6.もう恋人を逃がさない。 sideノア
早くエラに会いたい。
エラを落札した後、僕はマックにオークション主を早急に呼ぶように伝えた。
そしてはやる気持ちを抑えながらもオークション会場内の舞台袖を目指して僕は移動を始めた。
「2560番様!この度はご落札いただきありがとうございます!」
そんな僕の前にオークション主が上機嫌な様子で現れる。
中年の身なりのいい男。
貴族ではないが、おそらくここ数年力をつけてきたライト商団の男だろう。
何故たった数年でここまで大きくなったのかは一目瞭然だ。
その告発についてはまた今度にしてやろう。
今はエラが第一だ。
「とても美しい女ですよ!きっと近くで見るとますます気に入るかと!」
僕の横でオークション主が上機嫌に喋り続ける。
「今回ご落札された女が1番の美女でごさいますが、他にも当店は粒揃いでございます!今回の女とセットで愛でるのもよし、傷めるのもよし、様々な用途がございますよ!」
「そうですか」
オークション主の話を半分聞きながら半分流す。
エラのついでにまだ誰かを買わせたい欲が丸見えだ。
僕はエラだからこそ買ったし、エラしか愛でるつもりはない。
オークションの舞台袖に着くとそこには夢にまで見たエラが檻の中にいた。
「エラ」
思わずエラの名前を呼んでしまう。
エラは思わぬところから僕に名前を呼ばれて驚きの表情を浮かべた。
ルビーの瞳がまた僕を捉える。
「どうです?近くで見ればますますその美しさが際立つでしょう。エラと名付けられたのですか?」
「…彼女には名前がないのですか?」
「ええ。彼女はうちの商品ですのでそのようなものはございません」
「…そうですか」
上機嫌なオークション主の言葉に僕の心はどんどん重くなっていく。
僕から逃げて彼女の身に何があったのか。
あんなにも美しく可憐だった彼女は今の今までもののように扱われて生きてきたのか。
彼女は蝶よりも花よりも丁寧に扱われなければならないのに。
やはり彼女にもう自由を与えてはいけない。
「…エラ」
僕の仄暗い感情がエラに伝わってしまわないように、昔のような優しい笑顔を僕は浮かべる。
「ねぇエラ。何故君がここにいるのかはわからない。だけど君を買ったのは僕だ。君はもう僕だけのものだ」
そしてたった今僕のものになったエラの頬に優しく触れた。
エラに触れた指先からエラの温もりを感じる。
それだけで僕の指先は喜びで震えた。
「会いたかったよ、エラ。もう二度と逃がさないからね」
今度こそ君を美しい花園に閉じ込めてしまおう。
エラは僕に微笑まれて不安げに僕を見つめた。
*****
それから僕はすぐにエラを檻の外に出した。
そしてエラの腰を抱いて、迎えの馬車まで歩き始めた。
僕の隣を歩くエラは終始周りを確認しており、まるでここから逃げ出そうとしているみたいだった。
だが、もう逃すものか。
一度その手を離して5年も君を探し続けた。
エラのいない日々には色が一切なかった。自分が何の為に生きているのかわからなくなった。
エラは僕の全てだ。
もう僕の全てを失うわけにはいかない。
「…あの」
おずおずとこちらを伺うようにエラが僕を見つめる。
「…ん?」
僕は昔と変わらず優しくそんなエラを見つめ、次の言葉を待った。
「さっきオーナーが私の名前はないって言っていたけど本当はあるの、私の名前」
昔とは違う話し方。
僕の知っているエラならこんな砕けた話し方はしない。
「私の名前はオフィーリアっていうの」
僕をまっすぐと見つめるルビーの瞳。
また僕をまっすぐ見つめて嘘をつくのか。
「…オフィーリア。それが君の本当の名前なの?エラ」
エラにそう問いかければ、エラはほんの一瞬だけ左側を見て「うん」と短く返事をした。
彼女には昔から嘘をつく時にだけやる癖があった。
ずっと彼女だけを見てきたからこそそんな小さな癖でさえも僕は知っていた。
「そう。僕のエラはね、嘘をつく時に一瞬だけだけど左側を見るんだ。今見ていたでしょ?」
「…」
エラに僕は微笑む。
優しく笑っているつもりだが、もしかしたら僕の苛立ちがエラに伝わってしまったのかもしれない。
エラは笑顔だが、どこか緊張した趣でこちらを見ていた。
「…嘘なんだね」
どうしてエラは嘘をつくのだろうか。
そんなに僕から逃げたいのだろうか。
だから恋人であるエラではないと主張するのだろうか。
早く自分こそが僕の恋人のエラだと認めさせようと微笑んでみたが、エラは予想外のことを口にした。
「…そうだよ。本当はクロエっていうの」
不自然な笑顔をエラがこちらに向ける。
もう誰が見ても嘘をついているとわかる表情だ。
「…」
一瞬で自分から表情が消え去りそうになったが、それを我慢して僕は笑みを深めた。
僕は彼女の王子様なのだから。
王子様は優しく微笑むものだろう?
オークション会場を出た先に僕を待っていた馬車が現れる。
僕の周りにいた護衛の1人がその馬車の扉を開けた。
そして僕はそのまま乱暴にエラをその馬車の中に押し入れた。
「エラ。君の嘘にはもう騙されないよ。さっきも言ったけど僕は君を買ったんだ。君はもう僕のものだからね。それだけはちゃんと自覚して」
ルビーの瞳が戸惑いで揺れている。
僕はそんなエラなんてお構いなしに馬車に乗った。
エラを閉じ込める檻を作ろう。
檻といっても本当に檻に入れるつもりはない。
檻という名の城を作るのだ。
そこにエラを閉じ込めてもう逃げられないようにしてしまおう。
この美しい絹のような銀の髪も、ルビーのように輝く真紅の瞳も。
全て全てが僕のものだ。
もう誰の目にも触れさせない。
これから先の幸せな未来のことを思いながら僕は小さく笑った。
愛しているよ、エラ。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!




