お別れ
太陽が、ついにいちばん上にのぼった。
どうして今日にかぎって、せっかちな太陽なんだろう。
「さて、お別れの時間だね」
いつの間にか、アサガオさんが立ち上がり、寝ころんであおむけになったぼくを見おろしていた。
太陽の光がまぶしくて、ぼくは目をほそめた。
アサガオさんの顔は太陽の影にかくれていたけれど、たしかに笑っていた。
とてもかわいくて、すごくやさしく。
「ありがとう。きみとすごした時間は忘れないよ。だからきみも、忘れてもいいけど、ときどきは思いだしてね。悲しんだりしたら、わたしもおなじだけ悲しくなる。わたしはいなくなるけれど、いつもきみとおなじ時間をすごしているからね」
ぼくが起きあがると、アサガオさんはどこにもいなくなっていた。
さいしょから、ぼくしかいなかったみたいに。
ほかの花たちも、鳥たちも、気をつかってくれたのか、だれもしゃべらなかった。
ぼくだけが、ひろい世界にとり残されたみたいだった。
はじめから分かっていた。でもたくさんの思い出をつくりたかった。
みんなそう。いつかおわりがくると知っていても、ぼくは自分の時間をたいせつにしてしまう。
どんなことも、おわらないことなんてない。
それを、大人のほうがよく知っているのだ。
ぼくは太陽が夕日の色にかわって眠りにつくまで、その場をうごかなかった。
そのうちに、おかあさんがむかえにきて、「こんなに遅くまであそんでいてはだめよ」と、しかられた。




