怪しい風
◇どこか暗い部屋
「…アタシの許可もとらずに、勝手に敵と接触したようだな?」
「す、すみませんっ!ボスっ!」
王座に腰掛けるは、刺々しい仮面で顔を覆った"ボス"と呼ばれた少女。
そして、彼女に跪いているのは、ハルの前に幾度となく現れたツインテールの少女、"ブラックラビット"だ。
「ブラックラビット…君はどうやら本来の目的を忘れかけているようだ……」
「い、いえっ!!忘れてなどおりません!『人類をひとつに統一する』という崇高なる目的のため、仰せの通りにしております」
「……ふんっ!まあ、いい…君には次のミッションを用意してある。
敵組織の……『精神破壊』だ!」
それを聞いたブラックラビットは、ようやく降ろされた本格的なミッションに興奮した。
「御意……です!」
力のこもった声で強く応えたブラックラビットは、次の瞬間、その場から風のように消えていた……
……………
………
…
◇カフェ
「ハルちゃん、よく来てくれたね」
ケンさんはそう言って少し微笑み、手元のカップを持ち上げた。
「それで、話って何ですか?」
突然呼び出されただけで何の説明もされていなかった私は、一体何の話だろう……と期待と不安が混じり合った表情でケンさんが言葉を発するのを待った。
「実は、大変な情報が入ってきたんだよ……危険能力者たちが組織を組んでいるという話だ」
そう言うと、ケンさんは一度深いため息を吐いてから、約10分に及ぶ入手情報を話し始めた。要約すると、『敵は組織を組んでいて、組員は日本中に50人はいる』『しかし、全員が能力者ではなく、能力者であるのはボスと幹部だけ』『そして、幹部たちもついに本格的に動き始めた』ということだった。
それら全てを話し終わったケンさんは、冷めたコーヒーを一気に飲み干すと、ホッとため息を吐いた。
そして、私はずっと聞きたかった先日の事件、そして幹部に関する情報を尋ねた。
「…先日のは、今までのなかでも特に酷かった。無差別に街中の人を襲ったんだ。やったことはつまらないことかもしれないが、やられた側が負った心の傷は深いよ。
前までは、公園にたむろする不良にいがぐりを投げつけたり…子供達のヒーロー的存在だったのに……一体どうしてあんなことを……」
そう言うケンさんの表情はとても哀しそうで、大切なものを失ったかのような切ない目をしていた。
……………
………
…
(どうしよう…まだ、あのハルって子に聞きたいことたくさんあるのに……ボスに見つかっちゃった……
これからは夜にハルの部屋にテレポートしよう。そうすれば、誰にも見つからないし、ハルと2人きりでゆっくり話せる)
「ふう……」
ブラックラビットは、1人カフェで午後の時間を過ごしていた。あいにく彼女に友達と呼べるようなものはいない。故に、フレンドリーに話してくれたハルに惹かれていた。
もともと、ボスに命令された『敵組織の精神破壊』の計画を練るために、静かなカフェに来たのだが、彼女の頭はハルでいっぱいだった。
(あーいけないっ!ハルのことばかり考えてるっ!ちゃんと計画練らないと……
えーと、ケンって人は体格がいいのに極度の虫嫌い…か。入浴中に虫を降らせたらいけそうだなぁ。ハルは…何が苦手で嫌いなんだろう……?もう少し調べないと……)
そう思うや否や、ブラックラビットは席を立ち、お会計に向かった。本格的にハルを調査するつもりなのだ。しかし、店を出たところで聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ブラックラビット……ボスからの伝令よ。『"ハル"は精神破壊せずに生け捕りにせよ』……ちゃんと伝えたからね、じゃあ」
それだけ言うと、黒スーツの女は人混みの中へ消えていった。
彼女は、ブラックラビットと同じ組織の幹部、"ブラックキャット"。あまり会話を好まないようで、用件だけ言うといつもすぐに去ってしまう。
そんなだから、ブラックラビットは彼女の素性をあまり知らなかった。わかっているのは、OLだということと、美人だということだけ。
「ハルだけ生け捕りか……まあ、あの能力は魅力的だよね…」
ポツリと呟いたブラックラビットは、そのまま路地裏に行くと颯爽とハルの家付近にテレポートした。彼女は、一度行った場所でないと、テレポートできないのだ。そこで、彼女は考えた。
(ハルのお母さんに、友達だって言えば、家に上げてもらえるんじゃないのかな)
そして、ブラックラビットは早速それを実践した。
ピーンポーン
はーいと言って慌ただしく扉を開ける女性…おそらくハルの母親だろう。何かを作っていたのか、エプロンをつけて頭に三角頭巾をかぶっている。
「あ、あのっ!ハルの友達なんですが……」
「あら、あの子は今出かけてるわよ。もうすぐ帰るはずだけど、よかったら中で待ってる?」
「っはい!」
上手くいった、と喜ぶブラックラビットは満面の笑みで返事をした。
玄関で靴を脱ぎ、ハルの部屋に案内される。どうやら二階にあるようだ。階段を上って行く。
実は、ブラックラビットは心臓が止まってしまいそうなほどに緊張していた。他人の家に入るのは初めてだったのだ。しかも、友達という名目で部屋に入る。
彼女にとって、それは夢のようなシチュエーションだった。
「ここで待っててね」
そう言ってハルの部屋に通されたブラックラビットはいろんな意味で驚いた。
まず、屋根がない。否、正確には布切れを被せてあるのだが、それはほとんどないのと一緒だった。そして次に、ぬいぐるみの数が異常に多い。飾ってある、というレベルではなく、足の踏み場もないほどに床に綺麗に並べられている。
ここに来て、ブラックラビットは急に怖気づいた。"こいつはヤバイんじゃないか?"、"私は見てはいけないものを見てしまったんじゃないのか"と。
しかし、来てしまったものは仕方ない。ブラックラビットは、ぬいぐるみを踏まないように慎重に歩を進め、唯一この部屋にある家具であるベッドまで辿り着いた。気を遣いつつも、ベッドに腰掛けたブラックラビットは、いろいろあって疲れたからか、"少しだけ……"と思い、ベッドに横になった。
(ハルの匂いがする……)
枕から香るその匂いに安心感を覚えたのか、ブラックラビットは次第に瞼を重くしていった。




