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タクシー運転手×異世界転生_隔勤転生 ~異世界でも俺は走り続ける~  作者: もしものべりすと


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第二十章 黒沢の過去

封印の塔の内部は、暗かった。


 松明もない。窓もない。ただ、どこからか——かすかな光が、差し込んでいる。


 道明は、階段を上っていった。


 一段、また一段。


 上に行くほど——空気が、重くなっていく。


 そして——最上階に、着いた。


 そこには——檻があった。


 鉄格子で造られた、大きな檻。


 その中に——光る球体が、浮かんでいた。


 十一柱目の神霊だ。


「……お前が、十一柱目か」


 道明が、声をかけた。


『……誰だ』


 声が、響いた。


 弱々しい声。長い間——囚われていた者の声。


「俺は、神崎道明。神の御者だ」


『御者……? 御者は、もういない……百年前に……』


「俺は、異世界から来た。新しい御者だ」


『異世界……?』


 光る球体が——かすかに、揺れた。


『……本当か……?』


「ああ。——助けに来た」


 沈黙。


 長い沈黙。


 そして——


『……ありがとう……』


 声に、涙が混じっていた。


『ずっと……ずっと、待っていた……誰かが、来てくれることを……』


「待たせて、悪かった」


『いや……来てくれただけで……十分だ……』


 道明は、檻に近づいた。


「出してやる。——どうすればいい」


『この檻は……「闘争の御者」の力で……造られている……普通の方法では……開かない……』


「じゃあ、どうすれば——」


『お前の……功徳を……使え……』


「功徳?」


『そうだ……お前の中にある……神霊たちの力を……集中させろ……』


 道明は、右手を檻に向けた。


 紋章が——光り始める。


 十柱の神霊の力が——一点に、集中していく。


「——解放しろ」


 光が、檻に流れ込んだ。


 鉄格子が——溶けていく。


 そして——


 光る球体が、檻から飛び出した。


『……自由だ……!』


 球体が、道明の周りを飛び回った。


 喜びに満ちた、踊るような動き。


『ありがとう……御者よ……本当に、ありがとう……!』


「礼は、後でいい。——十二柱目は、どこだ」


 球体の動きが、止まった。


『……十二柱目は……ここにはいない……』


「どこにいる」


『……「闘争の御者」の……馬車の中に……囚われている……』


「黒沢の馬車、か」


『そうだ……彼は……十二柱目の力を……吸い取っている……自分の力にするために……』


 道明の目が、細くなった。


「黒沢は、どこにいる」


『……本丸だ……皇帝の隣に……常にいる……』


「わかった。——乗れ」


 道明は、球体に手を伸ばした。


 球体が——道明の身体に、流れ込んでいく。


 十一柱目。


 あと一柱。


「行くぞ」


 道明は、塔を出ようとした。


 だが——


「待てよ、神崎さん」


 声が、響いた。


 道明は、振り返った。


 階段の途中に——黒沢が、立っていた。


「よく来たな。——待ってたぜ」


         ◇


 黒沢は、変わっていた。


 前に会った時よりも——力が、増している。


 その身体から——黒い靄が、立ち上っている。


 禍々しい力。十二柱目の神霊を吸い取った力。


「お前、随分強くなったみたいだな」


 道明が、言った。


「ああ。——お前が、グズグズしてる間にな」


 黒沢が、笑った。


「十二柱目の力、最高だぜ。——これで、俺は無敵だ」


「無敵、か」


「そうだ。——誰にも、負けない」


 黒沢が、一歩、前に出た。


「なあ、神崎さん。——俺の話を、聞いてくれるか」


「話?」


「ああ。——俺の、過去の話だ」


 道明は、黙っていた。


 黒沢が、続けた。


「俺は、ずっと——誰にも必要とされなかった」


「……」


「親に捨てられた。友達もいなかった。学校でも、会社でも——誰も、俺を見なかった」


 黒沢の声が、低くなった。


「タクシー運転手になったのは——他に選択肢がなかったからだ。最底辺の仕事だと思った。誰でもできる、価値のない仕事だと」


「……」


「でも、売上が良かった。初めてだった——何かで一番になるなんて。俺は——認められたんだ」


 黒沢が、道明を見た。


「でも、それだけじゃ足りなかった。——もっと、もっと上に行きたかった。もっと、もっと——認められたかった」


「だから、客を——」


「そうだ。客なんて、金づるだ。俺を認めてくれるのは、売上だけ。——客の顔なんて、どうでもいい」


 黒沢が、両手を広げた。


「この世界に来て——全てがわかった。俺が本当に欲しかったのは——『力』だ。誰にも負けない、圧倒的な力。——それさえあれば、誰も俺を見下さない」


「……」


「お前には、わからないだろう。ずっと——『普通』で生きてこられた、お前には」


 道明は、黙っていた。


 しばらく、沈黙が続いた。


 そして——道明が、口を開いた。


「お前の気持ちは、わからん」


「だろうな」


「だが、一つだけ——言えることがある」


「何だ」


「お前は、間違えた」


 黒沢の目が、細くなった。


「何だと」


「力を求めることは、悪いことじゃない。認められたいと思うことも、悪いことじゃない。——だが、お前は——」


「俺は?」


「客を、道具にした」


 道明の声が、低くなった。


「タクシー運転手の仕事は、客を目的地まで送り届けることだ。客は——金づるじゃない。困っている人だ。助けを必要としている人だ。——お前は、それを忘れた」


「……」


「御者も、同じだ。乗客を、目的地まで送り届ける。それが、俺たちの仕事だ。——神霊を吸い取るのは、御者の仕事じゃない」


 黒沢の顔が、歪んだ。


「……うるせえ」


「お前は、まだやり直せる」


「やり直す? 冗談じゃない」


「十二柱目を——」


「黙れ!」


 黒沢が、叫んだ。


 その身体から、黒い光が噴き出した。


「お前の説教なんて、聞きたくない! 俺は——俺のやり方で、生きる!」


「黒沢——」


「戦え、神崎さん! 俺と——決着をつけろ!」


 黒沢が、手を振った。


 その瞬間——塔が、崩れ始めた。


「くそ——!」


 道明は、崩れる瓦礫を避けながら、塔から脱出した。


 外に出ると——黒い馬車が、待っていた。


 黒沢の馬車。


 そして、その向こうには——


 天輪号。


 リーゼルが、御者台に座っていた。


「道明さん!」


「リーゼル! なぜ、ここに——」


「待っていられませんでした! ——行きましょう!」


 道明は、天輪号に飛び乗った。


「黒沢——!」


「逃がさねえよ!」


 黒沢の馬車が、動き出した。


 天輪号も、動き出した。


 二台の馬車が——走り始めた。


 最終決戦が、始まった。

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