翌日
夏休みが明けた。そうして私は宿題をしていなかったことを先生に怒られた。みんなが宿題を提出する時間、自分だけずっと席に座っているのはトンデモなく恥ずかしい。そんなときでも能天気に話しかけてくるのは親友のかすみだ。
「まさか宿題をまったくやっていないとはね〜、ハルもついにワルになっちまったか…」
癖っ毛をピョンと跳ねさせて、私の机に乗り出すかすみに私は慌てて弁解する。
「ち、ちがうのよ!最終日あたりにやろうと思ってたんだけど、入院しちゃって…」
入院という単語を聞いたかすみは驚いたように声をあげた。普段から風邪一つひかない私が入院したというのは大事件なのだ。
「入院って……どうしたのよ?」
心配そうに声を落として言うかすみに私は真実を話そうかどうか迷った。隕石と融合しちゃったなんて話信じないだろうし、さらに特殊能力も手に入れちゃったなんて話、絶対冗談だと思われるに違いない。そう思った私は事実を多少曲げて伝えた。
「いや……ね、実は家燃えちゃってさ。火傷だよ火傷」
「家が……燃えた、だと!?」
目を丸くするかすみのリアクションを見て、さすがにもう少し抑えた表現のほうがよかったかな、と思った。
例えば……黒魔術してたらロウソクの火がカーテンに燃え移ったとか……かすみの性格からすると、そういう話のほうがすんなり受け入れてくれるのだ。
「まさか、黒魔術してたんじゃ……?」
一瞬脳内を読まれたのかと動揺する。
「……いやぁあはは、実はそうなのよ、火がカーテンに燃え移っちゃったのよね」
「なーんだ、やっぱりね!私もやったことあるからわかるよー」
「……そういえば、あんたの家も3年前に火事になったわよね?」
「あの時は大変だったんだよー?燃えたのは私の部屋だけだったんだけどね」
どうせ黒魔術でもやって燃やしたんでしょ。呆れ口調でそう言う私にかすみはよくわかったねと笑った。こうして私たちはいつものように他愛ない話をしながら学校の時間を過ごした。
……………
………
…
そして帰る時間になり、下駄箱で靴を履くかすみに、私は申し訳なさそうな表情で声をかけた。
「今日、用事があって一緒に帰れないのよ、ごめんね」
「わかった!じゃ、また明日!」
そう言って元気に駆け出すかすみ。能天気な彼女の背を見送り、私は家ではなく、少し遠くにある公園に向かった。
実は昨夜、例のドクターに貰った連絡先にかけたのだ。すると、さっそく明日会いたいということで今日の放課後に会うことになった。声を聞く限りでは、好印象な青年だったのだが、一体どんな人なのだろうか。
公園に最短ルートで行くには、実は抜け道がある。細い路地裏を通っていくのだ。いつもなら好んで通る道ではないのだが、今回は都合がいい。人通りの多い道を歩いている時に変身してしまったら私の人生が終わってしまうからだ。
薄暗い路地裏を通っていると、私の腹の虫がぐううぅと鳴いた。そういえば朝、時間がなくて朝食を食べられなかったんだ。
「はぁ……」
ため息を吐き、食べ物を恋しがるお腹に手を当てる。そして、私はあることに気づいてしまった。腕から靄が出ている……!反対の手からも、脚からも出ていた。これは昨日映像で見た変身の前触れだ。
と次の瞬間、全身が靄に覆われ少しの浮遊感を感じた後、私は映像で見たままの姿になっていた。
影のように黒い体に真っ赤な燃えるような目。夜道で見かけたならば、確実に悪霊の類だと思われるだろう。このままでは人通りのある公園に行くことはできない。
……そうだ!ここまで来てもらおう。公園はもう直ぐそばだし。
そう考えた私はすぐさま電話で事の顛末を告げた。すぐ来てくれるそうだ。
……………
………
…
「ハルちゃーん!どこだい!?」
しばらくすると、電話で聞いた青年の声と駆け音が近づいてきた。
「ここです」
そう言って私はヌッとゴミ箱の影から顔をだした。
「うぉっ!……っと、君がハルちゃんかい?俺はケンだよ、よろしくね」
私が姿を現した瞬間、驚いたように身構えた青年、もといケンさんは、それが私だとわかるとまるで旧友と会ったかのように親しげに話しかけてきた。
「それにしてもそんな姿になるのか……それじゃあ外には出られないよな」
まじまじと私の影のような姿を見つめた後、哀れむようにケンさんは言った。しかし、私はこの姿の事自体はそんなに嫌悪してはいなかった。ただ、変身する瞬間を見られるのが嫌なだけだ。悪霊に変身する少女なんて噂されたら私の人生が終わってしまう。
「それじゃあ、俺が知ってる限りのことを話すよ。ちょっと長くなるけど……」
そういうとケンさんは、能力についての基本から、自身の推測まで、多くを語った。
要約すると、能力発動の引き鉄は隕石に刺激を与えること。
同じように能力を持った人たちが情報交換するコミュニティーがあること。
ケンさん自身は爆破能力を持っていること、などなど。
特に私が驚いた話は、こう言った能力を得た者は、世界規模でみれば数百人はいるらしい、ということだった。さすがにそんな数の人間に隕石が直撃するなんて、確率的にありえない、と私が言うと、ケンさんは真面目な表情で自身の憶測を語ってくれた。
隕石が人に当たるのではなく、その人自身に隕石を磁石のように引き寄せる性質があるのではないか、ということだった。確かにそう言われるとそう思えてくる。
そして最後にケンさんは、私に紙きれを渡して去っていった。その頃には私の変身も解けており、無事帰路につくことができた。
どうやらその紙きれはコミュニティーとやらの主催者の連絡先らしい。……最近はよく連絡先を渡されるなぁ。そう思いながら無事帰宅した私は、腹ペコの胃にたくさんお菓子を与えてやった。
その後、晩御飯が食べられなくてお母さんに怒られるのはまた別の話。




