見送り
ヒマワリさんは、やっぱりぼくをおいて、みんなに見守られて、いなくなってしまった。
秋の空にはもうあらわれることもなく、きえてしまった。
すこしだけはなれていたトンボさんとペガサスさんが、ぼくのそばにきて、そっとより添ってくれる。
「…あんまり泣いていると、ヒマワリさんもかなしいと思うよ。こういうのって、どこにいても、伝わるものなんだ」
「そのとおりですよ。さあ、なみだを拭いて。そろそろわたしたちもかえりましょう」
トンボさんもかなしいのに、ぼくみたいにわあわあと泣かなかった。
しおれていた透明な羽をばたつかせると、ばたばたと震えるけど、飛べそうにはかいふくしていない。
「ああ、やっぱりだめでしたか。気球においつくまでに力をつかい果たしましたからねえ。わたしもかっこよく飛んでかえりたかったのですが…」
トンボさんは、がくりと肩をおとしてしまった。
「トンボさん、ぼくの背中にのればいいですよ。ふたりくらい、よゆうです」
「いやいや、お気づかいは無用です。わたしはコオロギどのと、気球にのることにいたします。おお、そうだ、ペガサスどの」
トンボさんはちょいちょいと手まねきをして、ペガサスさんにぼそぼそと言った。
ペガサスさんはうんうんとうなずいて、ぼくのところにもどってきた。
「それでは、うさぎどの、ペガサスどの、ごきげんよう。またお会いできる日をたのしみにしております」
ぼくたちは気球のりばまで行って、コオロギさんにお別れとお礼を言って気球を見おくった。
なみだぐんで、ハンカチで顔をおおいながら気球を操作するコオロギさんと、いつまでも手をふりつづけるトンボさんが、だんだん小さく、見えなくなっていく。
「さっき、トンボさんはなんて言ってたの?」
ペガサスさんはううんと口ごもって、わざとらしく言った。
「ぼくの羽がとてもきれいなんだって」
ペガサスさんはうそをつくのが下手だとおもった。
ぼくは知らないふりをしようとおもったけど、声をだしてわらってしまった。
「えっ、どうしたのうさぎくん。ぼくの羽はそんなにおかしい?」
「ううん、ちがうよ。でも、ありがとう」
ペガサスさんは、どうしてお礼を言われるのかと、きょとんとしていた。
うそなんだ。
だってぼくは耳がいいから、ふたりの会話が聞こえてしまっていたんだ。
うさぎくんを元気づけてあげてください。くれぐれもおねがいしますよ。わたしたちはうさぎくんが大好きなのですから。
「じゃあぼくらもかえろうか。おそくなると、きみのご両親もしんぱいするよ」




