5.探し続けた恋人は檻の中。 sideノア
美しい思い出からまたエラのいない辛い現実に戻ってくる。
僕は手に持っていた資料を軽く整理して机の端へ置いた。
彼女と離れることは何よりも耐え難いことだった。
だが、彼女は隣国の貴族だ。
いつかは帰らなければならない。
だから僕はいつか彼女を婚約者としてこの国へ向かえる為にたくさん準備をした。
毎日手紙を書いたし、週に一回は花束を送った。
エラから返事がないことに焦燥感を抱いたが、約束の二週間後に本人に直接会って理由を聞けばいいとその時は我慢した。
しかし僕はこの時まだ知らなかったのだ。
エラという隣国の貴族は最初からいなかったということを。
エラが帰国して二週間後。僕はエラに会いに行った。
でもそこにはエラはいなかった。
確かにエラの家はあった。
だが、そこには〝エラ〟という貴族はいなかったのだ。
そこで僕は気づいてしまった。
あの僕の目の前で笑っていた美しく可憐なご令嬢は偽りの姿だったのだと。
城へ帰ってエラの情報という情報を全て調べた。
しかしその全てがでたらめで嘘の情報だった。
エラが消えて1年目、隣国中の貴族からエラを探した。
2年目、隣国中の平民からエラを探した。
3年目、自分の国の貴族、4年目、自分の国の平民。
ずっとエラを探し続けたが、それでもエラは見つからなかった。
だから今はまた自国の全ての者をもう一度調べ始めているところだ。時間さえあれば自分で探しに行くこともある。
ここまで探しても見つからないということはエラはきっと意図的に僕から身を隠しているのだろう。
「ノア様、そろそろオークションの時間でございます」
「ああ、もうそんな時間か」
マックに言われて今日の最後のスケジュールを思い出す。
今日は違法に人身売買をしているオークションに潜入し、貴族たちの目星を付ける仕事があった。
ここを摘発することができればこの国からまた一つ犯罪がなくなる。
王子直々に行くのはどの貴族も今は信用ならない状況だからだった。
「行こうか、マック」
「はい、ノア様」
僕は軽く身支度を整えてから執務室を出た。
本当はこんなことをしている場合じゃないが、仕方ない。
この国の王子である以上、最低限の仕事はしなくては。
*****
「さあ、本日の目玉はこちらの美女!銀の髪はシルクのように美しく、瞳は燃えるルビーのような輝き!肉付きもほどよく歳は19歳!こちらの美女、お値段は100万ルーから!」
人身売買オークションの司会が煌びやかな会場の舞台で声高らかにそう言って檻の中で座っている女を会場中にアピールする。
檻の中に座っている女に僕は目眩を覚えた。
「何と美しい娘だ!」
「欲しい!」
「愛妾にいい!」
「私の奴隷にするぞ!」
会場はそんな僕をよそに大いに盛り上がる。
美しいのなんて当たり前だ。
彼女より美しいものなんてこの世には存在しない。
何故なら彼女こそが僕のエラだからだ。
檻の中にいる彼女は5年前の可憐な少女ではなく、艶を帯びた大人の女性に成長していた。
あの美しい絹のような銀髪。
あのルビーのような輝きを放つ瞳。
僕のエラだ。やっと見つけた。
「さあ、それでは皆さん!オークションスタートです!」
「105万ルー!」
「110!」
「150万!」
エラのオークションが始まる。
ここにいる貴族たちは皆、彼女に邪な目を向け、いくらで彼女を買うか争っている。
僕から身を隠している間にこんな視線に何度彼女は晒されたのだろうか。
やはりもう彼女は僕が匿うしかないだろう。
それが1番だ。
「1200!」
「1250!」
「1300!」
どんどん彼女の値は上がっていく。
エラに値段など付けられないが、もし僕が彼女を手に入れられるのならまずは…
「1億ルー」
僕は自分の札を上げてエラに相応しい数字を言う。
これは最初の数字に過ぎない。ここからいくらでも出そう。
会場が先ほどの熱は嘘だったかのように静まり返る。
そして僕の提示した金額にざわざわと騒がしくなり始めた。
檻の中からルビーの瞳がこちらを見つめている。
その顔には驚きの色が見えた。
ああ、やっとルビーのその美しい瞳が僕を捉えてくれた。
「…い、1億ルー。他の方で1億ルー以上の方は…」
司会者が会場中を見渡すが、誰も声をあげない。
「それではこちらの美女、2560番の方により1億ルーで落札です!」
そして僕はエラを落札した。




