み合わせた角材で繋げたら一セット終わり。
二セット目も設置したら今度は邪魔になるつり橋の撤去。
つり橋は二本のロープが橋を支えているため、ただロープを切って終わりということはクマさんは許さないのでした。
どうすればいいか。
安全にかつ確実に撤去する方法を考えます。
「あ、板を外そう」
つり橋にかかるのはボロボロになった板。
それを外せばロープだけになる。
それならロープだけ回収して安全にできるということ。
早速、作業に入ります。
一枚目を外そうと手でつかんだ瞬間。板はボロリと崩れ落ちたのです。
こうなると足の踏み場もなく本当に危険だということがわかりました。
そこで、板はすべて叩き割ることに。
壊すのであれば壊していく方がしやすい。
まずは一本目の支柱の所まで板を割って、支柱まで来たら岸と支柱の間に新しい板を仮置きして足場を作ります。
さらに、間違って橋が崩れないようにするために対岸辺りまで板を渡して落ちても安全なように橋を取り囲む。これでボロボロの板も外しやすくなりました。
クマさんは壊し片付けて、次の板も壊して片づけをしていきます。
すべての板を外し終えたら次はロープの撤去。これは難なく終了。
「ふう。次は……板張るか」
岸と一つ目の支柱に丸太で下を頑丈に作り上げる。
組み込み式だと頑丈にできるのだが、準備段階で時間が掛かってしまうため取り入れず。
丸太をいかだの様に並べて端を揃えて岸と一本目の支柱にかける。
これだけでも橋としての機能は十分。
クマさんはここにもう一つ板を横にそろえて並べていき釘で固定していきます。
丸太ではささくれている所もある為、クマさんでも足に刺さってしまうこともあったため安全第一で丁寧に仕上げた板を張ることで誰でも渡れるようにしました。
でもまだ橋の三分の一。
対岸まではまだまだ遠いです。
今夜はここまで。
元々、誰も近づかないと思っている場所なので道具も資材もそのままにして家に帰ります。
昼間はずっと寝てばかり。
最近は怖がりなクマさんが出てこないとみんなが心配します。
クマさんはそんなこと知らずに今夜も橋の修復に向かいます。
今夜は三つ目の支柱を立てて全部をつなげます。
作業は前と同じ。鼻歌交じりで作業を行っていきます。
一つ目の支柱から対岸までに長い丸太を敷き詰め端々をロープで結んで支柱とも固定してその上に板を並べて固定し行くと橋は八割がた完成。
でもクマさんの表情に笑顔がありません。
橋自体は渡れることになったので川のせき止めていた土袋を除く作業中も考える様に表情は硬いまま。
「高欄……どうしよう」
高欄とは、橋の手すりのこと。つり橋ではロープだったところ。
板の頑丈な橋にしたはいいけど、手すりは全くの手つかず。
誰かが川に落ちる可能性は高い。手すりは必要なのだ。
「ふむ……支柱とその間に……」
最初にかいたものには手すりは付け加えてなかったので、ここで再度書き換えして手すりを追加。
支柱と岸に向かって長い板を取りつけ主軸として活用してそこに板を適切に配置して手すりにする。
もちろん、身を乗り出しても落ちないように安全設計。
体重が重いと壊れる心配があるけどクマさんが自分で体重をかけて確認済。
反対側も同様にして完了。
立派な橋が完成。
さすがに疲れたのか、片付けはある程度済ませて今夜は帰って寝たのです。
次の夜には看板、テープ、資材、道具すべてを片付けて元に戻しました。
川にかかった橋は月明かりに照らされてキラキラと輝いて見えた。
クマさんはふぅと息を吐きながら作り上げた橋を眺める。
三晩続けての工事はさすがに疲れるものです。
でもこれはクマさんが特技として持っていて、趣味として直してしまう。
怖がりな性格なクマさんですが。
安全じゃないことはとても怖い。
みんなが怪我をすることが怖い。
それらがクマさんは怖いのかもしれないです。
だからこその趣味で特技ですね。
さて、直った橋は翌朝にリスさんが発見してみんなが集まって渡ったり遊んだりして楽しんでいました。
クマさんはその様子を木の隙間から見て満足そうに笑顔を浮かべていました。
それを見た後は次の壊れたものを探して森を歩き回り始めます。