どうしようもない仲間達
冒険者=死
この方程式は長年この世界では常識となっていた
冒険者とは攻め
わざわざ人のいない所へ行って自分や仲間の力だけで全てを解決しなければならないのだ。
相対して騎士団とは守り
城壁を作り、狭い空間を大人数で対処する 助けも入るしヒーラーもいる
その結果冒険者になろうとする若者は年々減っていたが近年その常識を覆す発明がなされた
ギルドカード
冒険者ギルドが発明した画期的な魔法のカードである
このカード越しに自分や相手をみると身体能力を数値化し自身のランクをレベルとして表示するシステムである
これは魔物にも有効で今まで相手の力量を測れなかった初心者~中級者が無謀な戦闘を回避することができるようになったおかけで戦死者が激減したのだ
この開発を機に騎士団から冒険者に変わる者も多くおり今世界は冒険者の新時代が訪れていた
この物語はそんな新時代の冒険者の波乱万丈を描いた・・・はずの物語である
俺の名前はシュン・シュナイダー。
職業は聖剣士だ。
自慢じゃ無いけどLV94。この大陸バークレイドでは5本の指に入るって程の強さを持っている。
これぐらいともなれば当然この国の王様とも面会したことはあるし、自分が住んでいるこのシルバーウッドの町の町長だって黙っていても向こうから挨拶に来るぐらいの存在だ。
つまり結構偉い。
顔は普通ってよく言われるけど。
結構偉い。重要だから2回言っとく。
そんな俺が今何をしてるかっていうと…
レベル3のスライムとかなりガチで戦ってたりします。
「このっ、やろー」
片手の剣を袈裟に振ってスライムを斜めから打ち抜く。
踏み込みが浅いから両断とはいかなかったが、それなりには効いたらしい。
軟らかい体を苦しそうにくねくねともがいた後、その姿はスゥーと消えた。
「ふぅ、やっと倒せた」
額の汗を左腕で拭きながらギルドカードを見る
あっ、ギルドカードっていうのは俺たち冒険者に配給されている身体能力を数値化して見れるカード型の魔法具のことね。
体力や魔力、LVアップまでの経験値をカードを通して視覚化できる優れものだ。
これがないと初心者や慣れてきた中級者が物凄く強い魔物が出るところに行くから、無かった当時は冒険者=死ぬって構図が一般的だったんだ。
俺はもちろんこれを作った人とも会っているんだけどね。
まあいいや、どれどれ・・・
「やった、LVアップしてる!」
そこに書かれているLVは3。
こいつを倒す前は2だったから素直に嬉しい。
「シュンちゃーーーん!」
げっ、来やがった。
「シュンちゃん凄ーい、よく倒したわねー、えらいえらい」
着くやいなや俺の体を抱きしめながら頭をいい子いい子してくる女。
体全体を黒いローブに包み込んでいるにもかかわらず、はっきりと女性だと主張する豊満な胸を俺に押し付けながら喜んでいた。
外套付きのローブを頭から被っているため表情は読み取れないが、声のトーンから満面の笑みだということが一発でわかる。
こいつが犬だったら間違い無く尻尾がちぎれるほど振っているに違いない。
「はなせやー!」
じたばたともがくが全然振りほどけない、ローブ姿と言ってピンときた人もいるとは思うがこいつは魔法使いだ。
剣士の俺が、いや男としてもローブ姿の女の拘束を外せないのは屈辱以外何ものでもない。
きつく締めているにもかかわらず女性特有の柔らかさで痛みは無いのだけどな。
「だあああああああああ、本当に離せえええええええ」
「ええー、もうちょっとー」
「離さんかったら夜にアレをしてやらん!」
そう言うと女はぱっと手を離す。
あまりにも急にはなされた俺は頭から地面に落ちることになった。
ゴスッ!
一瞬目の前が真っ暗になったが何とか体勢を立て直して起き上がる。
ふう、やっと開放された。
打った頭をさすりながら女へと目を移して
「お前なあ、何度も言ってるが抱きついてくるな」
「ええー、これでもかなり我慢しているつもりなのになぁ」
女はぶぅと口を尖らせて怒った振りをする。
こいつの名はルビー。
前にも言った通り魔法使いなんだけど、普通の魔法使いとは一味違う。
何が違うって?
それはギルドカードを見るとわかる。
あっ、言い忘れてたけどギルドカードは自分のステータスだけじゃ無く、他人や魔物にも使える。
LV3のスライムってわかったのもこいつのおかげって訳。
ま、説明が長くなったけど改めてこいつを見ると・・・
LV95、体力355、魔力878、力30、魔96、体35、素早さ61、運54
強ええよ、ありえねーよ、イカサマだろ。
因みに俺は・・・
LV3、体力27、魔力0、力10、魔0、体8、素早さ6、運9
うん、弱い。
そりゃこいつのホールドも外せない訳だ。
いや、そんなことより大事なことがあったわ。
こいつの使う魔法には他の魔法使いが使えない特別な呪文があるんだ。
その名もレベルドレイン。
うん。何となく分かるよね。俺の言いたいこと。
そう。
俺のLVが下がったのはこいつの使うレベルドレインのせいってわけだ。
「で、俺が頑張ってスライム退治してたっつーのにお前はどこにいたんだよ」
「ん?もちろん遠くからみてたよ?えらい?」
手伝えやーーーーーー!!!!!
心の底から湧き出る言葉をぐっと堪えて無理やり飲み込む。
それもこれも今までの経験上こいつにツッコムとLVを下げられるからだ。
「いや、ほら、仲間と協力して魔物を倒すって当然じゃない?」
「もう、駄目だよ、人の力を借りて楽をするなんて」
人のLV下げといて何いっとんじゃこのアマーーーー!
お前が強いのも俺の経験値を楽して手に入れたからだろーーー!
はあはあ、心でツッコムのがこんなにもストレスになるとは、いらん知識が増えたわ。
「はい、これ」
そう言ってローブのポケットから傷薬を渡してくれた。
傷薬って名前だけど見た目は小さな栄養ドリンク。液体にヒールの呪文が入ってるただの水だったりする。
蓋を開けて飲むと一気に擦り傷、打撲が治っていく。
うーん、癒されるなー。
「さんきゅー」
ルビーに礼を言って飲み干したビンを自分のバックにしまって回りを見渡す。
体力も回復したし、LVも上がったし、もう少し経験値を稼いでもいいと思ったからだ。
目を凝らすと300メーター離れたところにスライムを見つけた。
さっそくギルドカードを通してLVの確認をする。
「おっ、あのスライムLV5だ。あれを倒せればもしかしてもう1レベル上がるかも」
「ほんと?じゃあまたここで見てるね」
だから手伝えやーーーーーー!
心の突っ込みを済ませたところで剣を構えて近づいていく。
10歩ほど進んだところで後ろからルビーの声が聞こえてきた。
「シュンちゃーん」
「ん?なんだ?」
「あのねー」
「うん」
「すぐ近くにねー」
「うん」
「魔物がいるよー」
「ん?」
ルビーの最後の言葉が聞こえたと同時に下の地面から影の剣士が剣を向けながらあらわれた。
俺の胸を突こうとしたその一撃を間一髪でかわして転がるように相手との距離をとる。
こいつはスケルトンに黒いマントをつけたような容姿でアンデットに属しているだが物理は普通に効く。
弱点はもちろん炎なんだがうちの魔術師がアレなんで一人でやるしかないよな。はぁ。
ととっ、愚痴ってる場合じゃないな。
俺はズボンのポケットに入れていたギルドカードを通して慌ててそいつを見ると。
LV7
いや、これはやべーって。
戦うより逃げなきゃ命が危ない。
「シュンちゃん頑張れー」
あのアホはこの状況でものんきな声を出してやがる。
「いや、無理だろ!頑張るどころか殺されるわ!つーかもっと早く言えやー!」
「あー、そういうこと言うんだー」
「え?あっ、しまっ」
慌てて口を押さえるがもう遅い。
頭じゃわかっていてもついつい言ってしまうことってあるよね。
特にこういう命に関わる時は。ね。ね。
「シュウちゃん、めっ!」
ルビーの体が白く輝く。風は無いがルビーの魔力に呼応するかのように大地からの圧力をうけてローブがバサバサと揺れる。その衝撃で頭まで覆っていた外套が外れた。
ショートカットの幼さを残したお姉さんが怒気をはらんだ黒目で睨み付け、こちらに手の平を向けた。
「わ、悪かった!だから今は!今はやめて!」
「せっかく教えてあげたのにそんなこと言う悪い子には罰だよ」
こっちはレベル差がありすぎて魔物の攻撃をかわすので精一杯だってのに味方のはずのルビーにまで狙われてたまるもんか!
しかもあれは・・・
「レベルドレイン!」
「やっぱりかー!!!」
まあ俺はあいつがレベルドレイン以外の魔法を使っているのをみたことが無い。
それにしてもただでさえこっちのレベルが低くて一撃で死ぬかもしれないってのにまだ下げようとするのかあの悪魔は。
どうせなら敵にやってくれよ。
ルビーの手に集まった魔力の光は一直線に俺に向かってくる。
そこに俺を攻撃しようとした影の剣士が俺とルビーの直線上に割り込むように攻撃してきて・・・なんと偶然にも影の剣士にルビーの放った光が当たった。
光に包まれた影の剣士。光はやがて中央に収束していき拳ぐらいの大きさになると引っ張られるようにルビーの元へと戻っていった。
衝撃を受けた影の剣士は何が起こったか理解できずにその場で固まっている。
その隙を見逃さず俺は影の剣士に一太刀あびせ、距離をとる。
すかさずギルドカードで敵を見ると
LV3
よっしゃー!下がってる!これで何とかなりそうだ!。
いつもいつもあいつはこの技を俺にだけ使いやがるから、敵のレベルが下がるなんてケース今回初めてだ。
なるほどなー、こういう使い方もあるのか。
いやいや、むしろこれが正しい使い方なんじゃね?
もしかしたらあいつ最初からコレを狙ってたとか?
俺とルビーの間にコイツが入るのを予測していたとか?
まあ、どっちにしろ今がチャンスだ。
すぐに俺は剣を持つ手に力を入れ、動きの鈍った影の剣士に一回、二回と剣を当てる。
影の剣士もすかさず反撃を繰り出すが、先ほどとはまるで別人と思えるほど斬撃が軽い。
剣で受け止め、強めの一撃を胴になぎ払う。
「グゥゥゥゥゥゥゥゥ」
かなり効いたみたいで苦しそうに呻く。
「よし、これならいける!」
軽快に相手にダメージを与えたところでこの状況を作ってくれたルビーへと顔を向ける。
お前のおかげで助かったぜ、と笑顔で伝えようとしたところで異変に気づいた。
遠くでルビーの苦しそうな姿が目に入ってきたからだ。
「うう・・・」
胸に両手を押さえて苦しそうに顔を歪めている。
「お、おい大丈夫か?」
俺はルビーに声をかけると同時に走っていく。
幸いにも影の剣士は度重なる剣戟でその場から動けないでいた。
全速力でルビーの元へ急ぎ、細い肩に手をかけて声をかける。
「おい!、ルビー!、どうした!」
「うー、気持ち悪いー」
相変わらず声はのんびりしているが相反するように顔色は悪い。
「気持ち悪いのか?、確か俺が薬を持ってたはず・・・今くすりを出してやるからな」
戦闘中だというのに剣を捨て、背負っていたバックを急いで取り出すと中から薬を探し出す。
正直今は敵のことなんてどうでもよかった。
目の前の人が苦しんでいる。それを助けたい。
その気持ちしか俺には無かった。
この思いこそが俺がLV94までいった理由であり、初心でもあるからだ。
ごそごそとバックの中身を漁りアレでもないコレでもないとしていた瞬間、再びルビーの体が白く輝きだし、小さな光として影の剣士へと向けて飛んで行く。
もう少しで剣の先が届くところまで来ていた影の剣士は本日二度目の光を受けて再び動きを止める。
ん?あれってレベルドレインの光に似てるような・・・
気がつくと結構近くまで迫っていた影の剣士に拾い上げた剣ですかさず横一線に薙いだ。
ガキーン!
硬っっっ!
さっきと全然手ごたえが違うぞ!
なんとなーく嫌な予感を感じた俺はギルドカードを覗いてみた。
LV8
出会った時よりより高くなってんじゃねーか!
つかどーいうことだよ!
元凶とおぼしきルビーへと振り向くと物凄くすっきりした笑顔を浮かべていた。
「良かった、よくなったのか」
とりあえず安堵する。
ルビーの症状が良くなったからとりあえずはいいが、戦闘状況はさっきよりひどくなっている。
いや、こいつの今ののほほんとした顔をみると心配した分だけ腹ただしい。
本気で心配したんだぞ!
自分を抑えて精一杯冷静に聞いてみる。
「で・・・どーいうことだよこの状況は?」
ルビーは申し訳なさそうに右手を後頭部に添えながら話し出す。
「いやー、本当はレベルドレインでシュンちゃんのLVを取るつもりだったんだけどあの子が割って入って来ちゃって・・・で、あの子のLVを偶然とっちゃったんだけど・・・すっっっっごいマズくて・・・ちょっと食あたりしちゃったみたい。でももう大丈夫!のしつけて返してあげたから」
ふんっと胸をはってドヤ顔をしている。
「アホかーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
今日一番の大声である。
そしてレベルの上がった影の剣士に勝てる訳も無くシュンの意識は無くなった。