オリオン一座
ぼくたちが特設ステージにつくと、ちょうどオリオン一座のダンスショーがはじまっていた。
トンボさんの大量のおみやげをみんなで背負ってあげながら、ぼくたちはまえの席でステージをながめた。
白鳥たちが舞いおどると、オリオンが魔法をかける(ようにぼくには見える)。
ステージと客席をなな色にかえて、白鳥の数もふえていく。色あざやかなドレスをまとった蝶たちが虹の空をとぶと、オリオンの歌声がながれ星に変わってステージを駆けぬけた。
ポップキャンディーみたいにはじけて消えて、こんどは鳥の翼がお菓子に変わる。
「ほぉぉ~、これはただただ感嘆するばかりですね!家内がいっしょだったなら、よりいっそう愛がふかまりましたのに。ああ、素晴らしい!」
トンボさんだけでなく、ほかのお客さんも大きな歓声をあげている。
ぼくはぽっかりと口をあけて見ていたけど、それはそれは美しかった。
「それでは、お客さまのなかから、わたしどもといっしょに踊っていただける方をご招待したいと思います」
オリオンさんがあたまにのせていた星の冠をはずすと、お客さんがいっせいに両手をあげた。
トンボさんもペガサスさんも、自分がおどりたいと羽をふりまわしている。
「みなさま、その幸運なお方はもうえらばれています。銀色の紙をおもちになった方、いらっしゃいましたらステージへどうぞ」
「えっ!?それってきみのことだよ、うさぎくん」
「これ、ただの紙きれじゃなかったんだ」
ポケットにいれていた紙をさがそうとしたとき、なんと銀の紙がポケットのなかできゅうくつそうにもがきだしたのだ。
ぼくが紙をつかむまえに、銀色の紙は勝手にういて、オリオンさんのところまで飛んでいった。
オリオンさんはぼくに、はじめからきみだと知っていた、というような不思議なえがおをむけた。
「そこのススキをかついだうさぎのお客さま。さあ、どうぞこちらへ」
「ああ、いいなあ。うらやましいなあうさぎくん。ほら、あがってあがって」
ペガサスさんに背中をおされて、ぼくはステージにあがった。
ぼくよりもずっと下で、みんなの顔がよく見える。
「この位置からだと、自分がえらくなったようにかんじるでしょう?そのとおり!いまのあなたは偉い。みなさんの夢のなかにあなたが入り込むのです。この快感はあなたにも、やみつきになりますよ」
オリオンさんはぼくに小さくささやいた。
ぼくのあたまに星の冠をのせて、ゆびをぱちんと鳴らすと、そこからたくさんの星たちがはじけて、ぼくにまとわりついたかとおもうと、なんとぼくのからだが浮きだしたのだ。
足のうらになんの感覚もない。ペガサスさんやトンボさんみたいに、羽はないけれど飛んでいる。
「うわあ!きみ、浮いてるようさぎくん!」
大きな歓声にまじって、ひときわ元気なペガサスさんの声がした。
からだが羽みたいにかるくて、空中でくるりと回転すると、ぼくのせかいが逆さまに変わった。
「わたしたちと踊りましょう。飛ぶってとてもすてきでしょう?どこまでもたかく飛べるのよ」
両手をとりながら、蝶さんたちがかたりかけてくる。
ぼくをかこむ鳥たちと、楽器をかなでる星座たちと。
永遠におわらない、ぼくはオリオンさんに夢をぬすまれた。
どうやってみんなのところにもどったのか、ぼーっとしてしまって覚えていない。
ずっとふわふわと宙にう浮いたまま、気がつけばステージを見あげていた。
オリオンさんはもうぼくを見ていなかった。
きっとまた、だれかの夢をぬすんでいる。
「ねえねえねえ!どんなかんじだったの!?」
「えっと、うまく言えないよ」
「言葉では表せませんわ。すばらしい体験は、ご自分だけのものですもの」
まったくその通りだと思ったけど、ペガサスさんはあきらめずに訊いてくる。
銀の紙は、ペガサスさんにゆずってあげればよかったなあ。




