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勇者になった少年  作者: Precious Heart
『ミオの花』編
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『瘴気とマナ』

「酷い……」


 アルカナ市街が間近に迫り、市街を視認したシンが感想を呟く。

 魔法で崩れ落ちた門の手前には事件の調査隊が作ったであろう立ち入り禁止の札と大きな墓石があり、墓石には『アルカナ市民13,524人と復興部隊隊員100名、ここに眠る』と記されてあった。

 そして、門の内側からはアルカナ市街の景色を覗かせ、木々は倒れ、建物は崩壊し、瓦礫の山を築いている。

 シンとミオは墓石に花を添え、亡くなった方の御冥福を祈った後、そのアルカナ市街跡地に足を踏み入れた。





 2人はしばらく魔法で破壊された瓦礫の山の中を進み、市街の中心部分に近大分付いていた。

 それに伴い、至る所で黒紫色の光が煙の様に揺らめき、瓦礫は砂へと、木々はドロドロのヘドロ状へと変化していた。


 黒紫色の光ーー瘴気による影響である。


 瘴気とはわかりやすく言うと、魔物の剥き出しの魔力だ。


 人間の場合、己の波長を帯びた魔力は体内を駆け巡り、周囲へ影響を及ぼさない。

 周囲へ影響を及ぼすのは魔法として発現させた時のみである。


 しかし、魔物の場合は違う。

 魔物は核と魔力のみで構成され肉体がない。


 すると、どうなるか?


 答えは簡単。

 事象を書き換えるエネルギーとも呼べる魔力が容赦なく周囲へ影響を及ぼし続けるのだ。

 魔力を造っている魔物の波長にもよるが、大体が通常では有り得ない現象を引き起こす。

 今回で言えば、有り得ないスピードで風化が進んだり、生物の生態系を異常にさせたと言った具合に、だ。


 故に、魔物は忌避される。

 ただそこに居るだけでも世界に害を与える存在として。




「ここからは僕の半径1メートル以上離れないでね」


 シンは浄化の力を展開する都合上、ミオにそう告げる。

 ミオは「はい」と頷き、シンの手を握った。


「……何してるの?」


「えっ、離れない様にするにはこうする方が一番だと思いますけど?」


「ああ、うん。そうだね」


 シンは胸をドキドキさせながらも、そうしている状況ではないので無理矢理割り切る。

 隣からつまらなそうな視線が来るが気にしない。


 ここからは勇者としての時間だ。


 シンは己の内側へと意識を向ける。

 そこに感じる温かであり、清らかな気配。

 物心がつく遥か前からシンと共にずっとある浄化の力の源。

 それを己の外側へ展開させた。


「綺麗……」


 ミオから感嘆の声が漏れる。

 シンが外側へと展開させた浄化の力。

 

 それは火の様に揺らめく青い光だった。


 シンの体に纏わりつく様なその青い光を、シンは限界の1メートルまで拡張させる。

 感覚的には余裕があるのだが、それ以上はどうしても伸びなかった。

 結果的に、シンが手を伸ばす範囲にいるミオまでその青い光に包まれた。


 熱くはない。

 不快感はない。

 けれど、確かな力の脈動。

 神社や教会の神秘的な雰囲気を一万倍程に濃縮したらこうなるだろうか。

 

「これが浄化の力、『マナ』ですか」


 ミオの呟きに思わず苦笑する。


 いつからか誰かが呼び始めた世間一般での呼称。

 語源は超自然的な力の観点らしいが、物語り等では神様の力や世界に満ちる聖なる力として語られており、シンはマナと呼ばれる度に大げさだと感じていた。


「行くよ」


「はい」


 シンの言葉にミオは頷き、瘴気が溢れる空間へと進む。


 そして、変化は劇的だった。


 瘴気がマナに触れた瞬間、瘴気が無数の色の光を発生させ浄化していった。


 この現象にミオだけではなくシンすら驚きを隠せなかった。


 ミオは噂でしか知らぬシンの力を、幻想的な光景を目の当たりにして。


 対して、シンは瘴気が無数の色の浄化光を伴って浄化した事について。

 

 通常、シンが核・魔力・魔法・瘴気を浄化させる場合、光エネルギーに変換されてから天へと還る。

 何故、光エネルギーかと言うと害がなく、そもそも性質が似ているからだ。

 波長があり、その波長により色や効果が変わる。

 魔法を発生させる時にも光が発生するが、それと同様に魔力の波長で浄化光の色も決まる。

 シンは数々の戦場であらゆる浄化光を見てきたが、大体1人につき1~3種類の浄化光だった。


 それが無数のありとあらゆる浄化光。


 この浄化光を持つ存在をシンは1つしか知らない。


 そう、即ち魔王である。


 ……出来れば思い過ごしであって欲しかった。

 心配のし過ぎで済ませたかった。

 しかし、目の前に広がる光景に、

 突きつけられた現実から目を逸らせる事は出来ず、


 これから起こるであろう新たな魔王との戦いに思いを馳せていた。



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