抽選会
「みなさま、月のおもちはご賞味いただけたでしょうか。それではこれより、プログラム最後の抽選会をおこないたいとおもいます。みなさま、胸元のバッチをごらんくださいませ」
もちつき大会がおわると、ステージの上にはたくさんの箱がのせてあった。
「わたくしどもがこれからバッチの色をお呼びいたしますので、その色のバッチをつけていらっしゃるかたはステージへそうぞ。なにが入っているかはお楽しみでございます。ですがきっと、お客様のお役にたつものが選ばれるでしょう」
「当たるといいね、ペガサスさん!」
「うーん、ぼくはおなかいっぱいだから、あまりうごきたくないよ」
お酒をのんだあとのおとうさんみたいだ。
「じゃあ飛んでいけばいいよ。呼ばれるようにお願いしなきゃ」
ペガサスさんをゆすっているうちに、月のうさぎさんはマイクをもって、つぎつぎとバッチの色を呼んでいった。
「黄色のバッチのお客さま、こちらへ。むらさき色のバッチのお客さま、緑色のバッチのお客さま」
「トンボさん、よばれたよ!」
「おお、なんと幸運なことでしょう」
トンボさんは大急ぎで走っていって、いちばん小さい、木いちごがひとつだけ入りそうな箱をもらってきた。
ぼくはさいごまでバッチをにぎりしめていたけど、ぼくの色が呼ばれることはなかった。
「純白のバッチのお客さま、あなたが最後です」
「ペガサスさん、よかったね!」
だけどペガサスさんは、自分のバッチをとってぼくにわたした。
「きみにあげるよ。ぼくはいらないから」
「なにいってるの、もったいないよ。せっかく呼ばれたんだから、もらってきなよ」
「いいからいいから。あの箱はぼくよりもきみのほうが必要だから」
まるで中身を知っているような口ぶりで、ペガサスさんはぼくにあげると言ってきかなかった。
ぼくは申しわけないと思いながら、ペガサスさんの代わりに箱をとりに行った。
さいごの箱にはうすい海色のリボンがかけられていた。
それほど重くはなくて、よこにゆらすと、さあーっと波のような音がした。
いったいなにが入っているのかな。
「本日のプログラムはこれにて閉会でございます。さいごまでおつき合いをいただきまして、まことにありがとうございました。今日という日がみなさまの心にのこる最高の時であったなら、わたくしどもにとってこれほどの喜びはございません。それでは、いつかまた、お会いできる日を!」
司会のうさぎさんが深々とおじぎをすると、ステージの幕がゆっくりとおりた。
たくさんの拍手に見守られて、月のもちつき大会はすべておわってしまった。
あとにはまださわがしい頭と、熱気につつまれていた場所がさめていく、静かな時間だけがのこされた。
「あーあ。おわっちゃったね。でも楽しかった!」
「わたくし、一生の思い出ができましたわ」
「お帰りの準備はできておりますので、いつでもどうぞ」
気球のりばでまっていると言って、コオロギさんは会場をはなれて行った。
はたして両手いっぱいのトンボさんのおみやげは、バスケットに入りきるのだろうか。
もうこれで、みんなとはおわかれになるのかな。
「ねえ、うさぎくん。ぼくはこのまま星にかえるけど、もうすこしきみといっしょにいたいから、ぼくの背中にのっていかないか?家までおくるよ」
「ほんとうにいいの?これって夢じゃないよね?もちろんおねがいするよ!」
「それはよかった。でもすごーく高いよ?こわくないの?」
ペガサスさんはいたずらする子どもみたいに笑った。
「ぜんぜん。ぜーんぜんこわくないよ」
強がったわけじゃない。
バスケットで足がふるえていたぼくは、もうどこかに行ってしまった。
「ヒマワリさんもさそっていい?そうしたら、バスケットがひろくなるからトンボさんの荷物もつめるよね」
でも、ペガサスさんはちょっとこまった顔をして、だめ、とも、いい、とも言わなかった。
ヒマワリさんはドレスのすそをつまんで、
「ぼうや、ごめんなさいね。ここでお別れだわ」
と、言った。
ぼくは、目のまえが真っ暗になって、うまく返事ができなかった。
「どうしてですか。まだ家についていません。まだおわってないですよ」
と、おわっているのに、おわっていないと変なことを言った。
「寿命がきてしまいましたの。今日まで生きてこられたことが、とても不思議なくらいですわ。きっとすてきな友だちと、すてきな時間を過ごすことを、神様がとくべつにくださったんだわ。これほど素晴らしい人生は、ほかにはありません。わたくしはとても幸せでした」
ヒマワリさんは、ぼくがいままで見てきたなかで、いちばんきれいな笑顔をむけた。
なみだが、大雨がふるみたいに後から後からながれてきた。
「ぼうや、なかないで。こちらにきてちょうだい。わたくし、もう足がうごかないんですのよ」




