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到着

「おいでませ~!ようこそ月へ!」

ラッパや太鼓の陽気な音楽といっしょに、キラキラに着飾った月のうさぎたちにかんげいされた。

バスケットをおりると、シルクハットをかぶった月のうさぎが、深々とおじぎをして出むかえる。

みんな派手な衣装をきて、歌ううさぎもいれば、踊るうさぎもいる。

「ようこそおいでくださいました。うさぎさま、トンボさま、ヒマワリさま、特別行動でいらっしゃったペガサスさまでございますね。本日はようこそお越しくださいました。空の旅はいかがでしたでしょうか」

「ええ、夢のようなひと時をすごせましたわ。お招きいただき、ありがとうございます」

優雅におじぎをしたヒマワリさんにつづいて、ぼくとトンボさんもお礼をいった。

ぼくのとなりで、コオロギさんが誇らしげにわらっている。

でも、コオロギさんが後ろの手でかくしている、汚れたテーブルクロスと袋につめた割れたグラスは、みてみぬふりをしてあげた。

「それはようございました。こちらは本日のプログラムと、パンフレットでございます。どうぞ心ゆくまでお楽しみください。きっとご満足いただけることと思います。では、わたくしはほかのお客さまをお出迎えにゆかねばなりませんので、これにて失礼いたします。のちほど、お会いいたしましょう」

満月のかたちにつくられたパンフレットと、プログラムを一人一人に手わたして、月のうさぎと合唱団は次のお客をお迎えすべく去っていった。

きっと今言ったのと同じ文句を、別の気球のお客にも言うのだろう。

はなれたところで気球がつぎつぎに到着しているので、とてもいそがしそうだ。

決められたせりふをえんえんと繰り返すのも、大人の仕事だとしっていた。

「さっそく回ってみましょうよ!帰ったら家内に月のようすを逐一ほうこくしなければ!」

トンボさんは疲労でしおれていた羽をばたつかせて、お店のほうに走っていった。

「わたくしは気球を移動して、イベントの仕事がありますので、ここでおわかれです。みなさま、短い時間でしたが、おつき合いいただきましてありがとうございました」

「コオロギさん、行っちゃうんですか?」

「わたくしたちといてくださればよろしいのに」

コオロギさんは仕事のえがおではなく、じぶんの持っている笑顔をみせてくれた。

「ほんとうに、あなたがたにお会いできてかんしゃとよろこびで胸がいっぱいです。ですが、もちつき大会の刻にまたご一緒させていただきますのでお別れではございません。それでは!」

コオロギさんは月の仕事にもどっていった。


ぼくはプログラムを開いて、なかをよんでみた。


スズムシ詠唱第十二曲の刻:月のうさぎ合唱団オープニングコンサート


スズムシ詠唱第十三曲の刻:本日の来賓ご挨拶、及びゲスト様スペシャルトーク


スズムシ詠唱第十五曲の刻:オリオン一座のダンスショー


スズムシ詠唱第十八曲の刻:本日のメインイベント、もちつき大会及び大抽選会


いずれも特設ステージ『ルナ』で開催


「これ、全部みるのかい?」

「もちろんぜんぶみたいけど、むこうの『大きくて小さな月の出店』にも行ってみたい」

どれをえらんでなにをあきらめるか、ぼくがうーんと悩んでいると、

「まあ、メインはもちつき大会だし、その前のダンスショーから見ればいいんじゃないかな。一通り回って、じかんが余ったらほかに行くのはどう?」

と、ペガサスさんが提案してくれた。

「それはよいわね。トンボさんとぼうやもそれでよろしかしら。みなさんといっしょに楽しみたいわ」

トンボさんをよびもどして、みんなで行こうといったら、トンボさんも賛成してくれた。

せっかく友だちになれたのに、はなれるなんていやだねと言ったら、みんなもうなずいてくれた。




予定がきまったぼくたちは、入場門へとむかった。

おおきなアーチをくぐると、あたまの上で天の川がきらきらとかがやいている。

たくさんの星があつまって、はじけたりとびまわったり、天井をみあげたまま美しさにみとれていると、「あの子たちはまだ名前もない星で、アルバイトにきているんだ」

と、夢のないことをペガサスさんがおしえてくれた。

月はたくさんの招待客でにぎわっていた。

でもきゅうくつに混みあってはいないので、ぼくたちは四人並んであるくことができた。

招待客のなかには、もうとっくに旅にでたと思っていた、ごてごてに着飾って光るほたるさんや、でっぷりと太ってはちきれそうなタキシードすがたのかめさんたちが、のっしのっしと道の真ん中をあるいていた。

「この中央通りをまっすぐに行ったところが特設ステージです。さて、どこから行きましょうか」

あんない地図を片手に、トンボさんはあちらこちらを見わたしている。

通りの先から、オープニングコンサートの演奏が聞こえてきた。

こうしちゃいられない。ぐずぐずしていたら、すぐに時間がすぎてしまう。

「やっぱり出店がさいしょだよね。はやく行こうよ!」

ペガサスさんが先頭をきって、ぼくたちは中央通りの右がわにならんでいるお店にむかうことにした。



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