平和が一番
ある朝、目覚めるとそこは病室だった。
白い天井が見える。腕には針が刺されている、点滴か…
一体どうしてこんなところにいるんだろう。
(……ああ、そういえば火事の家から女性を助け出したんだった。あの人は助かったのだろうか)
そんなことを思い出していると、ふいにドアが開いた。
「………ジェミナ、あんたやっと目覚めたのね」
目に涙を溜めるハルがそこにいた。あのハルがここまで感情を露わにするなんて……
そんなハルを見ていると、ふと思い出すことがあった。
「ハル……あの日、どこへ行ったの?」
私の質問に、ハルは目を拭いながら答える。
「あの日かかってきた電話でケンさんから、サマーレインのボスの家が特定できたと言われたの。さっそくその場所を聞くと、そこはあろうことかかすみの家だった」
「かすみって、あの一緒に帰路に着いてた子ですか?」
ハルはこくりと頷くと、ベッドの横にある椅子にかけて話を続けた。
「何かの間違いだと思って、すぐかすみの家に向かったわ。でも、様子がおかしかった。たくさん人が集まってたのよ。人混みをかきわけて見ると、かすみの家は火が上がっていた……」
「…………………」
「そのあとはわからない。……実は私も数日前までこの病院にお世話になってたのよ。ショックで気絶しちゃったみたいでね」
そう言ってぺろっと舌をだすハルを見て、私は思った。
(初めにあった頃と比べて、ずいぶん表情豊かになったなぁ……)
確かにハルは周囲が気づくほどに変わっていた。これも体内に入り込んだ隕石の影響だとでもいうのだろうか。そんなことを考えていると、ガラッと扉が開き、今度は白衣を着たドクターが病室に入ってきた。
「話し声がすると思ったら、目覚めていたんだね」
ニコニコ微笑みながら、近づいてくるドクターはハルの横に座ると、カルテを見ながら話し始めた。
「君はあの火事の中に飛び込んで女性を助け出した。そこまでは憶えているね?」
はい、と頷くとドクターは続けた。
「その女性のほうだが、精神的なショックでまだ寝込んでいるが、君よりは軽症だったよ……しかし、君は酷かった」
そう言いながらドクターは、私に鏡を差し出した。受け取って、自身の顔を映すと、そこには包帯でぐるぐる巻きにされた私の頭が映っていた。
「全身酷い火傷だった。だが、君が身を決したおかげで、1人の人間の命が救われたんだよ」
そう優しく微笑むドクターに、私はずっと気がかりだったことを尋ねた。
「……あの家の火災で、他に怪我人は出なかったんですか?」
「ああ、父親は仕事で家にいなかったし、娘はすぐに逃げたそうだ」
ボスも無事だったんだ……それを聞いて胸を撫で下ろした私は、ホッとため息を吐くと、目線をハルのほうへ向けた。すると、ハルは私を見て何かを思い出したのか、ポケットから封筒を取り出すと私に渡した。
「かすみから。ジェミナに手紙だってさ」
受け取った私はさっそくその場で開封した。
『ブラックラビットへ
火事からママを助けてくれてありがとう。あの後、パパにすごく怒られて反省したよ。
あたし、何だかおかしかったみたい。世界統一とか、黒魔術とか、気が狂ってたんだと思う。それに付き合ってくれたブラックラビットには、本当にありがとうと、ごめんなさいだよ。
少しの間だったけど楽しかったよ。突然あたしの部屋の引き出しから飛び出してきたときは驚いたけど、きっとブラックラビットは私を変える為に現れた天の使いだったんだね。
ブラックラビットが目覚めたらまた会いに行くよ。それじゃあね。
かすみ』
「ボス………」
気がつくと、頰に涙がつたっていた。
初めて嬉しい涙を流した。
ドクターをちらっと見ると、もらい泣きしたのか、眼鏡を上げて涙を拭っている。横のハルも、涙目で私を見つめて鼻をすすっていた。
朗らかな朝の日のことだった。
……………
………
…
その後、包帯が取れた私は、無事退院を果たした。入院中に、ボスもお見舞いに何度か来てくれたが、今回は外で会う約束をした。例のカフェだ。
◇カフェ
「すみませーん!ボス!遅れました」
「もー、その呼び方もう止めてよね」
笑いながらそう言うボスはいつも通り元気そうだった。そんなボスを横目に、私は席に着いてルイボスティーを注文する。
「…あの、ずっと気になってたんですが、ブラックキャットって結局何者だったんですか?」
「あー、言ってなかったっけ?私の叔母さんだよ」
「ええええええ!?そんな親戚の関係だったんですか……」
「…今では、サマーレインのボスになっていろいろやってるらしいけどね」
意外に自分が狭い世界で生きていたことに気づき、驚く。まさか、ボスの親戚や知り合いで幹部が固められていたとは思いもしなかった。
「ところで、ブラックラビットはこれからどうするの?」
「これからですか……とりあえず隕石についてもっと調べたいですね!」
「あはは、まったく研究熱心だなぁ〜」
隕石について調べるのには好奇心もあったが、何よりも私が元の世界へ戻る為に必要不可欠だったからだ。
そう、私はこの世界の人間ではない。このテレポートの能力も、隕石の効果によるものではなく、生まれもっての才能なのだ。しかし、そのおかげで違う世界に来てしまったのだが……
「……そういえば、隕石といえば、ボスの能力って何なんですか?見たことがないのですが」
私がそう問いかけると、ボスは驚いたような顔で言った。
「ええっ!…普通にブラックラビットの前でも使ってたよ、気づかなかった?」
「ええっ!?全然気付きませんでした。教えてくださいよ」
勿体ぶるようにニヤニヤしながらボスは、後で見せてあげる、とだけ言うと、自分のオレンジジュースをゴクゴク飲み干した。
「ぷはぁっ!……やっぱオレンジジュースだね!これが一番良い」
「えー、ルイボスティーのほうが絶対美味しいですって」
「何だとー!オレンジジュースはねぇーこの酸味が……」
……………
………
…
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
帰り道、白熱したドリンク争いも集結し、私たちは黙って空を見上げながら歩いた。
「………あ、そういえば、能力を見せてくれるという約束だったではないですか」
「あー……そうだったね、いま見せるよ」
そう言うと、ボスは胸に手を当てて空を仰いだ。
一体何が起こるのだろうか。ワクワクしながら待っていると、突然辺りが暗くなり始めた。空を見上げると、なんとさっきまでなかった雨雲が上空に集まっている。
……なるほど、ボスの能力がわかった。
ざあざあ降ってくる雨に打たれながら私たちは再び歩き出した。
「……天候変化ですか。便利な能力ですね」
「まあ、雨が好きな私にとってはお気に入りの能力だよ」
「……………そろそろ止めてもらえません?」
痛いほど土砂降りに降ってきた雨に嫌気がさした私はそう言った。すると、ボスは再び胸に手を当てると、天を仰いだ。みるみるうちに飛散していく雨雲、そして雲間から覗く太陽。
しかし、何か変だ。妙に暑い。じりじり照りつけるような暑さだ。
「……暑すぎませんか」
「服乾かすのにはこのくらいがいいんだよ」
当たり前かのように話すボスだったが、私にとっては、服が乾くまえに身体中の水分が蒸発して、命が干からびるんじゃないかと思えてならなかった。
「…っ!……あれ、胸が痛い」
突然、立ち止まったかと思うと、ボスは胸を押さえて倒れこんでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?ボス!ボス!!」
(駄目だ。意識を失っている。あまりの暑さにやられたのだろうか。とにかく涼しいところへ避難させないと)
そう思い、ボスの体を持ち上げた時だった。
コロン
何かが落ちた音がした。
ふと見ると、なんとそれは赤黒い色をした石の欠片だった。
「……もしかして、これが隕石…?」
手にとって見てみると、その石はひんやりと冷たい。
何故隕石が体内から出てきたのだろうか……これは調べ甲斐がある。
……………
………
…




