またいつか
ペガサスさんは、家の庭でぼくをおろしてくれた。
「ありがとう。きみといっしょでとてもうれしかった。元気でね」
「こちらこそ、背中にのせてくれて、ありがとう。…さよなら」
こんどは泣かないように、服のすそをぎゅっとにぎってがまんした。
ペガサスさんは羽をひろげて、またゆっくりと浮かびあがり、とちゅうでおもいだしたようにふりむいた。
「そうだ、きみのもらった箱だけど、さっそくあけてみるといいよ。じゃあね、うさぎくん。ぼくはずーっと夜空にいるから、たまにはぼくのことを見あげてね!」
ペガサスさんはそう言って、星座にかえって行った。
ホーホー。フクロウさんが木の上でないていた。
ぽつんと立っていると、家のなかから、おとうさんとおかあさんが待ちわびたようにとびだしてきた。
「おかえりなさい!月はどうだった?ああ、訊きたいことが山ほどあるわ!」
「さあ、中にはいりなさい。つかれただろう」
おとうさんはおちついたフリをしていたけど、背中にしょったおみやげをみて、ぼくのまわりをうろうろとし出した。
「ただいま」
ぼくは家の中に入って、テーブルの上にリュックとおみやげをおいた。
かたむいたテーブルは、おとうさんがなおしてくれて、たいらになっていた。
「あら、それはなあに?」
「月で抽選会があってね、ペガサスさんが当たったんだけど、いらないって言うからぼくがもらったんだ」
「ほお、友だちができたのか!どんな方たちが気球にのっていたんだ?抽選会とは?」
「おとうさん、あとでぜんぶはなすから、おちついて」
ぼくは箱のリボンをといて、なかをあけた。
箱のなかは、ぼくが想像していた、どれでもなかった。
これはきみに必要だから。
「ひまわりの種だ」
白と黒のたてじまもようのついた小さなたねが、箱いっぱいに入っていた。
「そうか。ぼくの時間はまだ、おわっていなかったんだ」
「たくさんいただいたのね。お庭にうえましょうか。来年の夏は、たくさんのお花がさくわ」
「ぼく、まいにち、いっしょうけんめいお世話をするよ。またいっしょに月をみるんだ」
もういちど、ぼくは庭にでて空をみあげると、ペガサスさんはきちんと星座にもどっていた。
これで星めぐりをするひとも、道にまよった人もあんしんだ。
きみがいなくなると、みんながこまるんだから。
「そういえば、どうして逆さになっているのか、ききそびれちゃったな」
まあ、いいか。またいつか、会えた日にきけばいい。
ペガサスさんのことだから、気まぐれにポーズをかえて、みんなをおどろかせるかもしれない。
空にはあいかわらず、まんまるお月様がかがやいていた。
いつもは月の光にかくれてしまう星座たちも、今夜は負けないようにとかがやいている。
箱のなかのひまわりのたねが、ひとつぶだけなくなっていたことに、ぼくはもちろん気づくはずがなかった。




