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プロローグ②

このままでは生きて行けないのは目に見えていた。少しでも生存の可能性があるなら森の出口を探そう。


決めれば後は早かった。

近くにある竹に似た細い木を錆びた短剣を斧代わりにして斬り倒す。

無論周囲を警戒しながら。


用意した水筒は30本。1ヶ月分。

雨がいつ降るか分からない以上当てには出来ない。

この水が尽きるまでにはこの森を出なくてはならない。

元々持っていた水筒は予備に回す。水はいくらあってもいいからね。



後は食べ物。

狩猟出来ない私には今まで食べて大丈夫な草しかない。

3日かけて必死で食べれる草を探して探して、ようやく幾つか群生しているのを見つけた。

それをありったけ、全て。

根っ子も洗えば食べられるから根こそぎ取っていく。


生態系だの環境だの日本の頃の話が脳裏によぎったけど、私が生きてゆくにはそんなもの構ってはいられない。

生きて帰るには必要なことなんです。ごめんなさい。


代わりにこの世界を変えるような知識や常識があるならそれを出さないでおこう。


自己満足かも知れないけど、この世界にはこの世界のルールや文化がある。

私の自己満足だけで価値観や知識を押し付け破壊するのは、いずれ去る私には出来なかった。責任も持てないし。

私は旅人に過ぎないのだから。



魔物がうろつく水場から全ての水筒に水を満たすのに2日間費やして4日目でやっと出発出来た。

その頃には捻挫は完治していたし指に強く力を入れなければ爪の痛みも気にならなくなった。


今まで住んでいた木のうろに深く頭を下げる。

私の2倍の木のうろのあるピンクかがったこの大木は、不思議と魔物も動物も来なかった。

本当に感謝しかない。

今まで守ってくれてありがとう。


長期になるのは覚悟した。この森で魔物に美味しく頂けるか餓死するか、無事に出口にたどり着いて人間に会えるかどうか。

後は運任せになる。


ジャージのポケットに薄汚れてしまったけど有名な学問の神様の御守りを忍ばせる。

学問の神様?いいの、御守りなんだから。

生き残るには運だって必要。

この世界の神様なんて知らないしすがれるならなんにでもすがりたい。



周囲を警戒しつつ私が長く走れる程度の速度で走り出す。

さあ冒険の始まりだ!











スマホを何回か取り出したりした。

充電切れでも取り出して家族や友人の写真とかメールとか無性に見たかった。

私が1人でサバイバルしてるって知ったらどんな顔をするんだろう。

心配させてって怒られる言葉も嬉しいしありがたい。

小言でもいいから声が聴きたかった。

そして無性に誰かと話をしてみたい。




1日の流れはこの20日間で分かっている。

なんとなくだけど日暮が近いとかの勘が働いていたりする。

ちょっと薄暗くなりだしてから日暮まで3時間くらい。

この間に新しい寝床と水場を確保しなければならない。

簡単に水場なんか見つけられないし、洞窟や木のうろなんて便利なものなんてすぐに見つかるはずもない。

前の住みかは4日彷徨って偶然見つけたんだもの。


寝床は魔物がなるべく来ないような低い灌木の隙間に身を潜めるだけ。

木の上は蛇や蜘蛛の棲家なのでかえって危ない。


完全に寝入ると危ないから夜明けまでうつらうつらしながら起きる事を繰り返してようやく朝になる。



まだ雨は降らない。

この世界には雨がないのだろうか?

貴重な水をほんの少し使って顔を洗う。歯磨きは歯ブラシでごしごしするだけ。

歯磨き粉で洗うと濯ぎの水を必要とする。無駄な水は1滴も使えない。この水が無くなれば死に直結するから。

髪はごわごわで体臭が更にすごい。まんま浮浪者だから仕方ないんだけど、今一番の望みはって聞かれたらお風呂って答える自信はあるな。

泥と垢で汚れて絡まった髪をブラシで無理やりギシギシときながらツインテールで締める。



草をむしゃむしゃしたら出発準備が整った。早く人間らしい生活がしたい。

ツインテールに緑のジャージ上下。小汚ない靴下と汚れきった上履き。

日本なら発狂ものの姿だよね。

制服とか学校指定の靴や鞄などこの世界で披露するには目立ち過ぎる。






アイテムボックスを発見した時はなにがなんだかわからなかった。ここに来て2日経って右上にみてみてって云わんばかりの赤い光の点滅が現れた。

光を見たら出て来たのがこの説明。



【アイテムボックス】

数量や重量、大きさの制限はなく無制限に入る。但し目に見えない生物以外の生き物は不可。

**********の朶葩簸膩綜礪で輻閼衢。蠡恠餉


‥文字化けしてわからなかった。


最初このアイテムボックスを見て絶望したと思う。

ここは異世界ですよって云われたようなものだから。

本当は間違って誘拐されたとか人違いで捨てられたとか現実逃避してパニクっちゃったんだよね。

助けを求めるにはどう行動したらいいのか考えてたから。


いまならありがたいからあって良かったと思う。

大量の食糧と水が用意出来なかったらここにはいない。


因みにステータスは未だに分からない。アイテムボックスを発見してからステータスとかステータスオープンとか、私のステータスを見せたまえとか色々試してみたけどだめだった。

自分のステータスが見れない話もあったしこの世界は見れない方の世界なんだろうか?








ラノベならオープニングで美少女や美女がゴブリンとかに襲われて、今まで戦った経験のない主人公が助けに行くイベントがある。

何故か達人的な技でやっつけるのだけど、そののちヒロインは主人公に一目惚れしてしまい、鈍感な主人公にハニートラップを仕掛け、他の女を蹴散らして念願かない結婚させることになるのだ。


いくら美少年でもヒモの浮気男ならそもそも

相手にしてないでしょ。

美人は自分に自信があるから贅沢をさせてくれる可能性のある男は放そうとはしないんだよね。


男も普通の女の子より他人に自慢出来る美人嫁の方がいいだろうし。




または絶世の美女又は美少女奴隷を助けて主人公に全て捧げるって話もあったよね。

ハーレムなんて愛情が目減りするのにどこがいいのか不思議。

ハーレム持ってれば旦那は容易く新しい若い嫁を加えるだろう。

今の嫁達がどう思うかより自分の欲望を優先しやすくなる気がする。

年取って太って皺だらけのおばちゃま方が旦那を取られまいと若い女を威嚇するだろうし、若い嫁は寵愛を自分に向けようと戦いになる。

その矢面に立つ男は相当図太くないとハーレムなんて作れないだろう。

ハーレムなんて男の采配で平穏にでも騒乱にでも転ぶもの。

女の戦いとか言われるけど本当のところハーレムの主が全ての鍵を握り中心にいるのだ。

年とった大量の嫁は年々扱いにくくなるだけだろうし大量の子供たちの仲なんて推して知るべし。


イチャラブのピンクな世界はさておき。



現実はそんなに甘くない。

相手は私だしそんなご都合イベントなんて起こるはずもない。

私にイケメンか才能ある男主人公や騎士さまに助けられて寄生するチャンスなんてあり得ない。

あっても私には主人公を捕まえ続ける自信すらない。

ちやほやされて求婚されて、生涯生活全てを一切見てくれるなんて、汚れにまみれた臭い人間に甘い話なんて転がってるはずもない。

あれは男の人にちやほやされ馴れた凄い美少女か凄い美人にしか許されないイベントなのだ。


こんな森深くなんて貴族や豪商の馬車なんて通るはずもなく。

盗賊や魔物が馬車を襲うイベントのフラグなんて立ちようもない。


フラグ?

現実にはフラグなんてないでしょ。

この汚さでは浮浪者扱いされて不審者扱いだと思う。

私ならこんな怪しい人連れていかない。

ラノベの主人公のように魔物を退治する腕もないんだし。









あの日部活に出るべくジャージに着替え荷物を持って部室にいく途中。歩いていた私の足元に浮かび上がった廊下いっぱいの文字が光る巨大な魔方陣。

急にそれは現れて私の体を光に包むとこの森にきていた。


異世界転移。

最近では悪い王族が戦力のため異世界に呼んだってのが主流になっていたっけ。


とりあえず私にはやる事がある。召喚されたのだから、この世界には私を呼んだ奴がいるってこと。

どんな理由でこんなとこにいるのかわからないけど、呼び出したんなら帰る方法くらい知っているはずだ。

帰る方法がない可能性については封印しておく。


気持ち萎えちゃうといけないし、現実になりそうで考えたくないの。



ただね。相場は決まって悪い権力者なんだよね。王族しかり神殿しかり。

そんな金も権力もある人物に一般人が近寄れるはずがない。

しかも召喚って自分とこの軍事力を増強させることだからその事実は表に出さないと思っている。

魔王にしても他国にしてもさ、警戒して下さいねっていう振る舞いは避けると思うよ。



自国民すら知らない情報をどうしたら握れるのか。どれくらいの広さでどのくらいの数の国があるのか。

どうすれば召喚者がわかるのか。

とんでもない時間がかかるのがわかるだけに見つけたらただじゃ置かないと誓う。









時折がさがさと音がする。

その時は走るのもやめて用心深く進んで行かなければならない。

気持ち悪い咆哮が遠くから時折聞こえたりする。

存在を極力消せと心の中で命じながら用心深く息をする。

僅かに見える地面にはいろんな足跡が見えた。

糞の様子や木々に付いた様々な傷。

大抵はその場所は高くて私くらいの小さな生き物は 今のところゴブリン以外はいないようだった。





火が実に偉大な発見だったと思い知らされたのはそれから数日たった後。

40㎝くらいの頭に1本角がついた兎を仕留めた時だった。


白くてモフモフして鼻をピクピクするのが可愛かった。

触りたかったけど可愛いって遠くから眺めるだけの予定だった。

ほら野生種って警戒心強いでしょ?怖がらせるの可哀想だと思って。

それが襲いかかってくるとは想定外だったの。


真っ赤な目が邪悪に光り口元がニヤリと笑った。

えっ。こいつ肉食?

ひょっとして獲物だって思われてる?

私143㎝しかないけど体格差では無理だと思うな。

って云うかガリガリに痩せてしまっている今の私は、お肉なんてないし食べても美味しくないと思う。


たっとこちらに跳ねて来るのは想像以上に早い。

腰を屈めて低い姿勢で槍を構える。


可愛いけど私に危害を加える以上それは敵だ。

ゴブリンを殺して何かが吹っ切れたように感じる。



兎は地面を蹴ると額の角を私の目を突き差して来た。

槍の柄をあわてて振り回した。

かろうじて振り払うけど解決になってない。

あっちは私を食べようとしてるんだから諦める事はないだろう。

その後も何度も顔面に攻撃されパターンを読んだ。

こいつは角で目を攻撃するだけしか攻撃方法がない。


頭はよくなさそう。


さてこちらから反撃させてもらおうか。

相変わらず顔面に攻撃する兎が来る直前、1歩下がって私の槍を思い切りこれ以上は無理という速さで突き上げる。


あっ。失敗。

少し皮の部分だけ貫通してるだけだ。

このままだと逃げられちゃう。

地面に素早く突きさして兎を強く踏みつけながら回すように両手で抜く。


ギャアッ。

凄い悲鳴が上がった。

こんな小さな体のどこにこれだけの声が出るのか。

だけどお前は私の糧になって貰うよ。

仲間が来る前に仕留めなきゃ。


前足で私の足を激しく蹴ろうと動かし、体をくねらせ暴れる。

そうはいかない。私のお肉め!

踏み締めた足に力を入れて槍を短く持って両手で首を定めて衝く。


あっ外れた。下手くそ。

暴れているのを足で踏みつけながら槍を衝くのは想像以上に難しい。

運動音痴としては足で踏みつけ続けるのも苦労した。


何度も何度も必死で槍で衝く。

失敗する回数のが多いけど思い切り衝いたらようやく動かなくなった。


思い切り衝いたせいで槍が地面や兎から離れなくなった。

槍を兎からひっぺがすのにかなり時間を要した。

錆びた短剣で首を落とす。

血抜きしないと肉は臭くなる。

本当は肉焼けを防ぐために肉が冷えるまで水につけて置きたかった。


まあ無理だって分かってるから血抜きして直ぐにアイテムボックスに収納したけど。


この辺は血が流れた。

悲鳴を聞いて仲間が来るかも知れない。

他の魔物や危険な動物もやってくるだろう。その前に移動しなければ。





夕暮れまで歩いてねぐらを見つけてから兎を取り出した。

あれ?皮をどうやって剥ぐの?

肉って生で食べてたら危ないよね?

どんな寄生虫がいるか病気持ってるかわからない。

毒だの痺れだのには対処出来るのに虫や病気までは考えてなかった。

ドクロの実だって万能じゃない。

あえてリスクを負うのは危険過ぎる。



火で熱を通せないと気付いて激しく落胆した。

これで美味しいお肉食べれるって期待が高かった分だけ落ち込みは半端なかった。



火が欲しい。

あのマズイ草だって熱を通したらそれなりに美味しくなるかも知れないのに。

あとは鍋。調味料、大量の水。

兎と野草で煮込んで汁物にするの。


美味しい兎鍋を妄想しながら眠りについた。







私の体は快適に走る。ゴブリン倒したせいじゃないかなぁと思ったけど、兎を倒してはっきりした。

以前より体力や腕力が上がっている。

素早さや聴力さえ違っている。

ある一定の速度以内なら永遠的に走り続けられる気がするのだ。

それにより移動距離が爆発的に伸びた。

機会があれば小動物を狩って行きたい。







そんな余裕が出始めた頃。

ふいに嗅いだ事がある香りがした。

あれはハンバーグ?ちがうな、クレープ?

ケーキ?焼き肉?何だかよく分からない。

分からないけど本当にいい匂い。

空腹の私にガツンと来る匂いだった。

ふらふらと匂いの元に早足で歩いて行く。


食べたい!

肉じゃが。煮魚。お寿司!

よだれ垂らしながら草をかき分け進むとふいに拓けた場所に出た。

見渡すと空き地の真ん中にテーブルいっぱい溢れんばかりに置かれたご馳走があった。


幻覚じゃないよね?

あれはカレーライスだ!お味噌汁もある。

お味噌や醤油やお米を使った料理に懐かしさが湧いた。

日本料理、中華料理にパスタ料理、フランス料理にメキシコ料理。ありとあらゆる料理とデザートが並ぶさまは壮観な一言に尽きた。


食べたいものだらけでどれから手を付けていいか分からない。

うわぁ。どれから食べよう。

幸せで贅沢な悩みにうっとりする。

さあフォークを手に取ろうと手を伸ばした時。



からん。

何かが落ちた音がした。

がさがさがさ。

木々が揺れる音。

後ろを振り向くと乾いた動物の首が落ちていた。

悲鳴を口の中で押し殺して反射的に右に跳ぶ。

意味はなかった。

首から離れていたかっただけ。

それが生死を分けた瞬間だったと後で知った。


ぶん。

もの凄い風が私のいた場所に吹いた。

風の勢いで更に背後に飛ばされた。

訳がわからずご馳走の乗ったテーブルを見る。

そこには料理の詰まったテーブルなどなく、5m位の大きな口を持つ花があった。

薄桃色の儚い花弁の巨体な牡丹の花っぽいもの。

真ん中に尖った歯に覆われた口がなければ私はいつまでも眺めていたに違いない。


襲ったものは直径1m程の巨大な蔓だった。

私を食べようと蔓を伸ばしたけど私が回避したようだ。


ご馳走は?

意地汚くも消えたご馳走を探していた。

次の瞬間もやがかかり、懐かしい香りが辺り一面に漂ってきた。

「はーちゃん。お帰りなさい。ごはん出来てるわよ。」

お母さんだった。

懐かしい顔、懐かしい声。

なんでここにいるの?

「はーちゃん、よく帰ってきたわね。みんな心配してたのよ。お父さんなんかもう毎日泣いてたんだからね。」

泣き笑いながらお母さんが手を伸ばした。

「お帰りなさい。」

信じられない。奇跡が起こったみたい。

「お母さんっ!」

必死で駆け寄り‥。



持ってた錆びた剣でお母さんの首を切った。

許さない。大切な記憶を玩具にして。

お母さんはごはんなんか作らない。

そんな儚げな笑顔なんて浮かべない。

第一お母さんは消毒液の香りがする。そんな生臭い匂いなんて撒き散らさない!



怒り狂っていたのか気がついたら剣で花をめったぎりしていた。

無意識で攻撃をかわし無我夢中で蔓をぶったぎりとどめをさしていたようだった。

千切れたたくさんの蔓とバラバラの花弁と花をアイテムボックスに入れた。


怒りがおさまらない。

私の願望を希望を踏みにじるなんて。

再び走りながら人喰い花を罵倒し続けた。

帰りたい気持ちを大切な家族の思い出を汚い手を突っ込まれてかき回されたから。


多分ここで泣きわめいたら心が折れる。

一度折れたら再び立ち上がるのにかなりの時間がかかるだろう。

だけど優雅に心を折れる時間などないのだ。

この森で動けなくなるとはイコール死なのだから。


今は泣かない。

泣く暇があるなら走れ。

弱い者には泣く行為さえ許さない。



そしてこれより暫く家族の夢で苦しめられることになる。








兎を狩猟してから10日たった。

兎1匹くらいなら楽に狩れるようになってきた。

最初の兎って赤ちゃんだったんだね。

大人の兎って私の身長近くあるから。

認めたくないけど牡丹擬きと戦ったのがいい経験になったようだ。

覚えてないけど。


相変わらず兎肉にありつけない。

生で食べれるものしか口に出来ないからだ。

村に着いたらお金が必要になる。

それを手に入れるのに役立って貰おう。

ただ赤ちゃん兎は売ってもたいしたお金にならないだろうから、鍋をゲットしたら食べてみてもいいな。

なんて気楽に思ってた。




しかしここまで1人も遭遇していない。この世界に人間っているんだろか。


道があってるかも確認出来ないし、勢いで来ちゃったけど方向逆だったらどうしよう。











植生が段々変わっていく。5日前にドクロの実を全てもぎ取って以来、ドクロの木が見えなくなった。

代わりに美味しそうな実が出現する。

つるんとした表皮に赤い甘い香りのする、林檎に似た直径5㎝くらいのさくらんぼみたいな可愛い果実。

だけど食べる気にならなかった。何でだろう。


樹木の外皮はふかふかの毛皮で覆われ様々な色と毛皮の固さがあり、同じのは1つもなかった。もふもふをペタペタ触って歩く。楽しい。




貯蔵していた草が残り少なくなってるのだ。

出来る限り摘んではいたけど、繁茂している範囲が狭くなっている。

数日前から量を減らしてはいるけれど不安。

これが食糧になれば本当に助かる。



誰か毒味してくれないかな?

いままでの学習で美味しそうな実は大抵ヤバいと知っている。





未練がましくもじっと見ていると近くでがさがさと大きな音がした。

あわてて灌木の根元に踞る。


しばらくすると2m超えた巨大な熊が現れた。2本足歩行の不思議な黒熊。

熊はキョロキョロと周囲を見回すと小首をかしげ私が未練がましく触っていた実を引きちぎった。


くんくんと匂いをひたすらに嗅いでいる。

私の臭いでやってきたらしい。


どうしよう。これで熊が立ち去るまでこの場を離れられなくなってしまった。

動けば当然熊に狩られる。

熊が動かないなら私の体臭に気付かれる危険だってある。

他の魔物に遭遇する前におさらばしたいんだけど。

どうしよう。


そうっと音をたてないように外を覗くと熊がちぎった実を口に入れるのが見えた。


おっ。

美味しいのかね?

モグモグした次の瞬間。

次々と実を引きちぎり夢中で口に頬被っていく。

凄い。

その止まらない食べっぷりに喉がくぅぅと鳴いた。


早く立ち去ってくれないかな。


私の儚い希望も虚しく熊は全ての実をあっという間に食べきってしまったようだった。



熊のばか。私の実を返せ!

発見したのは私だったのに。全部食べてしまうなんて。

激しい怒りに呪詛めいた言葉が思わず出た。

空腹すぎて感情が押さえられないなんて初めての事だった。

早く他の実を見つけて採取しないと。


久しぶりの新しい食べ物に期待は高鳴る。

とりあえず熊は早くどいて欲しい。




熊が立ち去るのを待ったのに一向に立ち去ってくれなかった。

また別の木の実を食べてるのかな。

ごはんに夢中になってるなら少しくらい様子見てもいいよね。


そうっと時間をかけてそろそろ顔を出してみた。



確かにまだ熊がいる。

でもなんだか様子がおかしい?


微動だにせず天を見上げる熊。

どこをみてるんだろう?

敵なのかな?

美味しい木の実を見つけたのかな?



熊の目線を辿るけど私の目では何も変化が見えない。



しばらくして両手をゆっくり緩慢に天に掲げるとぴしりと木の裂けたような音がして、熊の体はみるみるうちに縦に伸びていく。


太い体はすこしづつスリムになり、上へ上へと成長していく。

体の倍以上に伸びた時、急に頭が爆発音と共にはぜた。

次の瞬間体の中から勢いよく飛び出してきたもの。


幹だ。

木の幹や枝が熊の胎内から四方八方から皮をぶち破って伸びていく。

最後に待ちに待ったかのように頭頂からものすごい勢いで吹き出してきた。

みるみるうちに爪先やかかとから根っこがのび2つの足は毛皮で1つになった。




腰が抜けた。



時間にしてわずか数分。

熊だった場所には毛皮にくるまれた新たな大木が、前からあったように違和感なくたたずんでいた。



この木々は全て動物が木になっちゃったもの。

これを食べるつもりだったのか私。ゾッとする。


熊くんありがとう。君の犠牲は忘れない。

君が体を張って教えてくれなければ私も今頃はあの木々の仲間になっていたかも知れない。


地面に落ちた熊の半分に割れた首は虚ろな目をしていた。その目を見ながら熊の冥福を祈りつつ、静かにその場所を後にした。








それからしばらくたって残りの水筒が3本になったことに気付いた。


あと3日。

なんとしても出口までたどり着かないとまずい。

大量の草も僅かとなり。移動途中でも採取しにくくなった。数が減り葉が小さくなっていく。

しかも4日前から葉っぱは見つけられずついに3日前に食べるものがなくなってしまった。



食べ物がなければ体は動かせない。あれだけ快適に走れた体も今はすっかり重くなり、疲れ易くなった。

更に激しい疲労で重石を背負っているようでゾンビのようによろよろ歩くしかなくなった。



やばい。あとわずかかもしれないのに。

今の私はゴブリンすら狩れそうにないかも。

何か狩ってステータス上げたら楽になるとわかっているんだけど。


不幸なことに3日前から休憩する灌木がない。

隠れ場所が見つからない以上、常に移動するしかなかった。


不眠不休でひたすら歩く。


そして草の減少と共に動物の鳴き声の迫力が弱くなりその数も減っていく。

人家が近いかも知れない。


飢えるのが先か。人と遭遇するのが先か。

気力をふりしぼって立ち上がり、歩く。

立ち止まれば死を意味する。

足が痛くても空腹が辛くても前に進むしかない。




と背後でがさがさと草を掻き分ける音がした。

何かいる。

私のばか。何やってんの?

人家が近いと浮かれていたのかも。警戒をすっかり解いていた。



あわてて逃げる。

何が来るかなんて悠長な事をしていたら死が待っている。

よろよろだが全速力で。


ほどなくして大きな黒狼が現れた。

ヤバい。食べられる。


ゴブリンなんてあれに比べれば可愛いものだって‥‥前方にゴブリン?

退きなさい。



襲って来たゴブリンを奇跡的に何とかかわし死にもの狂いで回しげりをした。

狼の方向に蹴り倒したのは計算だったけど。

偶然にも狼にゴブリンがぶつかり、狼が疎ましそうに咆哮をあげた。


よし!今のうち。


ゴブリンが立ちすくんでるのをみてゆっくり後退りする。

狼は私とゴブリンを見、私は簡単に始末出来ると考えたようだった。

ゴブリンに襲いかかるのを横目に全速力でその場を後にする。



神様助けて。

私は絶対、うちに帰るの。

お父さんやお母さん、お姉ちゃんのいるあの家に。



走って走って走って‥‥

何かに蹴躓き、私は空を飛んだ?

空?

足元には地面がなかった。

崖になっていたのだ。

体に激しい衝突音と痛みに気を失った。






**************


「うわあ汚ったねえ、生きてんのか、こいつ」

髭面の男が気持ち悪そうに足先で子供をつつく。

にやけ男が上着をめくり薄い胸が微かに上下に膨らんでいるのを見つけた。

「おっ生きてる生きてる。女だぜ、まあまあじゃん」

「お前こんなガキがいいのかよ。」

汚物には近寄りたくないと言いたげに髭面は嫌そうににやけ男を見た。

「泣き叫ぶガキを手込めにすんのが楽しいじゃんよ」

軽く舌舐めずりしながら嬉しそうにこの薄さがたまんねえよなと子供の胸をさすり続けている。


少女は8才くらいに見える。

こんな幼児を性的対象とする悪趣味を持つのはこの男ぐらいだろう。

「いくら女でもこの汚さはないぜ」

人のカタチをした汚物の塊を気持ち悪いとばかりに髭面は吐き捨てた。


ひょろ男が口を挟む。

「手込めにするならそれなりに出てるとこ出てないとな」

「お前はおっぱい好きだからな」

「好きな男の前でヤるのが一番楽しいぜ。」

「お前モテねえもんな。今まで嫌がる女しかヤってねうだろ。」

にやけ男がからかうと黙って見ていた第4の男が口を開いた。

「孤児院のガキが逃げたしたのかもな。ガキを捕まえたら少しばかりだが謝礼が貰える。ニック、そいつを担いでいけ」


「了解、了解リーダー」

にやけ男が幼女の匂いだぜと嬉しそうに体中をかぎながら肩に担ぎ上げる。ついでに尻を撫でたのは運び賃代わりだ。

こんな騒ぎの中でも少女は目を覚まさなかった。

このまま死んだとしても自分たちには関係ない。

この4人の冒険者達は来た道を戻り始める。



絵馬春光。16才。

初めての人との遭遇でようやくこの世界に足を踏み出すことになる。



これは神々と直接交渉を持つ力を持った少女の物語である。


私の小説を読んでくださりありがとうございます。

次は悪徳の町です。

ようやくスタート切りますね。

不快な話なので嫌な思いさせちゃうかもしれません。

悪い人ばかりです。

常識も全く違う国です。

良ければ読んで下さい。

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