【緊急】未来から助けを求められました。明日の婚約破棄を、なぜか当事者の私が止めます
反省しています。
ホラーとは……。ギロチン……ホラー……?
年に一度の卒業パーティー。
その晴れ舞台に、私は沈痛な面持ちで臨んだ。
「アリア!今日、この場をもって貴様との婚約を破棄する!」
「……あぁ、アリア様が睨んでいますわ。怖いです、殿下」
あ〜、ついに来ちゃいました。
私、とある公爵令嬢でして。
巷で“いつかやらかすだろう”と言われていた第一王子の婚約者をやっておりました。
やはり、市場は正しい。
幅広く世間から意見を聞くのは大事ですね、はい。
「……陛下のご判断でしょうか」
「いいや!しかし、聞けば貴様は――」
はい、有罪。
さらに罪を重ねないうちに、最短で。
巷で流行りの“時間削減”です。
「はいアウトーー!影の皆様!衛兵!すぐに回収よ!」
パンパン!
私は手を打ち鳴らし、各所に隠れていた衛兵や王家直属の影――通称ヤバい部隊(私も怖い)を呼ぶ。
「……は!?」
「え!?ちょっと待ってよ……!こんなの聞いてない……!」
第一王子と、おっと貴女もいました。
浮気相手の男爵令嬢。
「黙らっしゃい。一年後の貴女のおかげよ。感謝することね」
「は!?」
親切に教えてあげても、彼女には意味がわからないでしょうねぇ。
でも、いいの。
ウザったい頭の中の声を消すために頑張った私が、どうしても言いたかったのだ。
――さて。次よ、次。
「殿下がご乱心だわ。すぐにお連れするように」
「……な!?待て、俺は――」
そのまま見えないように口を塞がれて、ボディブローを食らった殿下と男爵令嬢は連れて行かれた。
ああ、面倒だ。
(これでいいのかしら?)
『これでいい?大粛清とやらは回避できた?』
私が投げやりに聞くと、前回よりもさらに鋭い声が返ってきた。
『黒幕は第二王子じゃなかったわ!今すぐその場から立ち去って!私を連れて走って逃げて!』
走れ?このドレスの格好で?
無茶言うな。
しかも貴女、すでに連行されているし。
どうしましょう、私だけ逃げようかしら。
仕方なく、ここで一番目立つ騎士に声をかけた。
「申し訳ありません!ショックのあまり持病が……。急いで馬車まで連れて行ってくださらない?」
「ええ。大丈夫ですか?……失礼します」
端正な顔立ちに、一般人ではないと、ぴんと来てしまった。
お忍びか、馬鹿の監視か知らないけれど、ここに大物がいたわ。
「まあ……王弟殿下?」
「久しぶりだね?リリア」
「アリアですわ。えーーと……エドワード殿下」
「ああ、すまないアリア。因みにジェームズだね。エドワードは陛下だ」
そうでした。
王族の名前なんて似たり寄ったりですし、間違えても仕方ないわ。
『王弟!?その男が黒幕だって……!駄目よーー!』
まだ叫んでいるわ。
助けてあげたのに、今度は黒幕?
説明が下手なのよ、貴女は。
『うるさいわね。なに?ギロチンにでも立たされてるわけ?』
結局、私を抱き上げてくれたのは王弟殿下だった。
高貴な方を煩わせるなんて忍びない。
けど、ロイヤルだわ。
まだ二十代ぎりぎりでしたっけ?
うーーん、余裕で有りだわ!有り寄り過ぎて無しがゼロだわ。
『……この悪役令嬢が……!恨んでやるわ……!』
『ええ、どうぞ。別に最初からあなたの人格なんて信じてもいないし、ご勝手に』
――ザシュッ!
どこか遠くで何かが切れる音と水音が聞こえた気がした。
まあ……私には関係ないわね。
一年後の男爵令嬢の末路なんて。
下手したら、“あの子”は一ヶ月後には同じ末路かもしれないんだもの。
『結局、短絡的なあなたが自分の首を落としてるだけじゃない』
もう声が返ってこない。
よし。これでようやく眠れるわ。
ずーーっと喚いていて煩かったんだもの。
……さようなら。生まれ変わっても安眠妨害はしちゃ駄目よ。
少しだけ、しんみりしたような……しないような空気が流れた。
でも……抱き上げられるなんて初めて――。
さすがの私も、心が疲れたみたい……。
逞しい胸に身を預けようとした瞬間。
そんな気分をぶち壊す声が、再び頭に響いた。
『ねぇ!助けて!私、貴女を追い詰めるつもりはなくて!このままじゃ、私は消されちゃうわ……!』
おいおいおい!
いや、ザシュ!で終わったよね!?
なんでまた始まるの!
さっきと同じ、男爵令嬢の声だし!
……んん~?
あ、もしかしたら“今の彼女”?
考えても、しかたないかしら。
よくわからない原理だわ……。
でもそれなら、一回目よりは長くないかぁ。
王弟殿下までいたしね。
『あ、王子もそのうちそっちへ行くわよ。さようなら』
『ちょ、ちょっと話を聞いて……!お願いよ』
聞きたくないけど、どうせ勝手に嘆いてくる。
「……はあ。本当に浮気者って……最悪……」
「ははは。あの小さなお嬢様がこんなに重たくなって……。悪かったね、うちの甥が迷惑をかけて」
しまった。つい、愚痴が口から溢れていたみたいだ。
でも、え〜と……ジェームズ殿下の声が少しだけ脳内の喚き声を遠ざけてくれたのだった。
――でも、重たくなっては酷いです。王弟殿下。
◇◇◇
「すまなかった」
「騙された」
「君は私を愛しているだろう」
はい、いただきました。
定番の三連コンボ。
ではこちらは、必殺コンボで参りましょうか。
まずは牽制の一発。
「あぁ、婚約破棄のやり直しをお願いします。横やりを入れてしまって申し訳ありません。全部聞きますから、ここでどうぞ。確か……私が男爵令嬢を虐めた所で終わりましたっけ」
「違う!アレは忘れてくれ。お願いだ」
ふむ。責任転嫁と謝罪ばかりでダメージを食らわない生き物みたいだ。
横へ受け流すのが上手すぎる。
「うーーん。私に権限がありませんし?継承権争いに巻き込まれ、哀れに散った男爵令嬢が……。元殿下の背後に立っていますよ」
「は!?」
「ほら」
私は王子の肩の方を指さす。
「……やめろーー!!」
王子は頭を抱えて絶叫した。
ま、嘘だけど。
反省しときなさいな、王子様。
一時期、勝手に脳内に住み着いていた彼女への手向けである。
必殺技はホラーだったよ、ほら。
でも、立ち去る時に一瞬だけ、本当に見えてしまった。
元王子の首に腕を絡ませる男爵令嬢が……。
いやいや。
やめてくれ。
私の視界までおかしいの!?
1ヶ月後。
(はあ……。私って呪われているのかしら)
『助けてください!貴族牢で世話係をしているメイドです!毎晩、元王子に迫られて困っています』
『……まぁ。それは可哀想に。でも、普通は女性を近づけるわけがありませんが』
『……王妃様が『可哀想だから』と』
――というわけで。
会いたくないのに、また王子の前に立った。
あ、元王子でした。
「お久しぶりです、元王子。とりあえず切り取りましょうか、それ」
「は?」
ソファに寝そべっていた彼が、ぽかんと口を開いた。
まったく。
名ばかりの“牢”だわ。お菓子まであるじゃない。
なにも分かっていないらしい元王子に、最低限の説明をしてあげる。
「貴方と関わった女性から、助けを求められて困っているのです」
私は、必死なメイドを助けるために迅速に対応した。
――ついでに、この元王子の助命のためでもある。
メイドは助かるでしょう。
ですが――。
新たに王太子を立てた“彼”がこのまま許すとは思えない。
元王子は、時間の問題でしょうね……。
私の背後には、王宮医が三人並んでいる。
もちろん手配済み、許可も下りているわ。
でもこれで、この人に不幸にされた女性はいなくなるかしら?
――そういえば。
ああ、ずっと背中に抱きついていた男爵令嬢がいないわね……。
きっとお花畑で待っているでしょう。真実の愛はそこで叶いますかね?
廊下に出ると、心配げに眉を寄せて話しかけてくる人がいた。
ずっとここで待っていたらしい。
大概、この人も過保護な気がする。
私の本性を知っているのかしら?
とある人が言ったように、冷酷で図太い悪役みたいな令嬢なのにね。
「アリア。君が前に出なくても――」
大きな手が優しく肩を叩いてくれる。
ふふふ。
誰かは内緒。
私の真実の愛――?
その答えは、高い場所にあるお花畑でわかるのかもしれないわ。
夏。ホラーです、ほら。寒くなります……。
お目汚し失礼しましたーー!(泣)




