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天使ですか?

あぁ・・・しんどい

いつまでたっても静まる気配がない乱れる呼吸

一心不乱に草原を駆け抜けたわたしは

目の前に広がる森の中へと逃げ込んだ。

ぜぇいぜぇいと肩を大きく揺らし

自分の膝の上に頭を置く意識のない少年に視線を下ろした


「はっはぁ、、、本当意味わかんなぃっ!マジなんなの?あれ怖っ!」


バクバクと脈打つ心臓に手をあて、今まさに己の身に起こった

非現実的な状況に悪態をつく


まずは状況整理だ


__それはほんの数十分前の出来事


学校の帰宅途中、買ったばかりの雑誌を意気揚々と開くわたし

「はぁ待ちにまった第三シリーズ!筋肉は己の為に!」

もの凄くシュールなタイトルだがわたしはこのシリーズを

とても気に入っている

新刊を手に入れ浮かれた自分は目の前の状況に気付く事ができなかった。

ドドドドドっと辺りに響く工事音は夢中になった耳には届かない


そして悲劇は起きたのだ

何かにガンっと躓けば『多分看板』

工事中の開けっ放しのマンホールの中にあっという間に

身体が飲込まれていった。


「っ!ぎゃ!!」


コントさながらの美しい落ち方をしたわたし・・・

自分を馬鹿ですかと罵りたい

だがそうも言ってられない状況

わたしは今まさに穴に落ちてるのだ

襲ってくるであろうコンクリートとの衝撃に恐怖を感じた

頭は反射的にぎゅっと目閉じる


あぁわたしの人生こんな形であっけなく終わってしまうのか?

夏のインターハイに向けて女子高校生らしい青春をすべて

そこについやしてきたと言うのに・・・

こんなことなら恋愛の一つでもすれば良かったと後悔した

「母さん父さん」

さきに逝ってしまう親不孝者を御許し下さい!

なんて考えたら涙が滲んできたのを覚えている


だけど・・・


どんだけ深い穴なのでしょか?


待てど暮らせど襲ってこない衝撃に疑念を感じわたしはそっと目を開けてみる

そこで思考は停止したのだ

「へっ?」

ここはどこでしょう?

真っ逆さまに急降下していく身体・・・

真っ暗な穴の中に落ちていったはずの自分は

いつの間にか明るい空の中を落下していた

な、なっっ

「なんじゃこりゃーーーーーーーーー!」

ひーっと目から涙が溢れる

視界の下には赤茶色の草原が広がっていた

段々と迫ってくる地上このスピードで激突したら完全にアウトだ。

恐ろしさのあまり目から鱗のような涙がぼたぼた流れた


「い、いやーーー神様仏様助けてーーーーー!!!」


だが虚しくもそんな叫びも空へと散って行く


「ん?!ちょっまっ!なんかいる!?」


地上に近づくにつれある存在を認識した

わたしは身体中の血の気が引いていく

「な、なななにあれ!ぎゃわわわっっ」

乙女にあるまじき絶叫をあげながら落ちていく

地上にいるその存在達が叫び声と共に

落下してくるわたしに一斉に顔を上げた

その中で一際凶暴そうなでかい毛むくじゃらの巨体が鋭い牙を向けながら

こちらを見上げたその瞬間


「うぎゃああああああ死ぬううう」


どおおおーーーんっっと

絶叫しながら落ちて来たわたしの下敷きとなり

「があああっ」と獣のような咆哮を響かせながら倒れた

「ふっぎゃっ」

辺りの埃が舞い上がる

「うっごほっっいっだ、あ、あれ?」

全身に伝わる鈍い痛み・・・だが

「い、生きてる!!」

わたしは瞬時に自分が生きている事に感激し歓声を上げた!

がばりと起き上がれば、周りからざっと引く音がする。

かなりの勢いで落ちて来たはずなのに

自分が死んでいないという事実が嬉しくて頬を高揚させる

ポヨンと掌に感じる柔らかな感触・・・

自分の下で白目を向いて伸びきっている毛むくじゃらのお腹だ

「ありがとうおお、あなたが下敷きになってくれた

おかげでわたし生きてますぅ!ぽよぽよサイコーだぁああ」

おいおいとすがり泣きつく

自分でもかなり最低な事を叫んでいるなと分かってはいたが

そう叫ばすにはいられなかった。

深緑の毛が改めて視界に入った頃には頭にふと疑問が浮かぶ

ん。ちょっと待てよ。

助かったのはいいがこの生き物は一体なんだろ?

気絶している、緑色の巨体。あぁと大きく開いた口には恐ろしい程

鋭い牙がびっしり並んでいた。

「ひっ」

噛み付かれればバリバリと難なく食べられてしまいそうな

その大きな口に思わず体が反り返る

同時に沢山の視線が自分に向けられている事に気づき体が硬直した。

そろりと視線をやれば大小様々な、

恐ろしい姿をしたモンスター達が自分を凝視しているではないか・・・

「うっわぁ、ファンタジー・・・」

そのまま気絶したい気持ちになったが

意識を手放せばこのモンスター達に

襲われ憐れな末路を遂げるに違いないだろう。

それだけは、なんとしても避けたい。

だけど・・・

とてつもなく恐ろしい光景に足がすくんでしまっている。

思わず顔がひきつり背中に大量の汗が流れた

そして後方からまた違った視線を感じドキリと心臓が跳ね上がる

えぇい!今後はどんな化け物だ!ちくしょー!なんて

半ばやけくそにキッっと振り返えればその存在は良い意味で私を裏切った


「えっ」


そこには牙むき出しの恐ろしい化け物は居なくて

むしろ天使か?って思う程美麗な少年が一人立っていたからだ


「天使さま・・・」


その少年は美麗な顔に驚異の表情を滲ませ私を凝視していた

わたしの存在、登場を心から驚いている感じだ。

そんな驚いた顔でも、茶色の殺伐とした風景が見えなくなるくらい

その子は美しく存在感があり、つい魅入ってしまう。

白い陶器のような肌からは所々血が滲んでいるが、

それもまた絵になるという麗しさ・・・

貴族を思わせるようなその衣服は土で薄汚れている

濃く深い色をしたまるで宝石のような

金の瞳が唖然とする私の姿を映し出していた

(きれい・・・)

お互い時が止まったかのように見つめ合う・・・

だが先に意識を戻し動いたのはその少年のほうだった。

彼は一歩こちらに近づき慌てて口を開く


「にげてっ・・・」

「え?」


だが全てを言い終わる前に少年は苦悶の表情を滲ませ

ゆらりと頭を揺らしながらその場に崩れ落ちた


(ちょっ!うそ!)


その瞬間、動かなかった自分の体は

巨体を踏みつけながら(ごめんなさい)

自分でも驚くほどの速さで

男の子の側まで駆け寄りその体を支える。

あとは、考えるよりも先に体が動くのだ

「くっっ」

意識を手放した男の子を気合いを入れて一気におぶさると

全速力でその場を駆け出した

そんな自分達を見ていたモンスター達たちも我に返るように

当然のように追いかけてくる。そこからはもう、死に物狂いだ。

元々陸上部で体力はある方だが人を担いでとなると訳が違う

でも生死がかかった状況の人間はあり得ない程力がでるものだ。

これぞ火事場の馬鹿力・・・本当にあるんだと

初めて実感しながらとにかく走り続けた。


そして運良くも命からがらあいつらを巻く事に成功し

森の茂みに足を投げ出し脱力してるとこなのだ


「ふっは・・・とりあえず・・・助かった?

穴に落ちるわ、変なのに追いかけられるわ・・・

そしてここどこだよぉ」

言いようのない不安感が襲ってくる

額に汗を滲ませながらも横たわる男の子見た

「怪我・・・他にしてないかな・・・」

顔にかかる蜂蜜色の前髪をそっとのかせば

長いまつげで縁取られた瞳はまだ閉じられており

頬の傷からは赤い血が滲んでいる

他に大きな怪我はないかとざっと見てみるが、

幸いな事に対した怪我はしていないようだ

「よかった・・・」ほっと胸を撫で下ろす

「この子あいつらに追われてたのかな?」

黒いダブレットを身に纏ったどこか気品の漂う男の子

どこかお金持ちのご子息だろうか?そんな事を考えながら

ポケットに入っていたハンカチで血が滲む頬をそっと拭う

すると男の子は、んっ・・・と顔を歪めながら身じろぐ

それに一瞬驚いたが、同時に意識が戻ってきたことに安堵した

「ねっ君・・・大丈夫??」

少年の顔を覗き込むように聞いてみる

「痛いとこない?」

わたしの問いに瞳がゆっくりと開かれる、

間近でみるその瞳はやはり宝石のように美しい

「ここは・・・」

意識を取り戻しながらぼんやりと聞いてきた少年は

状況を把握しようと目をしばたかせた

「あぁえっとね、森の中かな・・・

あのモンスター振り切って今隠れてるとこ」

「逃げて来た・・・私を連れて?」

自分を私と呼ぶちょっと大人びた口調に首を傾げる

「うん、そうだよ!

君をおぶさってここまで逃げてきた!

本当びっくりしちゃったよ!ていうかあれ何?!

君知ってる??・・・っと」

咳をきったかのように喋りだしたわたしに男の子は不思議そうな

視線を投げつけてくるもんだからなんだか急に恥ずかしくなり

俯いてしまった

「あっと、ごめん!そのわたし動揺しちゃってて」へへへと首を傾げる

「いや・・・いいんです。それより」

少年は丁寧にそう言うと私の太ももの上に頭を置いているのに

気付いたのか起き上がろうと身じろいだ

そんな少年の行動を察しわたしは声をかける

「大丈夫?起きれる?」

「はい」

「本当に痛いとこない??」

と再び確認すれば、なぜか男の子は一瞬驚いた表情をする

だがすぐに、それは消え

「大丈夫です」

すっと身体をお越し自然に立ち上がった 

「・・・」

なんだろ、何気ない動作がいちいち美しすぎて

気付けばじっと魅入ってしまう。

目を閉じて気を失っていた時は

年相応に見えたが、今動いている彼は

見た目とは不釣り合いなほど大人びた雰囲気を醸し出している

そんな違和感にわたしは戸惑う

自分の視線に気付いたのかどこか困った様な表情を見せた少年は

改めてわたしに向き直ると

「私は・・・フォルクス・ネオディーゼン。

失礼ですが貴女のお名前は?」

まるで賛美を聞いている様な心地の良い声だ・・・

この子まじで天使かもしれない

ぼーっとフォルクスと名乗った少年を見つめていると

無反応な自分に再び声をかけて来た

「聞いてますか・・・?」

「あっご、ごめん!」

はっと我に返れば急いで立ち上がる

パパっと制服の汚れを叩けば目の前のフォルクスに微笑む

「えっと、わたしは桃ノ瀬 凛!

フォルクス君って言うんだ!宜しくね!」

はにかみながら美しい天使のような少年に手を差し出した


これがわたしとフォルクスの出会いとはじまりだった・・・

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