第五話 焚き火
夜。
森の中。
小さな焚き火が揺れていた。
クロエとアイリスは
倒木に腰を下ろしている。
焚き火の上では
小さな鍋が火にかけられていた。
中には
兵士の荷物から見つけた
干し肉と保存野菜。
アイリスが
木の枝で鍋をかき混ぜる。
「……兵士って」
「結構いい物持ってるのね」
クロエは
焚き火を見ながら言う。
「助かるな」
兵士の袋には
干し肉。
乾パン。
保存野菜。
簡単な調理器具まで入っていた。
魔女討伐の遠征用だろう。
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アイリスが
小皿にスープをよそう。
そして
クロエに差し出す。
「はい」
クロエは
受け取る。
湯気が立っている。
クロエは
少し見つめてから
一口飲んだ。
しばらく沈黙。
アイリスが聞く。
「どう?」
クロエは
少し考えて言った。
「……うまいな」
アイリスが笑う。
「何その反応」
クロエは
もう一口飲む。
「久しぶりだ」
アイリスが首を傾げる。
「久しぶり?」
クロエは
焚き火を見る。
「目が覚めてから」
「スライムとか」
「ゴブリンとか」
「森の実とか」
「そんなのしか食ってない」
アイリスが
少し引いた顔をする。
「……よく生きてたわね」
クロエは
肩をすくめる。
「多分」
「体が丈夫なんだろ」
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しばらく
二人は黙って食事を続けた。
森には
虫の音が響いている。
焚き火が
パチッと音を立てた。
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やがて
アイリスが口を開く。
「ねえ」
クロエが答える。
「何だ」
アイリスは
少し迷ってから言った。
「あなた……」
「本当に魔女なの?」
クロエは
少し考えた。
そして
肩をすくめる。
「多分」
アイリスが呆れる。
「多分って何よ」
クロエは
焚き火に枝を投げる。
火が小さく弾けた。
「気づいたらこうなってた」
アイリスは
しばらくクロエを見ていた。
そして
小さく笑う。
「変な人」
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少し沈黙が流れる。
やがて
アイリスが
自分の髪に触れた。
黒髪。
焚き火の光で
赤く揺れている。
アイリスが言う。
「黒髪」
「黒髪ってだけで」
「殺されるのよ」
クロエは
黙って聞いていた。
アイリスは
続ける。
「魔女は危険」
「世界を滅ぼす」
「人類の敵」
アイリスは
苦笑する。
「でも」
「私たちは」
「ただ魔法が使えるだけ」
クロエは
静かに言う。
「知ってる」
アイリスが
クロエを見る。
クロエは
森の奥を見ていた。
「本で読んだ」
「昔は魔女が世界を守ってた」
アイリスの目が
少し大きくなる。
「その本の話...」
「本当?」
クロエは
小さく頷く。
「多分な」
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焚き火が
パチッと音を立てる。
クロエが言う。
「で」
アイリスが顔を上げる。
「何?」
クロエは
普通の声で聞いた。
「お前はどうする」
アイリスは
少し困った顔をする。
「どうするって?」
クロエは
淡々と言う。
「教会はまた来る」
「俺も追われる」
「お前も追われる」
クロエは
焚き火を見る。
「だから」
「一緒に来るか?」
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アイリスは
少し驚いた顔をした。
「誘ってるの?」
クロエは
肩をすくめる。
「一人より楽だろ」
アイリスは
少し考える。
そして
笑った。
「変な誘い方」
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少しして
アイリスは頷いた。
「……いいわ」
クロエは
特に驚かなかった。
「そうか」
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アイリスが
クロエを見る。
「でも」
クロエが聞く。
「何だ」
アイリスは言う。
「あなたの魔法」
「本当でたらめ」
クロエは
目を細め少し笑う。
「そうか?」
アイリスは
真顔で言う。
「詠唱なし」
「魔物の魔法」
「魔法融合」
「全部ありえない」
クロエは
しばらく黙る。
そして
小さく言った。
「そういうもんらしい」
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夜は
ゆっくりと更けていく。
焚き火が
静かに揺れる。
森の奥では
風が木々を揺らしていた。
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アイリスが
ふと聞く。
「ねえクロエ」
クロエが答える。
「何だ」
アイリスは
焚き火を見ながら言う。
「これからどうするの?」
クロエは
少し考える。
そして
静かに答えた。
「とりあえず」
クロエは
森の奥を見る。
「生きる」
そして
小さく笑う。
「面白そうだしな」
⸻
続く




