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Dear SORCERY  作者: 長岡壱月
第四幕:願いの果て -Finem in volumus-
26/27

4-(5) それは余りにも

 まだ日が昇って程ない筈なのに、空が急に暗くなり始めた。

 朝の通勤・通学時間帯、人々は何事かとめいめいに天を仰いでいる。

 そんな時だ。突如赤黒い魔法陣が出現したかと思うと、そこから文字通りのゾンビ達が湧

いて出てきたのは。

「あの野郎……。滅茶苦茶しやがる」

 大急ぎでタワーを降りて来た正明達が見たのは、そんな使い魔らの出現に悲鳴を上げ、散

り散りに逃げ惑う街の人々。それでも狙いはこちらだったのだろう。一行がタワーの正面入

口から出てきたのを見て、彼らは低い唸り声を上げながらこちらへと近付いてくる。

「足止めする気だな」

「みたいね。さっき式神を飛ばしたから、相馬君の方角はおおよそ掴んでいるけど……」

「突破するぞ! この分だといつ魔力喰いを始めるかも分からねぇ!」

 正明ら巫監、そしてエリオットに率いられた清十字騎士団の面々が一斉にこのゾンビの群

れへと向かっていった。退魔刀を抜く、右腕を隆々とさせる、獅子の式神達を繰り出す──

その第一陣を務めたのは正明達だ。

「折れろ、砕けろ、死人しびとにゃ地べたがよく似合う!」

 言霊が炸裂した。

 瞬間、ゾンビ達の四肢は見えない力でぐしゃりと折れ、砕け、その場に崩れ倒れて満足に

動けなくなった。逃げ惑う人々らの為だ。先ずは彼らの身の安全を確保せねばならない。

「伴太、結界を張れ! 出来る限りでっかくだ!」

「ルーンを刻め! “人払い”と“忘却”を!」

 正明が、エリオットがそれぞれ仲間達に指示を飛ばしていた。

 伴太は鞄を開けて全方位にワイヤーを射出、ぺらりとその先に貼られた御札同士の力が結

び付き合い、この現場とそれ以外を隔て始める。

 騎士達は散開しながら逃げ惑う人々の方へ。魔力を込めた指先で宙にルーン──力ある文

様を描くと彼らをとろんとした瞳にさせ、現場から逃がしていく。

 武蔵がその巨腕で次々に数体まとめて殴り飛ばし、凛の式神達がゾンビを噛み千切る。

 戻ってきた伴太が小型拳銃な術具で霊弾を放ち始め、麻弥も哀しく眉を潜めながらも破魔

蔓の輝く矢をゾンビ達に一射、一体一体をその人皮ごと成仏させる。

不死者アンデッド、となれば……」

 そしてエリオットが小さく呪文を唱えていた。

 横に握ったメイスの矛先、その腹部分にサァッと掌を走らせると、そこには輝きながら刻まれ

たルーンの文字列が現れる。

「せいっ!」

 退魔刀を振るっていた正明、その背後から襲い掛かろうとしていたゾンビ数体を、彼のそ

の一撃が叩き伏せた。

 しかもそれだけではない。得物に刻まれたこのルーンの力が、攻撃を受けたゾンビ達を皆

一様に蒸発させ、そしてそのまま無に還していったのである。

「……やるな」

「そっちこそ。流石はサムライの国かい」

 だが敵の数が減っているようには見えなかった。倒せば倒すほど、減らせば減らすだけ、

また何処からともなくゾンビ達は現れる。じりじりっと、正明達はこの使い魔らに包囲され

てしまっていた。

「……キリが無いわね」

「だねぇ。まぁ、その内“残弾”は尽きるかもしれないが……」

「そ、そんなの相手の思う壺ですよ。早く彼を止めないと!」

「麻弥の言う通りだ。おい、瀬名川!」

 互いに背中を預けながら外向きの円陣を組み、これと向かい合う。

 しかし埒が明かない、時間が惜しいと判断したのか、正明は同じく水ゴーレムを操ってい

た晴に向かって叫ぶ。

「道を作る。先に行け! 相馬聖あのまほうつかいを一人にしちゃ拙いだろ!」

 爆ぜ飛べッ!! 言って正明は再び言霊を放ち、包囲してくるゾンビ達の一角を爆発させ

てみせた。試験管に一旦ゴーレムの核を戻し、晴は「すみません」と神妙な面持ちで会釈を

向けながら、その出来た隙を縫って駆け出す。

『隊長、今何処に……』

「さっきの電波塔からほぼ真西よ。ルートを指示するわ、急いで」

 一方でクラリッサは中空を跳び続けていた。だんっと降下し始める先の宙に魔法陣を出現

させ、トランポリンの要領で再び高く舞い上がるのを繰り返す。

 風の魔術、その応用で彼女は地上の部下達と連絡を取り合っていた。

 視覚や聴覚を始めとした、あらゆる己の感覚。

 それを彼女は、どんどん先へ飛んで行ってしまう聖を追い捉えることに集中させている。

(彼が向かっているのは……あのビルかしら? 半ば放置された感じね。隠れ家にするには

もってこいだわ)

 そうして必死に追い掛けている途中だった。ふと眼下を見ると、巫事監査局の面々と部下

達が足止めと思しきゾンビ達と戦っている。そこに爆ぜた数拍の間隙を縫い、あのハーフの

少年が駆け出していくのがみえた。

「セナガワ君」

 一瞬だけ空中で考え、クラリッサはぐんとその地上へと降りて行った。

 駆ける晴のすぐ先、その地面ぎりぎりに魔法陣をマット代わりに出現させ、降り立って彼

に話し掛ける。

「ソウマ君の所に行くんでしょ? 連れて行ってあげる」

「! 聖の向かった先、分かったんですか」

「ええ。多分あのビルだと思う。急いだ方がいいのよね?」

 晴は少しだけ警戒していたようだったが、すぐに頷き、近付いてきた。クラリッサも早速

彼を共に上空へ運ぼうとする。

「あ、あのっ! 私も連れて行ってください!」

「麻弥? 馬鹿言うな! お前は──」

「分かったわ。行ってらっしゃい。ここは私達に任せて」

 すると更に麻弥が、志願者が一人増えた。

 駆け出そうとする妹を正明はぎょっとなって止めようとしたが、その呼び掛け自体をさも

意図的であるかのように凛が遮り、送り出す。

「一応貴方達にも術は掛けるけど……ついて来てね? ちゃんと踏み場は出るから」

 軽く片手を振り、刹那二人の身体にふいっと細かな風が纏われた気がした。

 次いでクラリッサが手を取ってくる。そして次の瞬間、足元に先刻と同じ魔法陣を出現さ

せると、三人は一気に上空へと跳び上がった。

「ふ、あぁぁぁぁぁー!?」

「……なるほど。こういう原理か」

 数秒の空中浮遊とそれぞれの反応。やがて三者は重力に落とされ始め、そして再び現れた

魔法陣を蹴って舞い上がる。

 そうして暫く跳び続けていると、件の空きビルが見えてきた。

 みれば既にその屋上には人影──聖が到着しており、さっさと階段扉をぶち破って中に入

ろうとしている。

「聖!」「聖君!」

 慌てて追いつき、その背中に声を掛けた。彼はふいっと振り返ってくる。どうやら人格は

既に普段の聖──《羊》に替わり戻っていたようだ。少し驚いていたようだったが、その面

持ちは見覚えのある柔かさ、そして今という状況が故の神妙さを併せ持っている。

「……此処に、ボートンが?」

「ええ。この下の十四階です。フロア丸々が魔術領域の中心になっているみたいですね。奴

にも僕らの動きは勘付かれています。すぐにでも儀式を始めようとするでしょう」

「ッ!?」

「そんな……。急がなきゃ!」

 階下へ続く扉が半開きになったまま、聖は言った。

 もう敵の本拠地である。ここから下っていけば、すぐにでも奴と対面する事になる。

「……。御門さん」

「は、はいっ?」

「貴女は回復や補助の魔術が得意だと聞きました。そこで一つ、頼みがあるんですが──」


 昼間の太陽を、空を覆う暗がりは時間を追うごとに濃くなっていた。

 カツン……。準備を整えたデズモンドは遂に魔術を発動、その魔法陣がビル全体を奮わせ

るように発光し始める。

 闇空の下、潮ノ目の街、その中心部は彼の支配下に置かれた。その拠り立つビルを中心と

して、急速に巨大な魔法陣が街の全景の中に描かれていく。

「くっ──!」

「始まって、しまったか……!」

 異変は明らかだった。大地が揺れるような錯覚、ぐわんと身体中の感覚が霞む。

 みればバタバタと人々が倒れていくのが分かった。皆白目を剥き、あんぐりと口を開け、

道端に転がる。それは車を運転していた者達も例外ではなく、意識を失った運転手を乗せた

車体はあちこちで激突、機械のクラクション音だけが無様に辺りに響き渡っていく。

「ったく。こりゃあ、また罪を一つ重ねやがった……ねぇ……」

 それでも正明らやエリオット以下騎士達、対峙する魔術師の一団は昏倒せずにいた。

 身体から力が抜ける──魔力が無理やりに抜き取られていく感覚は否めないものの、顔を

顰めながらも辛うじてその場で両膝を押さえ、或いは片膝をつき、踏ん張っている。

「──はははははは! 素晴らしい! あの時よりもずっとずっと、大量の魔力だ!」

 そしてデズモンドは高らかに笑う。濁った瞳に狂喜を宿す。

 フロアの床に描かれた魔法陣、そこが終着点であるかのように抜き取られた魔力が次々と

集まっていた。

 室内の中空に凝縮されていくのは半気体半固体の塊。目に見えるほどの密度に達し、それ

でもなお集束を止めない大量の魔力だ。

 彼はそれらを大きく見上げる。両手を広げる。この儀式の成功を確信しようとしていた。

「いける……! これなら、今度こそ──」 

 だが、その喜びは程なくして打ち砕かれた。

 次の瞬間、この巨大な魔力目掛けて無数の黒い触手が伸び、これを瞬く間に“喰らって”

いったのだから。

 デズモンドの眼が、ぐらぐらと揺らいだ。広げていた両手が、力なく下がり始める。

「ふぃ~……。ごちそうさん」

 ハッと我に返り、その声のする方向を見た。

 物陰の向こう。そこに彼らは立っていた。

 聖──いや、《沼》が身体中から大量の黒いぬめりを溢れさせ、無数の触手と変えたそれ

らが鋭い牙を並べ持つ裂けた口と為って蠢いている。

 そんな彼のすぐ後ろに更に三人が並んでいた。金髪の欧米人風の少年、セミロングの黒髪

をした少女、そして……見覚えのある、清十字騎士団の法衣に身を包んだ女騎士。

 併せ技だった。 

 《沼》の闇──呑み込み喰らう能力ちからを、麻弥の補助魔術が更に強化したのだ。

「残念だったな。デズモンド・ボートン」

「観念なさい! この清十字騎士団所属、クラリッサ・ルイス・アンダーソンが貴方の身柄を確

保します!」

「もう……止めてください! こんな事したって、奥さんも子供さんも喜ぶ訳ない!」

「黙れッ!!」

 晴、クラリッサ、そして麻弥。それぞれの口上が飛ぶ。だがデズモンドは聞く耳を持たな

かった。狂喜は怒りに。叫び、方々の物陰から使い魔ゾンビ達が沸いて来る。

 四人はそんな中確かに目撃していた。

 彼の傍ら、ゾンビ達が集まってくる中で、彼の妻子だったと思われる赤子を抱いた女性の

ゾンビが虚ろに佇んでいるさまを。

「何故だ、何故邪魔をする!? 私は、私は……取り戻さなければならないんだ!」

「んなもん知るかよ。その為にどれだけ他人を巻き込んでる? ま、俺達がそういう話をす

る資格なんぞねぇんだろうけどよ……」

 切り捨てる。舌打ちをする。聖もとい《沼》はゆっくりと歩き出していた。

 一方で麻弥がクラリッサが、この妻子のゾンビを実際に目の当たりにし、深く顔を顰め、

或いはその口元に手を当てている。

「さぁ来いよ。お前も魔法使いなんだろう?」

 《沼》は、敢えてその左袖を捲ってみせていた。

 それは即ち自身の“呪刻”を曝すこと。魔法使いであることの証明。

「まさか、お前も……。くっ!」

 驚きは充分にあったようだ。だがデズモンドが口にするのは「何故」という呟き。

 彼は右手の人差し指を向けて、魔力を込め始めた。ガンドだ。

「えっ? 弾が膨らんで……」

「散弾式か!」

 ただそれは自身の偽者が放ったものとは違い、より強力なものだった。

 指先に集めた魔力の弾。するとそれはみるみる内に分裂し、結び付き、薄皮で包まれた巨

大なガンドへと変わっていく。

 晴が懐から試験管を取り出し、水ゴーレムを召喚した。雨霰と撃たれる筈のそれから麻弥

とクラリッサを守ろうとしたのだ。

 だが──その弾け、一斉に多方向から襲い掛かった魔力弾は全て“喰い尽されて”いた。

次の瞬間《沼》が押し広げたその闇に、この攻撃は全て呑まれてしまったのである。

「……温い!」

 そして、吐き出す。

 フッと余裕綽々に笑い、そしてくわっと怒鳴り、その闇からこのガンド全弾がデズモンド

に撃ち返されていた。

 すると彼は、咄嗟に妻子のゾンビを庇う為に飛び出す。両手をかざして魔力の障壁を作る

と、必死にこれを守ろうとした。

 他のゾンビ達が少なからず巻き添えを食らっていた。彼も身体にもあちこちに、防御の甲

斐なく、この撃ち返された魔力弾が掠めていった。

 ただでさえ草臥れた彼の服があっという間に破けていった。そして左腕──彼の呪刻も、

そんな被弾の中で露わになる。

「──ガッ!?」

 しかし《沼》は攻撃の手を休めなかった。

 最後まで庇い、ふらつくデズモンド。彼はその至近距離まで一気に詰め寄ると、闇を彼の

四肢に絡めさせて、強烈にもろとも壁に叩き付けたのである。

「弱ぇ……弱過ぎる。魂を引っ張り戻す以外は並以下かよ? 拍子抜けさせやがって……。

足りねぇぞ、こんなんじゃ足りねぇ! もっと俺達を戦わせろ!!」

「《沼》ッ!」

「……分かってるよ。りはしねぇ。さっき喰った魔力も連中に戻す。大体、俺達が勝った

っていう証拠も残らなくなっちまうしな」

 凶悪という意味では《沼》──達も負けてはいなかった。爛としたその好戦的な瞳に晴が

思わず戒めようとしたが、幸い引き際の類は弁えてあるらしい。

「気に入らねぇな。こんなのがお前の願った力かよ。くだらねぇ……本当にくだらねぇ」

『……』

 がっしりと首を掴まれて、デズモンドは動けなかった。加えて《沼》から溢れる闇が時間

を追うごとに身体中に絡み付いてきて、力という力が奪われていくような心地がする。

(気付いていないのか……)

 晴は思った。きゅっと唇を結んでいた。

 聖。それは“同族嫌悪”って云うんだよ──。

(ひー君……)

 麻弥は思った。哀しくて哀しくて、ただ眉を下げていた。

 こんな事なの? ひー君。貴方が自分を捧げてまで願ったのは、こんな事なの──?

「──二人とも」

 そうしているとクラリッサが静かに声を掛けてきていた。気付けば先程の一戦で生き延び

たゾンビ達がのたのたと、こちらを囲うべく迫って来ている。

「主がもうあんななのにな……。仕方ない」

「大丈夫。私に任せて」

 晴が水ゴーレムを動かそうとした。だがそれよりも早く、クラリッサがざらりと腰の剣を

抜きながら前に出る。

 静かに深呼吸、そっと切っ先を前に向けていた。

 わらわら。知ってや知らずか、ゾンビ達が彼女の方へ向き、集まってくる。

「──“烈空砲ショック・エア”!」

 次の瞬間だった。彼女と、剣先から広がった空色の魔法陣が彼らを捉えたその直後、まる

で切り抜いたようにゾンビ達のいた空間が鋭い風圧に包まれたのだ。

 デズモンドが、彼の首を掴んでいる《沼》がこちらを見ていた。

 一時真空になって押し出された空気。その圧力で消し飛んでいったゾンビ達。

 麻弥が晴が、唖然としていた。

 風の余韻。緩いポニーテールを揺らすクラリッサの背中が、妙に頼もしく見える。

「今よ、夫人達を!」

「……っ! はいっ!」

 促され、麻弥は破魔蔓を取り出した。その翠のカプセルを胸に抱き、魔力を込める。

 ぴしゃん──心の中で静かに波打つ水面。目を開いて腕を払う。カプセル型だった形がそ

れを合図とするように展開し、迫り出し、本来の和弓へと姿を変える。

「……汝は霊木。我は巫女。名字あざなは御門、真名まなは麻弥。陰陽ノ寮に連なる信徒が願い奉る」

 引き絞り、番える。半透明な色をした魔力の矢が、彼女の手によって、尚も虚ろに佇んで

いるだけの胎児と女性のゾンビへと向けられる。

「慰みを与うる其の霊威よ。我が言霊と魂を以って、今此処に彷徨う魂を救い給え──」

 祝詞を重ねる。半透明から煌く翠へ、そして金色へ。麻弥が限界まで祈りを込め、引き絞

ったその矢は直後まっすぐに放たれると──この母子だった者達を射抜く。

「……ごめんなさい。でもどうか、今度こそ、安らかに……」

 デズモンドが、声にならぬ叫びでこの彼女達に手を伸ばそうとしていた。

 なのに断末魔の叫びすらなかった。

 夫だった人物は必死に、闇に掴まれながらも手を伸ばそうとしていた。

 だが彼女達は、ただ破魔蔓の矢によって黙々と浄化──輝く光に包まれて消滅していく。

『──』

 しかし気のせいだったのだろうか?

 無に還る、死に戻っていくその寸前、我が子を抱いた彼女がちらりと、デズモンドの顔を

見ていたような気がするのは。

「な、ナタリー……、ガイモン……っ!!」

 フロアに光が満ち、消えた。《沼》もこれで終わったと思ったのか、そろりと闇の触手を

緩めて彼が這い出していくのをそのままにし、じっとこの背中を眺めている。

 嗚咽していた。

 デズモンドは欠片すら残らなくなった妻子──だと信じていたものの跡に縋りつき、その

まま全身が枯れてしまうのではないかという程に大粒の涙を零して、震えていた。

「ボートンさん……」

「呆気ないものだな。もう戦意は無い、か」

「最初から分かっていたことよ。こんな手段に出て、幸せになる筈……ないじゃない」

 麻弥がはまかずらを抱えたまま泣きそうになり、晴は感情を押し殺してこの戦いが終わったのだと

言い聞かせていた。

 カツン、聖が黙したままこちらに近付いてくる。クラリッサも同じく歩き出し、本来の目

的であったこのデズモンド確保を行おうとする。

「うぅ……ぅ!? ガッ、ァ──ッ!?」

 そんな時だったのだ。突然、デズモンドが嗚咽から急に苦しみ出し、その場で大量の血を

吐き出したのは。

 四人はそれぞれに目を丸くした。彼の名を呼んだ。慌てて駆け寄り、胸を押さえて痙攣し

ている彼を抱え起こす。

「ボートンさん、ボートンさん!?」

「な、何? 一体どうしたっていうの……?」

「……」

 それでも唯一、聖だけはやけに落ち着き払っていた。

 近付いて来たその姿を肩越しに振り返った晴、懸命に呼び掛け、動揺している麻弥やクラ

リッサの姿をもそこそこに、

「そうか。あんたの代償は……」

 ぽつりと、そうまるで何かを悟ったように呟いていたのだった。

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