表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

二日目夜 組合長の胃に穴。 猫! うしろうしろ!



魔惨迷宮、上段、冒険者区のある酒場にて。


数グループの冒険者がそれぞれに卓を囲み、賑やかな様相を呈してる。

全ての席は満杯。大盛況である。


これは、だが異常でもある。


夕方、陽の終わり、鮮やかな真紅のグラデーションを描く空は、雪を降らせる灰の雲からかすかに見えるばかり。

この時分に、これほどの盛況を博したことは、この酒場が今代のマスターに変わってから初めてのことであった。


普通、冒険者とは一日の内、一定の時間は迷宮に潜っているモノだ。

地下という性質上、迷宮というのは常に薄暗いモノである。

言い換えればそれは何時に潜ったとしても職場の条件に大差がないということでもある。


そのため冒険者は、同業者の競合を避けるために、夜に潜るモノもいれば、昼、朝、夕方に潜る者たちもいるように、自ずと労働する時間――迷宮に潜る時間を決めているものだ。


さて、では、なにが異常なのか?

それは本来この時間に潜っているような冒険者たちが、軒並み、ほぼ全グループが迷宮へと赴くこともなく、ここにいることに他ならない。


深夜に冒険へと出発する者たち、昼に帰還する者たち、そうした彼らが今日は迷宮に潜らず、酒場にいること。

行くべき迷宮に行かず、卓と卓、マスターと客が、噂を交換し合うのみ、ということ。

仕事をせず、迷宮に潜らず、今日一日ここにいた者ばかり、ということ。


冒険者としての仕事を放棄するかのような事態を、

異常と言わなければなんであろうか。


ここで少し補足しておけば、

迷宮都市において酒場は無数にある。

そして何処の酒場を行きつけにするかということは、実は大変重要なことだ。

それは、どういった冒険者たちと親しみ、どのような情報のネットワークを利用し、どの酒場のマスターの庇護を受けるのか。

ということを決めることに他ならないからである。


酒場のマスターとはクエストを出し、情報を集め、迷宮管理組合の委員でもあり、迷宮管理組合ギルドへの口利き、身分保障も行っている存在である。

酒場ごとに、マスターの性格や能力の違いがあるのは、自然の摂理であり、そこに選択が生まれるのだ。


また、同じ酒場を常連にするもの同士は、情報を交換し、時に助け、時に助けられ、物を交換する機会持つ。

酒場選びとは大切である。もちろん不文律の慣習のようなものなので、幾つかの酒場を利用したり、各地の酒場を転々とすることも自由である。

しかしそんな者たちも、一月単位で見たら、一番顔を出していて、何時も座る席が決まっているような、行きつけの酒場があるものだ。


この酒場でも、そういった冒険者同士の活発な相互扶助が行われていた。

たが、いつもと違うのは、この時間にいない筈の冒険者が、多くいるということだろうか。


中位冒険者が多く、高位冒険者も何人かいるこの酒場は、魔惨迷宮全体で見た酒場の位置づけとしては中の上、あるいは上の下といったところか。

情報も鮮度が高く、それなりに信頼できるようなものばかりである。


とはいえ、いまこの酒場で最も活発に話されているのは醜聞の類ではあったが。



「チーム全滅か」


と、ある冒険者が不安げに髭をこすれば、


「ニケロ・フィリップと、『圧殺者』クトゥルヌ・イーガンが主導したらしい、が」


「で、どっちも帰ってこなかったと、……笑えるな」


と、隣の卓の若い前衛戦士二人が食いつく。


さらに近くの卓からも声が飛ぶ。

続けて飛ぶ声。相槌、同意の声。


今日の昼に入ったこの新しいニュースは、

無数の動揺と噂を生み、各地の酒場で、冒険者による活発な議論の的となっていた。

この酒場においても、それは同じで、沸騰したかのような陰鬱な過激さによって、

そのニュースについて、先ほどから何度も何度も議論が行われていた。


「やばいわねぇその怪物さん。……蟹の形をしてるんですって?」

「ニケロはお世辞にも気持ちの良い奴じゃあなかったがよ、死んじまえとまではぁ、俺ぁ思っていなかったな」

「あぁ、くわばらくわばら」

「ニケロの変わりはいるけど、『圧殺者』イーガンが死んだのは……」

「……手痛いなぁ、前線は後10年膠着するんじゃないか」


魔惨迷宮でも荒くれどもばかりが集まる酒場の冒険者たちが主導して、

迷宮管理組合に先んじる形で件の48層の怪物へと挑戦した事件は、


昼には一先ずの決着を見た

――挑戦したチームの全滅という形で。


都市でも屈指の荒くれ者として知られた粗暴なニケロの死は、さらなる不安と動揺を魔惨迷宮中の冒険者たちにまき散らし。

それに増して惜しまれたのは『圧殺者』と言われたクトゥルヌ・イーガンである。

儀式大家、儀式法まで使える人間はこの都市においては10人、実戦で短時間でそれを行使できるのは僅か数人、その内の一人が消えたのだ。


斥候隊の第一報を聞いた迷宮管理組合の組合長ハンナ=ウルフは、

飲んでいた紅茶を吹き出し、手に持っていたお気に入りの狼柄のティーカップを窓に叩き付けそうになり、寸でのところでどうにか抑えた。


そして全滅したチームに、最高位冒険者クトゥルヌ・イーガンが参加していたことを知ると、迷いなくティーカップを窓に叩き付けたのだった。


「知っていたら止めたモノを……」

うぎぎ、と呟く組合長の目の下には隈がある。



大規模チームの全滅の報は、隠しきれるものではない、そのためハンナ=ウルフはあえて先んじてその情報を公開した。

(公開された情報、全滅した冒険者の人数が多少減っていたのはご愛敬ではあるが)


それから各地の酒場では、その話題と件の怪物についての話題でもちきりになったと言うわけである。


クトゥルヌ・イーガンは儀式大家の儀式法を行使できる仕手だが、果たしてそれを使って破れたのか、

それとも作戦の不足があり、発動前に破れたのか、ということが話題になれば。


果たして前衛の攻撃は効いたのか、や、蟹の攻撃手段はなんでるあるのか。それは倒せるのか。

斥候隊の一員が目撃した大量の水とはなんだったのか、などが話題に挙がった。


「巨大な蟹といえば、魔将の内に一匹、そんなのがいるらしいな、つい一昨日くらいまで全く知らなかったが」

「私も知らなかったわよ。そんなのほんとにいるの?」

「おお儂は知ッとるぞい『巨蟹』じゃろ?」

「ううむ、聞いたことがないなぁ」

「いやさ、最近ベストセラーになったあれに書いてあってさ」

「『神話・物語録』か」

「もしかしたら本当に魔将だったりして」


「ははは」と酒場全員が笑いながら話す、

心に不安を抱きつつ。それをあえて振り捨てるように。

皆が、件の怪物に思いを馳せる。



喧噪から少し離れた卓では違う話が行われていた。


酒を飲み、カードに興じている若手冒険者の集まりだ。


「で、明後日の朝なんだろ?」

「なにが」


良いカードが来たのかそれを場に出しながら男が答える。


「あれだよあれ派遣隊の告知」


出された男は苦い顔をしている。


「ああ……、あれか」

「そうそう、それ」


いいから早く出せ、と勝っているらしい男が指で場を指し示す。


「定員12名」


「もう参加者も大分決まっているらしいね」


横で見ていた男が口を挟む、彼は審判役も兼ねているようだ。

勝っている男は、いやらしく笑い。

先ほどよいカードを出された男が苦い顔のまま、熟考。

しばらく簡単な応酬が続くも、場はそのまま変わっていない。


「『黄金剣』さまのリベンジか」


「後は、メーダ、ニケロット、ボブ、あとあの豚野郎、行くってさ」


「『銀鬼』ロレントォか」


「お仲間と一緒だと」


審判役の言葉に、負けているゲームから気を必死にそらすように負けているらしい男が答える。


勝っている男はこれで決まりだ! と一枚のカードを場に出す。


「とりあえず、蟹に近づいてみて、細やかな情報収集とついでに周囲の封鎖もやるんだ、と」


それまで負けていた男が、急に顔を歪め、それを待っていたとばかりに舌なめずりをする。


名演技。男の出したカードを見て、それまで勝っていたはずの男は、絶句、呻いて呟く。


――投了


「はい終了。まっ、なんにせよ明後日のことだ、いい加減俺も身体が鈍ってしょうがないよ」


呟く審判役の男は、酒場の外を見た。


既に陽は完全に落ち、辺りは一面の漆黒である。


ところどころにある酒場の煌めきがしかし漆黒を汚す。


喧噪は酒場の至る所から響く、しかしそれはどこか不安げな様子でもあった。



審判役は、今度は自分が参加する番だと、卓に付く。


不安であれど、恐れがあれど、日常は続く、


日々は続き、夜が来る。










呻く、呻く声。

吹き飛ぶ首は、病んだ朱、思えば遠く、思えば近く、

慙愧ざんきに堪えず、後悔は無限かと錯覚する。



古い夢を見ていた。

そう思い、『潜影』は目を開く。

取るべき仮眠を欠かさず取ることも仕事の内である。


今日はやけに上が騒がしい。

繁華街も、冒険者区もだ。

それも無理のないことなのだろう、『潜影』はそう思う。


忙しさは、仕事は増え続けているようだ。

治安、不安、チーム全滅、蟹。


ふと思い出す話。蟹が魔将なのではないか、という議題が都市の最高会議で上がったらしい。

一笑に付すことも出来ない、と『潜影』の上司も言っていた。


ただ今のところ、『潜影』は暇であった。

斥候隊に影ながら付く任務は同僚と代わった。

次の任務は明後日の朝を予定している、内容は、対巨大蟹対策の冒険者の派遣隊についていくことである。


そんな彼は、夜も更けて、上階の賑やかさを除いて、

いやに静かな下段東区、昨日不審者を監視していた場所にいた。


件の長耳族の少女の話。

まるで花畑で花輪をこしらえる為だけに生まれたのではないか? という可憐さの少女の不審者を、彼は直接の上司へと伝えた。


上司もその件を不審に思ったのか、その少女が入っていったという古屋敷について調べた。

場合によれば衛士や軍の派遣まで差配するつもりであったらしいが、しかしそこで行政と一部の軍の上層部から横槍が入る。


曰く、その屋敷は世界各地の軍と行政に顔が利く、さる大富豪の所有であること。

   その者との関係を考慮し、面だったいざこざは起こしたくないという話。


衛士や軍を人手として使えないのなら、夜に、自らの手駒で最も能力がある。

『潜影』を使用し、件の少女の捕獲、拿捕が命令された。

『潜影』としても件の少女のきな臭さ、胡散臭さを考えれば、任務に就くことはやぶさかでもなかった。


それが、昨日に引き続き『潜影』が、東区の大屋敷の屋根に立っている理由である。


黒面黒装束、一色の闇。影の中の影。


彼が見下ろす先には、昨日と同じように、そして昨日よりも慣れた手際で、

道から道を適度な大きさの荷車とともに移動している頭巾の少女の姿がある。


もうすぐ日をまたぐ、少女はかれこれ数回、下水と屋敷を往復していた。

何かの荷を、屋敷に運んでいるらしい。



『潜影』は早く仕事を終わらせたいと考える。

今から行う仕事もそうだし、ここ数日の過密勤務、超過勤務の乱舞が終わって欲しい心からと願っていた。

彼を、待っているものがある。彼も、もっとやりたいことがある。

薄暗い仕事、血に濡れることもある仕事は、ここ数ヶ月で心に大きな変化のあった『潜影』にとって忌むべきものに過ぎなかった。


この仕事が終わったら、……を食べよう。 

そんなことを思って、階下の町並みを、黒面越しに眺める。




蒼い月が、街を照らす。奇妙な静けさを演出する冬の乾いた空気。


澄んでさえある静謐な沈黙。


夜の街。沈黙の住宅地。酔っ払いの喧噪。


月光は白。浮かぶ影は黒一色。



冷えた風が、『潜影』と少女の間を横切った時。


黒は、屋根からその姿を消した。










猫の耳を頭巾で隠し、濃い体毛をコートとワンピースで隠したルーは、ほくそ笑んでいた。


背後の荷車には、『鎧』最後の部位

これを後は、ちゃっちゃと迷宮に運べば仕事の下準備は完成だ。

こんならくでいいのかしらん。とでも言いたげな満面の笑みを浮かべる身長120cm程の耳長族の少女。


――作戦に穴はあったにゃ、不確定要素もたくさんあったにゃ。 運に頼っている部分もあったにゃ。

とはいえそれを越えるほどの幸運と成功に恵まれたのが現状にゃ。などと嘯く。



さて、一つ考えて欲しい、これからルーに起こる事態の原因を

久方ぶりの蟹。旧知との会話に心を緩めたのことか。

それとも彼のことを思って仕事を出来る限り早めたのも一因か。

成功に次ぐ、成功に見えたことが原因か。

そもそも己に対する自負、傲慢、慢心がなかったか。



耳長ルーは気付いていなかった。


己が幸運に恵まれているわけでもなく、作戦が問題なく成功しているというわけでもないことに。



ただもし。もしも。


運否天賦を言うのなら。



彼女の幸運はこの瞬間であっただろう。




屋敷の裏口に回る途中、屋敷の側面。


自らのブーツの紐が解けかかっていることに気付いて、それを結ぼうと屈めたことこそが、


彼女の幸運であったのだ。





数瞬前まで、ルーの両肩があった場所を、それぞれ一迅の剣風が通過した。



一切の乱れない刃風。


ルーの認識外からの奇襲。

当たっていたならば、腕と肩を、しばらくの間、使い物にならなくされたであろう閃鋭。


されど、それは、当たっていたならばの話。


黒一色の装飾に身を包んだ奇襲者の見事な遠距離斬撃を、しかし彼女は運良く回避した。


躱せた。首の皮は一枚、つながった。


とっさに身を翻すルーは、敵襲を察知し、

隱形を見破り、こちらを尾けていた存在がいることを認識した。


そして己の失態をも自覚した。



――敵襲にゃ。



一種の混乱を、即時に鎮圧。あるのは冷静な敵戦力の分析。

追尾、奇襲、隱形看破、気付かなかった。

無音、遠距離武器所持、速度予測。


刹那の分析の後、即時の行動。



奇襲の斬撃に失敗した影――『潜影』は、内心のかすかな苛立ちを、そのまま追撃への原動力とした。


意識――全身――儀式小家・紋章法――速度加護。

    脚部――省略――脚力強化

持続――無音化・消臭・気配減衰――五重起動――脚力強化のみ瞬間起動。


構えるは二本の短刀。


ぶら下げるように持ったそれを、振るうため、無音の迅速で対象へと近づく。


対象のコート頭巾ネコミミ少女は、コートを翻しながら、近づいてくる『潜影』が見えているかのように、壁側へと跳ねていく。

月から差し込む光。白く照らし出されている石畳。

丸く跳ね弾み、疾速で近づいた『潜影』から逃れるよう、壁へと着地する。



紋章法か、と思い、壁に張り付いたルーを見やる『潜影』



初撃を奇跡的に回避したルーは、敵の接近よりも先に壁の中程に張り付き、下、石畳のある場所を見る。




目と目が会う。


片方は、頭巾を被った美しい耳長族の少女、花柄の頭巾が風に揺れている。


もう片方は、黒装束に身を包ませた、二本の紋章が刻まれた短刀を持つ、黒面の影。


「ずいぶんにゃあいさつにゃ」


返答はない。



接近しての斬撃で、確実に行動不能に追い込むつもりだった『潜影』の思惑は、

思ったよりも速い耳長族の少女の移動速度によりご破算。


潜影は、速度加護の紋章の発現を止め、脚力強化を二重に起動し、飛ぶ。


跳んだ瞬間振るわれる右腕の黒短刀。


それを回避するように、耳長族は、コートをはためかせ、壁を走り、跳ぶ。



跳んだ影は、一瞬前までルーのいた壁に足を置き、自らも壁に着地する。

脚力強化を外し、ブーツの底面に記された着地紋章を行使する。

使うのは己の魂の内に蓄えられた力。

『潜影』の器は大きい。

それでも同時に起動された紋章の数を考えると『潜影』も長い戦闘はできないだろう。


狙っているのは短期決戦だ。





ルーは走る。壁を走る。

身体を構成している猫人の筋肉を、走り、跳ぶことに特化した、巧みさを生まれ持った筋肉構造を無理矢理に酷使する。


角を曲がり、跳ぶ、屋敷二階のベランダへと着地。


――気配が、全くつかめないにゃ。



しかしそれでもルーは集中し続ける。

緊迫、極限、精神と神経の高ぶりを抑え、敵の攻撃を予測する。



音。風の音。違和感。

全身の筋肉を跳ねさせる。



ベランダから屋上へ。


下を見る。ベランダの手すりを寸断する刃風。


――あの持ってる二本の短刀ナイフの紋章かにゃ。


刃に記され、刻まれた紋章に「力」を流し込み、その「力」を一定の大きさの刃として発現させているのだろう。

「力」使っての中距離攻撃もできる。暗殺者か、それに準じるような刺客。

しかも、専門ではないとはいえルーの隱形を看破し。

そしてルーに、猫人の感覚器官とルーの歴戦の経験を前に、その気配を掴ませないその巧みな技術と紋章術。



――最後の、最後でやっかいにゃ。



いやな相手に見つかったものにゃ、と思いを巡らせきる前に、横へ跳ぶ。

屋根にある己の影が一瞬ぶれたのをルーは見逃さなかった。


横転、躱す。しかし躱しきれず、コートを掠る一撃。



無音。いつの間にか背後へと居た相手にルーは戦慄を覚えた。



ルーは躱した勢いをそのままに、屋根から飛び降り、

空中で、コートのフードを頭にかぶり、懐に備えておいた愛用のマスクを眼部に装着する。




着地。猫のごとき無音。




上からの攻撃に備え、速やかに移動。


月の光は明るすぎる。そう考え、

奇しげな下水主の装いを何時も通りに身に付けた猫は駆ける。


屋敷の横側、先ほど己が初撃を受けた側とは反対側。その先にある木々の茂る庭へと突っ込む。


無数の草と木を連想させる。生い茂ったジャングルのような木庭へと駆ける。




ルーは冷製に判断する。


推察は頭を冷やし、己の戦力を考える。

コートに、その下に縁取られている刺繍の紋章に「力」を流し込み己の姿を透明化させる。


戦力。

あるのは肉体の筋力、感覚器官。

防備はコート、閃光弾、煙玉、まきびし。

下に来ているワンピースは、紋章刺繍がある、些細な防刃――意識――起動――ないよりは全然マシだ。


武装。武装は、コートの内に小杖が六本。カンテラ――武装ではない。背に一本の短刀。

杖と短刀は全て神器。

しかし「力」の起動、貯蓄にしばらくかかる。


であるならば、己の肉体のみで相手をしたいところだ。

手袋ごしに己の手を見る。

――いけるかにゃ。


それは、わからない、しかしその他に、当面の攻撃手段はない。


神器発動までの時間を稼ぐ。


そのための手段だ。

むざむざ一刀で切り捨てられる程にルーも柔ではないつもりだ。

どうなるか分からないがルーはやるしかなかった。



勝機は無いわけでは無い。


狙いは神器と……



考えながら、コートに潜めた六つの小杖の紋章を起動した、

小杖の紋章は、小杖の刻印を作動させる。これで外の「力」が特定の属性で自動貯蓄される。



そのとき、音がした。猫の感覚器官はそれを逃さない。


音、草の揺れる音。風。



猫は跳ぶ退く、跳ねて跳ねるその姿は、まるで祭りのようで。


庭の木に深い傷を入れるのは二本の短刀から放たれる跳ぶ剣撃か。



――にゃ?!



猫は戦慄する。


この黒尽くめは、見た目には透明化していて見えない筈の己の位置を看破して、攻撃を仕掛けてきたのか。と


移動する限り、音を消すことが不可能に近い庭を選択していなかったら。


そう考えルーはぞっとする。




シャンッ、という鈴のような刃音。


黒と緑と屋敷の茶色、それを覆う眩い月光。

猫は庭から抜け出すバックステップ。

バク転、丸く丸くそれこそ猫のように。


黒はそれを追う。猫を越える地上移動の速度。

走り、切りつける。


猫は空中で体勢を整え、それに抗する。


刃を受け止めるのは手


空中の防備という不利そのものの体勢から繰り出される、手刀。

ルーは意識し、己の手を覆う薄い手袋の紋章に「力」を流し込み続ける。

硬化、鋭化。

ついで靴の紋章。速度加護と着地紋章を発動し、戦闘準備を整える。


神技一歩手前の空中舞踏を前に、しかし『潜影』も揺るがない。


ビュ、という浅い呼吸のような音が、鞭のように空中をしなった。


風を切る刃、大気に食い込む二本の短刀。

隙を狙い、受け止め、そして隙を狙う。

放たれる刃は、鋭利かつ流麗な滑らかさをもって、猫へと放たれ続ける。


空中から地面へ足場を移動させたルーは、目前にて振るわれ続ける、

躊躇なき二刀連撃を受け止め、避け、受け流す。

一刀一断が恐ろしい精度と鋭さを持った錬撃だ。



『潜影』の振るう刃は、

さながら蓮華の連なる様で。

それは加速する、無駄なき二刀乱舞。



ルーの振るう拳は、

まるで並べられる小楯の様で。

それは必死の心情を隠し、致命を防ぐ左腕右腕。




白き月光を光源に、未明。


古ぼけた屋敷の正面玄関前を舞台に、


演目は二人だけの舞踏会。



ルーと、『潜影』の踊るような戦闘。


しかし役者の顔に浮かぶ表情はどちらも無。




黒面に覆われた『潜影』の攻撃は、時間が経てば経つ程、

速さ、巧さ、鋭さをいや増していく。

フェイントが手品のように精緻を凝らして交り、練り上げられた強度ある速撃の嵐。


二者の表情は無である。


無であった。


猫が表情を変えたのだ。

猫の、コートの、長耳族の、ルーの表情は苦虫を潰しきったそれ。

余裕のない。この接近の武闘に、勝利する未来が見えないという不安と恐怖の入り交じった歪んだ表情。

いつもにやにやとした笑いをこびり付かせているその口元は、しかし今は焦りとも言うべき形に。


認めなければならない、ルーは防戦一方であり、このまま『潜影』の振るう攻撃がさらに洗練されていくのなら。

その先にある未来は敗北の他に無い。と



戦いはじりじり続く。


刃と拳が合わさり、猫の頬が切れる。


時折『潜影』が放つ飛ぶ斬撃が、足先をかすめる。


身長差をものともせず、跳び、時に、跳ね、合わせ、体幹をねじり、地を蹴るルー。


拳が受け流しきれなかった刃が掠り、コートに、フードに傷を作っていく、


ジリ貧、傷は微増に微増を重ね。確実に増えていく。



均衡は最初だけだった。

そもそもの身長差。

ウェイトの差に、技術の差。

不利に不利を重ね、短刀が空を泳ぎ、拳がそれを反らし切れなくなっていく。

一撃一撃が敗北へ近づくいていく足音に聞こえてくる。


ルーの接近戦闘法は実のところそう悪いものではない。

体躯こそ小さいものの、それを動かすバネは、筋は、猫人の特有のしなやかで強靱、弾力的で強力な物である。

永きに渡る生の末に磨いた身長差を逆に生かし、相手の死角を突くことに注力して、

時に相手の目をそらし、跳ね、跳び、動き翻弄するその技術、その戦闘法は、初見ならば対応に苦慮し、並程度の冒険者であったならあっさりと敗北するであろうレベルだ。



しかしそれは並の冒険者であったならば、だ。


より速く、より技に長け、腕力が無くとも数々の強者を相手取ってきた『潜影』にとって、

ルーは最初こそやりにくいものであったが、慣れればそう大した相手ではなかった。


それ故の現状、ルーの不利が目前に存在しているのだ。



「にゃ」


呻く、時間は遠い。


「にゃ」


呻く、厳しい戦いだ。

しかし勝算が無いわけではない。


堪え忍べ、耐え忍べ。

猫よ、かつての大戦を思い出せ、

強力な魔法が、魔導が、武器が、肉体が迫り、殺意を向けてきた戦場に比べれば。



目前の敵など、殺意無き敵など、たいしたものではない。



猫は、呻き、それでも無数としか言えない膨大な刃筋から、眼ををそらさず。

癇癪を起こさず、焦らず、歯を食いしばって、凌ぎ、耐え、待つ。



そして、コートに作られた比較的大きな掠り傷が、10を越えた時、猫は、おもむろに大きな蹴りを入れる。

自らの体勢を崩し、半ば捨て身で、『潜影』の胴めがけて鋭い一撃が、蹴り込まれる。


それを躱すように、スウェーし、自らの持つ短刀の紋章に、魂から「力」を引き出し、

流し込む『潜影』。



刹那 ―― 中空を泳ぐ剣閃が作り出された。



猫は、ルーは蹴りを加えた時の、低く崩れた姿勢から。コートを脱ぎ、その内側に備えておいた小杖を引き抜いた。

そしてコートを、飛空する刃影にあてがうように投げつける。



刃は防がれる。



小児の如きルーはコートをなくして、その腕の毛と、脚の毛を外に晒すが、

しかし、稼いだ数瞬の間を使って、己の姿を隠すように、腰に帯びていた煙玉を地面に叩き付けた。




もくもく、と一面に火事のような煙。


作り出した隙。勝機。

そう考え、ルーは、小杖を四本指と指のあいだに挟み、

紋章法脚力強化を発動し、全身の筋力を高め、意識を脚に集中させる。


目的は、高く跳ぶこと。


そしてそれは果たされる。



「にゃあ!」


と啼き、彼女の姿は屋根よりも高い中空に。


月光を背後に、月の化身のように身をそらせ、


煙が充満している地上へと杖の狙いを定める。



神器『小型光射機』

全六本、全てルーことリューレアーの謹製である。




神器とは、「神器」理論とは世界を革新した理論である。


元をただせば、ある一匹の魔将が考案したとされる。その後の世界の戦争の姿を変えた兵器技術。

その偉業を讃えられ、マッフ機巧と機巧学の創始者『小鬼』とともに考案者たるその魔将は『準神』として人々から信仰されている程だ。


……


神器理論の大要とは、即ち儀式大家・刻印法の一部と儀式小家・紋章法を組み合わせたことにある。


一定の物質に器を構成し、そこにを定義・概念付けを自動で行い、外の「力」を吸収し集めるという高度な刻印を幾つか組み合わせて、刻む。


人間という存在の場合、

世界の「力」を直接使用するためには、己の魂と意識とそこにある「力」と無数の雑念があるため、

妙なる才能と、努力と、修行の末に、世界を理解し、定義し、干渉し、念じ、概念付けをして、心を没入させて、ようやく外の「力」を借りることが出来る。


しかし、魂無き物質はその限りではない。

それを発見したのが先の考案者の魔将であった。



魂無き物質に特殊な刻印、自動の発動を前提としたシンプルな刻印を刻む。

そしてそれを、人間の意志を直接介在させるのではなく、人間がその刻印と重なるように配置された紋章に己の「力」を流し込む。


それが間接的に、その刻印を発動させる。

複雑なプロセスも、世界理解も経ずに、外の大いなる「力」を使うことが出来るようになり、

後はこの物質に儀式大家・儀式法で干渉し、「力」を溜めておくことの出来る器と、溜めた「力」を操作する小さな紋章を記せば完成である。


一定の外の「力」を、外の「力」を理解出来ない者でも集めることが出来。

一定の属性、仕方にしか発動できないが一度溜めたその「力」を発動して効果を発現できる。


何回でも使える便利かつ有用な魔具。


『神器』の完成である。





「はっ!」 と唸り、自ら造った小杖を地上に向けているルー。


彼女の造った神器も勿論上記の理論に乗っ取り造られている。


その効果は単純明快。

ロード・エーサーベインの『黄金剣』と仕組みを同じくして、

その出力と範囲と発現時間を抑えたものである。


四本の杖の紋章に己の「力」を這わせ、

神器は発動する。



音無く、放たれる、「棒術用の棒」程の太さの光線が、未だ煙が充満している地上に向けて放たれる。


その数、四本。一瞬の速さで地へと到達しこれを灼く。



煙発生から、光射出、この間僅か三秒のことであった。



四本の光線は、触れただけ相手を融かすような破壊を秘めて、地上の煙の全範囲を一掃する。



指と指に挟まれた杖を巧みに操り、先ほど『潜影』が居た場所から、隠れてそうな場所、移動予測範囲をルーは光輝で凪ぐ。


数秒の照射。


屋根を高く越え、月を後ろに、黄金の髪を靡かせるしなやかな肉体の童女。


破壊の神のような醜いマスクに、空けられている空白に、しかし笑みはない。


引き締められた口は、敵を逃さぬ意志の現れか。


言葉を飲む程の凄絶な神秘美。



やがて高度の頂点に達したのか、緩やかに落下を始めるルーの身体。

しかしルーの心に安心はない。

気配が読めない。倒したのか、逃げたのか、殺せたのか、それさえも判断できない。


溜めた「力」未だ放出していない二本の杖を取り出し、構え、地上を睥睨する。



光線の威力と速度が起こした風と時間経過により、地上の煙もおおむね晴れた。

しかし地上には『潜影』の姿がない。



閃いたのは直感か。



視界の隅、見える屋敷の視線を移す。


そこにその隅、煙が晴れきっていないがその姿は隠しきれていない。




「そこかにゃッ!」


と猫が叫び、杖をそちらに向けるのと同時に、


二刀の短刀を胸の前で構え、煙が晴れ対象の位置が確認できるようになるのを待っていた『潜影』が刃を振るった。


交差する刃風と光線。


2と1。


刃は、落ちている猫の腹部と脚部に直撃した。

猫が刃風の致命を避けるためにとっさに取った空中の姿勢変更。

そして『潜影』の直感。

猫が放った光線は、『潜影』の顔面を僅かにそれ、彼の頭部全体を覆う装束の右側を掠めるにとどまった。


猫は信じられない、という表情で、しかし諦めず、歯を食いしばって。

地に墜ちる猿のごとき身のこなしをもって、空を厭うように地へと落ちていく。


そのマスクの下にあるのは真の勝機の訪れを確信する強い瞳。

腰に帯びていた最後の神器に手を掛ける。



黒面の『潜影』は、冷や汗を背中に流しながら、紙一重の勝利を確信している。

頭部を覆う装束の右耳の辺りが丁度破れている。


そこにあるのは、大きなイヤリング。


それを揺らすように、二刀を構え、ルーの下へと、駆け出す。

無音を解き、気配減衰を解き、着地紋章を解く、「力」の残量の調整のためである。

そして加速の加護を新たに掛けて、疾風の如き速度で、猫の身体が落ちた辺りに急ぐ。






庭の近く。


一瞬だ。


『潜影』は仰向けに寝て動かない少女を見る。


長耳族の少女かと思えば、その身体の大きなワンピースから見える脚と腕の筋肉は引き締まり大量の体毛に埋もれている。


しかし纏う雰囲気は粗野ではなく、神聖。


歪なマスクと花柄の頭巾、苦しげに歪められた口元。


防刃でもしているのか、腹部に当たった刃はその肉体に到達していなかった。


脚部の傷はしかし深い、赤い血が傷から流れ出ている。


う、うう。と呻くような声。


『潜影』は奇妙な後味の悪さを味わいながら、

傷の治療が出来る儀式大家の居る医院や、熟達した儀式小家の下へと急ぎ少女を運ぶことにする。



屈み、近づく『潜影』、童女を観察していく、あるのは投げ出された身体、脚、左腕……。

…………右腕が見当たらない。


猫は己の背へと、己の背の短刀型神器『ヒュプネシア』へと右腕を当てていた。

この一瞬を狙った集中。

息を止める。


意識――発動紋章――神器『ヒュプネシア』――睡眠概念付与型大気



短刀から「力」がはき出される。


睡眠の性質をもった大気が吹き出しはじめる。



しかし油断していたとは言え、『潜影』はプロだった。

失策を悟り、大きく飛び退く。


充満した催眠ガスは、しかし『潜影』にとどかない。





――あっしの勝ちにゃ。



ルーは一昨日の夜に、己があの蟹の友人に語ったことを思い出す。


『――それこそ、前衛の冒険者なら高位辺りから勝てるかどうかあやしいにゃ、

  あっし儀式小家しか使えないから詠唱中に斬られてバタンにゃ』

  


自らの魂へは先ほどから集中していた。

そこから「力」を引き出す。

無限の可能性を秘めながら、生命の魂に歪められるかのように色を所持した「力」だ。

己の内の「力」を理解している。


動かせる。何であるかが理解出来る。


想像する、大気の流動を。


想像する、大気の脈動を。


風を想う。


自らの【力】を、充満している催眠ガス――神器から放たれている「力」だったものの周囲へと動かしていく。


要領は紋章法と同じだ、違うのは、流し込む先を自分で考え、その形を自分で指示することだろう。


己の心、意識の内、魂を励起させ、想像した形、それこそ何百回、何千回もイメージした形を想う。


即ち、風へと【力】を変えていく。


――相変わらず…… 使い勝手、わるいにゃあ



意識――魂――対象:世界――儀式小家・想像法――導力・属性想像・定義「緑」――


想像法『蠢く風』




催眠ガスの周囲を囲んでいたルーの「力」が風へと変換されていく。


それは催眠ガスを巻き込み、渦を巻き、その速さ、その量を増していく。


蠢く風が、波を描くように、突風として、『潜影』の下へと飛ぶ。





油断、敵の隠し札らしきものを見切った安堵。


それがもたらした、『潜影』の最後の最後の油断。


それを巧妙に利用して、催眠ガスを纏った風は、『潜影』の下へと押し寄せた。









傷ついた脚を引きずり、荷を引きずり、ぼろぼろになったコートを肩に掛け童女は呻いている。


「いたいにゃあ」


――しかもこのコート高かったのに……にゃ


それにしても、と思考する。


「恐ろしく手強い相手だったにゃ」


間違いなく最高位冒険者の位階であろうその実力。


しかし己の情報網は、一度も黒尽くめの装束の最高位冒険者の話をもたらしたことはなかった。

つまりあれは


「秘された存在かにゃ」


何かの裏の仕事を行う者、その任に付いている者。

そういったどぶさらいの類か、と納得するルー。

こういった秘密裏の凄腕の存在を、思考の埒外に置いていたことを反省しつつ。


気を取り直して、ルーは荷車を裏口へと運ぶ。



「まあ、その強さに敬意を払って命まではとらないんだにゃ、感謝すればいいにゃ」





遠く祈りの声が聞こえる。


遠くの住宅地の教会か、深夜祭でも行われているのか、秘密の葬式か。


わからないが、しかしルーにはどうでもいいことだった。


荷を運び込んだら、傷の手当てをして、すぐにこの荷を迷宮に運び込まなければならない。

(治療用の薬草やら魔具の類には事欠かない、ポーションは戦闘中は使えないが、こういった落ち着いたときのためにあるのだ)


まずはここにある裏道使用して降りていき、


そこから幾つかの道や隠し道を経由して、一二階の、事前に準備しておいた隠し部屋で組み立てる。



一気に三度の往復で一二階とここを行き来する。


外の庭の隅で寝ている『潜影』が起きるのは五時間程、短くとも最低で後3時間は夢の中だろう。



運び込んだら、明日は一日を掛けて組み立て作業に入る。



「それでミッションコンプリートにゃ」


そう呟いたルーは、


ふと、己のワンピースにも傷が付いたことを思い出し、


――これもお気に入りだったのにゃぁ


と呟いて、口元をへの字に歪める。



「ままにゃらないものだにゃぁ。何事も」



呟く猫の他、動く者はなにもない。、


カビくさい古屋敷には、虫さえもいないと錯覚する沈黙しか存在しない。


月は変わらず白い光を放っていて、窓はランプのようなものだった。




闘争は終わったのだ。


『潜影』は外で束の間の休息に就かされ。


四つの耳をピコピコ動かす童女は、嘆いて働く。


黄金剣の騎士は祈りを捧げ。 初心者冒険者は帰ってこない同居人に怒りを抱き。


雌狐は仕事に追われて、豚人は仲間と一緒に酒を飲む。


角を生やした迷宮騎士は動き出し、迷宮主は猥雑な悦楽に耽る。


ただ一匹、なにもしていない蟹は、王墓で一人沈黙する。




ああ、陽は巡る。


陽はまた昇り、都市に再び朝が来る。


自然の摂理に変わりなく、生命の習性に変わりない。



こうして二日目の夜が更けていくのだった。





『侍女』ヅュチャ・ンヴァング


魔王領 エル・ヴァングの出身。


昆虫型高位魔族。

人の姿を真似て、侍女姿を取り。その気質、冷静で大らか、と伝わる。

触覚と複眼、外骨格と多脚がチャームポイントの美人さん。

固いが柔らかい不思議な材質で肉体を構築していたと伝わる。


元々は魔王領の独立勢力の長。

その実の姿は、強大かつ巨大な複合昆虫である。

幾度かの擬態の末にその姿を封印している。


人間に出来うる限り似せられた、擬態姿と、

その穏やかな性質が合わさり、『勇者』をもって我が軍で最も可憐であることに疑いを挟まない。

と言わしめた。


新暦では『神の僕』 世界の虫を従えていると考えられ、一定の敬意を払われている。

本人は魔王領の森林に居を構えている、という噂である。




『竜人』ガンジット


大陸西部 タンボルグ山の生まれと伝わる。


両親は不明。忌むべき混血の竜人。

竜頭を備え、人の子の如き体躯を持った女性である。

その性質は、傲慢にして不遜。冷酷であり残虐と伝わる。

岩と熱の儀式大家であった。


『有角姫』『勇者』との闘争に破れ、密約を結んで天上に対する軍勢に加わった。

正義を自認する『勇者』とは度々衝突。

双方に大怪我を負うことも少なくなかったらしい。


天上戦争においては、多くの神僕や聖獣を屠った。

万にも及ぶと言われたその殺戮は、彼女の能が範囲攻撃に特化していたことの表れでもある。

天山戦闘の前哨戦とも伝わる。神鳴谷の戦闘において『勇者』を庇い、喉とともに声を失う。


新暦においては、タンボルグ山の山頂にただ黙坐している、と伝わる。

その位は『悪魔』殺戮と恐怖の力をもって、心の弱き者に間違いを起こさせると、考えられている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ